展示の概要

現実世界と計算機の中の世界を区別することがなくなる未来、
私たちはどんな自然観や世界観を抱き、どんな「問い」を見出すのでしょうか。

私たちが作り出した計算機(コンピューター)はいまやこの世界に溢れ、それらがつくりだす世界の解像度や処理能力は、私たち人間がもつ知覚や知能の限界を超えつつあります。近い将来、元来の自然と計算機の世界がつくりだす自然の違いはますます薄れてゆき、その違いを意識すらしない、未来の私たちにとって「新しい自然」が現れるでしょう。
計算機の中と外、それぞれの自然が一体化した大きな自然を想像しながら、そのとき、私たちの自然観や世界観がどのように変わり、どんな「問い」を見出すのか考えてみましょう。

展示の種類
イノベーション
体験できる場所
3階(未来をつくる)
総合監修
落合陽一
シンボル展示「計算機と自然」
計算機と自然、計算機の自然

展示の補足解説をご覧いただけます。

私たちが作り出した計算機は、いまやこの世界に溢れ、あらゆるところに存在しています。計算機の中にも自然があります。そして、元来からある外の自然と近づいてきています。計算機の中と外それぞれの自然はやがて合わさって、大きな自然を作りつつあります。こうして新しい自然が作られたとき、それは私たちにどんな問いを示すのでしょうか。

クレジット

総合監修・アートディレクション:落合陽一 (メディアアーティスト、筑波大学)
空間デザイン:noiz
空間実施設計・施工:株式会社つむら工芸
展示物設計・制作:株式会社TASKO、株式会社つむら工芸
映像コンテンツ設計・制作:株式会社ホーダウン

この展示は、私たちの空間認識における光と視覚について、みなさんに問いかけています。宙に浮かぶ黒いオブジェは、書家の紫舟氏が書いた三つの図形を元に作られています。かつて、江戸時代の禅僧・仙厓和尚はこの「○△□」という抽象的な絵を描き、見る人がさまざまに思考をめぐらすことを期待したといいます。

私たちは物体そのものではなく、反射した光を見ています。ですが、私たちの脳はその反射光というわずかな情報を頼りに、物体を見ています。光は空間を認識するには十分な情報とは言えませんが、私たちの脳は「影は物体の下にできる」や「○○の大きさはこれくらい」などの条件によって最も確からしい答えを求めています。

関連するキーワード

光/フォトン/視覚/空間認識/コンピュータグラフィクス/仙厓義梵

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書:紫舟
協力:ターナー色彩株式会社

計算機の世界にも「木」と呼ばれるものがあります。「木」は節点(ノード)と呼ばれる点とそれらを結ぶ枝(エッジ)から成り立ちます。植物の木と同じように、根から葉へと枝分かれをしており(根ノード、葉ノードなどと呼ばれます)、また「木」が複数あれば「森」と呼びます。「木」はなんらかのデータ構造を表す方法として使われますが、特に予測や分類を目的としたものを「決定木」と呼びます。

決定木の節点それぞれには質問が入り、それに対する答えによって分岐をしていきます。根ノードから始めてどの葉ノードにたどり着いたか、それによってデータを分類できます。また、こうした「決定木」を、膨大なデータを分析して作り上げるのも計算機の仕事です。木の構造として表されることで、私たち人間が膨大なデータから要点を理解するときの手助けになります。

質問を繰り返すことで、そのデータがどのグループに分類されるかを決定するため、うまくデータを分離できる質問ほど良い質問といえます。その質問がどれだけ適切かを示す指標として、「平均情報量」が用いられます。平均情報量はエントロピーともいわれ、データの乱雑さを示すものです。乱雑であれば1に近づき、データがまとまるほどに0に近づきます。つまり、平均情報量を0に近づけるような決定木を作ることが目標です。

この展示では、意思決定を助ける日本古来の方法ともいえる「おみくじ」を題材に決定木を作りました。この決定木の枝ぶりはいかがでしょう。私たちが「盆栽」の枝ぶりを鑑賞するのと同じように、計算機は決定木を評価しているのでしょうか。

根ノードから葉ノードへと枝分かれする「木構造」によって、データは分類されます

関連するキーワード

木構造/決定木/平均情報量/おみくじ/盆栽/統計

「2次元フーリエ変換」は、画像データを波と捉えて分解する方法です。画像は湖面に広がる波面に例えられます。グレースケール画像であれば、白から黒の濃淡が波の高低にあたります。波が立てば、画像には縞模様が見えるでしょう。縞の間隔は、狭いものもあれば、広いものもあります。左右方向の波もあれば、上下もあります。さまざまな波同士が重なりあうことで、一つの画像は描かれます。

「2次元フーリエ変換」は画像処理の基礎的な手法の一つであり、画像圧縮にも応用されています。画像にはさまざまな周波数を持つ波があり、そこには人間の目にはほとんどわからないような高周波の波(細かい縞)もあります。そうした人間の認識には不要な情報を減らすることで、データを圧縮できます。

画像は、濃度の波が縦方向と横方向に重なったものであり、「2次元フーリエ変換」によって周波数ごとに分解されます

関連するキーワード

ピクセル/解像度/二次元フーリエ変換/波/画像処理/エドワード・マイブリッジ/高柳式テレビ/レナ/スタンフォードバニー/スタンフォードドラゴン/ユタ・ティーポット/コーネルボックス/キャットペーパー/初音ミク

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画像提供:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社
協力:静岡大学高柳記念未来技術創造館

「百聞は一見にしかず」と古くから言われますが、デジタル複製技術(カメラやディスプレイ、印刷など)の発達した現代もしくは将来においては、見えるだけでは不十分かもしれません。ここにある畳や百人一首の札、そして竹製の花器は印刷物です。畳の凹凸や竹の質感まで感じられるようですが、触ってみれば、それが錯覚であることが分かるでしょう。

これらの印刷物には、特殊なスキャニング方法が使われています。解像度(面積当たりの画素数)が非常に高いことももちろんですが、撮影時に光の当て方を工夫することで、表面の凹凸によってできる影を際立たせています。私たちは、そんな小さな影から凹凸を感じてしまっているのです。

関連するキーワード

デジタルコピー/スキャニング/百人一首/テクスチャー/知覚心理

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特別協力:ニューリー株式会社
協力:ピーター・ジェイ・マクミラン

なんらかの出来事が無作為に発生する場合に、その結果(サイコロの出た目や実験の観測値など)とその結果の起きる確率をグラフや数式として表したものを「確率分布」といいます。確率分布には、その出来事の特徴に合わせてさまざま分布があります。例えば、サイコロの目のように1から6まで同じ確率で発生する「一様分布」や、平均値を中心に左右対称で中心から離れるほどに確率が低くなる「正規分布」などがあります。

データを集めれば、それがどんな分布に従っているか、そこにどんなルールがあるのかわかります。自然界のさまざまな現象は「正規分布」によく当てはまると言われます。降水量や日照時間、私たちの身長、体重、それにあなたの行動だって例外ではありません。

人が5秒を数えるときに計測された実際の時間を横軸、発生する確率を縦軸としたグラフは正規分布に近づきます

関連するキーワード

確率分布/正規分布/ガウス過程/統計/ビッグデータ/オペレーションズリサーチ

「サポートベクトル分類器」はデータの分類のための機械学習手法です。例えば、花の品種を分類したいとき、花弁の長さやがくの幅といったさまざまなパラメーターをもった大量のデータをもとに学習をし、品種間の境界をあらかじめ定めます。そして、どちらの品種かわからないデータがきたとき、分類器は定めた境界をもとに判定を下すことができます。

境界を見つけるときに、「カーネル法」という非線形変換を用いて高次元空間にデータを写像する手法がよく用いられます。これにより、線形分離(一本の直線で分離をすること)が不可能な場合でも、精度よく境界を見つけることが可能です。

データに新しい次元を加えることで、「サポートベクトル分類器」による線形分離が可能になります

関連するキーワード

プログラミング言語/C言語/if文/for文/while文/switch文/SVM/カーネル法/分類器

この木の枝でできた構造物は、計算機の力を借りて作られました。これまで木材として活用されていなかったような不揃いな枝ですが、その形をコンピュータに取り込んで、目的の形にするための最適な組み合わせ方を計算させます。枝同士の組み合わせ部分は、コンピュータ数値制御(CNC)によって機械が自動でくぼみを彫ります。後は順番に枝を組んでいくだけで完成です。

このように、計算機科学の応用によって、現在の広く使われている規格化された工業製品の作られ方とは、まったく異なる新しいものづくりが可能になります。

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規格化/コンピュータ数値制御/最適化/自然物のばらつき/工業製品

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連携研究者:吉田博則(東京大学、株式会社Preferred Networks)、ラルスン・マリア(東京大学)

通常の鉄琴では、長方形の音板を持ち、長い板は低い音、短い板は高い音を奏でます。音板の形や大きさによって奏でる音が決まるため、形状を自由にデザインすることは、人間にとっては難しいものです。しかし計算機なら、音板の素材や形状をもとに発生する音をシミュレーションすることができます。計算機でリアルタイムに音の高さを確かめながら音板を設計できれば、楽器のデザインはより自由になります。展示されている鉄琴は、ド・レ・ミそれぞれの音の周波数を形にしてできた鉄琴です。

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コンピュータ加工/周波数/固有値/楽器/インタラクティブ設計

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連携研究者:梅谷信行(東京大学)

砂時計の中に入っているのは、大きさが0.2x0.125 mmの積層セラミックコンデンサという小さな電子部品です。この部品は1台のスマートフォンに約700個使われており、世界中で一年間に2兆個以上もの数が生産されています。

身の回りに何千何万というコンデンサがあるということを気に掛けている人がいないように、それらから作られる計算機もさらに小さく、その存在感は私たちにとって、ますます希薄になるに違いありません。

関連するキーワード

電子回路と電子部品/積層セラミックコンデンサ/クロック/ナノマシン/MEMS

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特別協力:株式会社村田製作所

樂焼は安土桃山時代から代々受け継がれる日本の伝統工芸です。初代長次郎の茶碗は千利休による茶道の完成に貢献しました。樂茶碗は現在まで日本の茶道を支え続けています。樂茶碗はろくろを使わずに職人の手によって形成される「手づくね」という技法で作られ、ひとつひとつの茶碗が独特の形や質感を持っています。

その形や材質を調べたくても、世界に一つしかない茶碗を切って調べるわけにはいきません。CTスキャンの技術を使えば、正確な厚み、内部の土の粒子まで撮像できます。茶碗の形はそっくりデジタル情報に変換ができるのです。

さらに3Dプリンターなどデジタルファブリケーションの発達により、デジタルデータが実態のあるものとして複製することも可能になってきました。こうした新しいデジタル技術は、樂茶碗が持つ質感や佇まいをも再現し、伝統を受け継ぐ職人の技に迫ることができるでしょうか。

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空間解像度/楽焼/デジタルファブリケーション/CT

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茶碗:樂焼 樂家十六代 樂吉左衞門作
茶器3Dモデリング:株式会社デジタルアルティザン
協力:公益財団法人樂美術館

人間が聞き取ることができない高い周波数の音波を超音波と言います。超音波は人が感じられる音(可聴音)と比べて直進性が高く、様々な応用が可能です。ある方向にいる人にしか音が聞こえない音響装置(指向性スピーカー)にもなりますし、風鈴の短冊のような軽いものなら揺らすこともできます。さらには、何も触っていないはずの手に触覚を再現する触覚ディスプレイと呼ばれる応用も期待されています。

超音波を使ったデジタル装置は、私たちの聴覚、視覚、触覚を通じた体験の自由度を向上させることができます。日本の夏の風物詩である風鈴も、新しい体験に様変わりします。

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空気の振動/聴覚/フェーズドアレイ/超音波制御/風鈴/風情

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連携研究者:篠田裕之、森崎汰雄(東京大学)
超音波スピーカー提供:ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

物体はみんな質量を持ち、すなわち重力の影響を受けています。しかし、デジタルデータには質量はありません。この世界のさまざまなものがデジタル化され計算機の中で処理されるようになることは、言い換えれば、世界が重力から解放されるということになります。重力のような物理的な制約から解放されたとき、そこにはどんな可能性が待っているでしょう。

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重力/質量/空間伝達力/フィードバック制御/データ/質量のない

達磨(菩提達磨)は禅宗の開祖とされています。禅には、文字や言葉によって世界を理解するのではなく、経験を通した気付きの中に真実があるという、不立文字(ふりゅうもんじ)という教えがあります。

一方で、計算機科学の世界には「end to end(エンドツーエンド)」という言葉があります。日本語で言えば、「端から端へ」です。入力という端と出力という端を決めてしまえば、コンピュータはその中間の処理を学習することができます。そこで行われる計算処理は私たち人間が理解できるような論理や言語で説明がつくようなものではありません。そうであっても、コンピュータは、与えられた入力に対して、適切に出力することができるようになります。

発達した計算機が生活のすみずみに浸透すると、その計算機たちのふるまいを人間が言葉で理解せずとも、さまざまな問題が自然と解決されていくかもしれません。そんな未来社会が訪れた時、あなたはその新しい自然を受け入れますか?それとも、やはり言葉を通じて世界を理解したいと思いますか?

関連するキーワード

コミュニケーションロボット/ヒューマノイド/ヒューマンインターフェース/達磨/禅/事事無碍/End to End

「デジタル情報」とはなんでしょうか。ハードディスクやメモリに記録されたものを想像するでしょうか。電子式コンピュータの登場する以前には、情報を記録する媒体としてパンチカードが使われていました。パンチカードは穴の有り無しで表されたデジタル情報です。さらに、生物の持つDNAもATGCという4つの分子を用いておりデジタル記憶媒体と言えるでしょう。

デジタル情報の持つ特徴の一つに、劣化なく複製ができる点があります。生物が親の遺伝情報を受け継ぎながら進化を続けることができるのも、コンピュータのプログラムやデータが世界中で利用できるのも、情報をデジタル化したおかげでしょう。

「DNAオリガミ」と呼ばれる技術があります。DNAの鎖を折りたたむことで2次元や3次元のさまざまな構造をナノスケールで作り出すことが可能です。自在に構造をデザインできれば、さまざまな機能をもった材料を作り出すことができると期待されています。

DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4つの物質から成り立ちます。AはTと、GはCと結合することでDNAは2重鎖を作り、右巻きのらせん構造をしています。実は、パンチカードで作られた「DNA折り紙」は左巻きのらせん、もしかしたら鏡の向こうが現実なのかもしれません。

関連するキーワード

DNAオリガミ/パンチカード/DNA/ATGC/コドン/誤り訂正機能/遺伝的アルゴリズム/折り紙/計算機折り紙/コンピュータグラフィクス

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連携研究者:三谷純(筑波大学)

イルカは人間より広い周波数の音を聞き取ることができます。これを利用して、イルカは水中で超音波を使ったコミュニケーションをしています。膨らんだひたいの中にあるメロン体と呼ばれる器官で超音波を発する方向や範囲を定めて送り出し、下あごの骨で反射した音波を受け取ります。

また、イルカは自分が発した音波の反響音を感じることで、獲物や天敵の場所を知ることもできます。この仕組みは船のソナーと同じく、エコーロケーションと呼ばれています。

イルカがやり取りしている情報の内容はまだ全て解明されていませんが、人間の言葉で表現することが難しいような3次元の空間情報を直接やり取りしていると言われています。私たち人間がデジタル装置を使って直接やり取りできる情報の量や種類は、これからますます広がっていくことでしょう。

イルカは、距離と目的に応じて様々な方法を使い分けながら、情報を受け取っています

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エコーロケーション/ソナー/LIDAR/赤外線測距センサ/自然言語/動物のコミュニケーション/コミュニケーションとジェスチャー/通信バス

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協力:村山司(東海大学)

この3次元画像はマウスの脳(嗅球と呼ばれる嗅覚情報を処理する脳領域)を透明化し、神経細胞を染色した標本を撮影したものです。神経細胞が枝(樹状突起といいます)を伸ばし、複雑につながりあっているのがみてとれるでしょう。こうした手法を用いることで脳の機能や構造がより詳細に調べることが可能となります。

一方計算機の世界では、「ニューラルネットワーク」とよばれる生物の神経網に似た数理モデルが応用されています。一つ一つのニューロンの動作は単純ですが、それらがネットワークをつくることで、実にさまざまな応答をすることが可能になります。生物の神経の模倣から始まった人工ニューラルネットワークは、今や独自の発展を遂げています。

一般的に、「ニューラルネットワーク」は、入力層、隠れ層、出力層からなります。データが入力されると、信号が右へ伝わり、出力が得られます

関連するキーワード

立体視/パララックスバリア/レンチキュラ/脳の透明化/染色/ニューラルネットワーク/パルス列の伝達

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協力:今井猛(九州大学)

人が視覚を通じて世界を見る時、デジタルカメラで写真を撮る時のように、外界の情報はデジタル化されます。外界の光は、水晶体というレンズを通して、網膜というスクリーンに焦点を結びます。そして網膜に並ぶ神経細胞によって、光は0か1かのデジタル信号に置き換わります。デジタル信号によって世界を理解しているあなたは、計算機といえるかもしれません。

関連するキーワード

目の構造/カメラの構造/網膜/視神経/光学処理(アナログ処理)/量子化(デジタル処理)/カメラの今

人工知能が大量のカラー画像を学習すると、白黒画像に自動で色付けをすることができます。ここでは、写真全体の色づき方の特徴と、写っているものの細部の色合いをそれぞれ学習して、それらをうまく組み合わせる技術を展示しています。この技術により昔の白黒写真も当時の自然な色合いに蘇ります。計算機は時間を超えて過去の「自然」を再現することもできるのです。

関連するキーワード

フィルム撮影(現像)/カメラの歴史/映像装置/モノクローム/畳み込みネットワークモデル/色と形

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連携研究者:飯塚里志(筑波大学)

私たちが見ている世界の解像度について考えたことはありますか。私たちの網膜には光を捉える視細胞が並んでいます。現実の空間は分子や原子のレベルで密な世界ですが、私たちが目で捉えている世界には視細胞の数という限界があります。水槽の中の本物の熱帯魚の姿と、高解像度のディスプレイに映る姿を見比べてみましょう。もし本物との見分けがつかなくなれば、「本物」をどうとらえるかはあなた次第です。

関連するキーワード

ライフゲーム/セカンドライフ/ペットロボット/解像度/人工無脳

VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術は、デジタルデータを現実に近い実感を伴って体験することを可能にします。こうした技術が生活に入り込み、私たちのものの見方は大きく変わろうとしています。

この展示には、ボルマトリクスミラーと呼ばれる湾曲した合わせ鏡が使われています。鏡の反射によって、実際には内部の底にあるはず物体が、あたかも浮き上がっているかのように見えるでしょう。これは鏡を用いたトリックですが、立体視を可能にするデジタル技術も研究されています。そうした技術が実現したとき、私たちが感じる「現実」とはどのようなものになるのでしょうか。

二枚の凹面鏡を向かい合わせで配置することで、反射した光は上部で実像を結びます

関連するキーワード

VR/AR/MR/立体ディスプレイ/鏡/仮想的/物質的/触覚/実在感

ディスプレイや印刷技術といった複製技術は、ますます解像度を上げています。コンピュータの処理速度や通信速度も日を追うごとに向上し、あらゆるところに人間の作り出した計算機が存在しています。やがて、私たちが作り出したはずの計算機は、認識されないほど"自然に"ふるまうようになります。

印刷技術は紙などに文字や絵をプリントするだけの技術ではなく、さまざまな構造を精緻に作り上げることを可能にします。空間の中に、モルフォチョウという蝶を配置しました。構造色印刷という方法で作られた人工蝶と自然の蝶の標本とが混在しています。モルフォチョウやタマムシなどの放つ複雑な色彩は、鱗粉や体表に刻まれたナノレベルの微細構造に光が反射・干渉することで生まれています。構造によるものなので、色素のように紫外線等の影響で退色する恐れもありません。

自律的に稼働をする機械を、ロボットと呼びます。人間に代わって作業をするロボットは、工場だけでなくさまざまな場所で活躍しています。小型アームロボットは、人間と同じ空間に共存し、画像認識によって周囲の状況を知覚しながら、活動をしています。

関連するキーワード

いけばな/構造色/印刷技術/ロボット/自律分散/IoT/ユビキタス/庭園(人工物のある自然)

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いけばな:辻雄貴(華道家、株式会社辻雄貴空間研究所)
インスタレーション:落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学)
構造色印刷提供:凸版印刷株式会社
特別協力:株式会社デンソー、株式会社デンソーウェーブ

人工知能の活躍が期待される分野の一つが画像生成です。たくさんの画像の集まりから共通する特徴を学習し、その特徴を持つ画像を新しく生み出すことができるのです。世界のどこにもない画像を生み出しているので、単に画像をコピーすることとは違います。 人工知能は人間が言い表せないような細かな特徴まで学習することができます。これにより、文字の形、人や動物の顔など実にさまざまものの形を再現することができます。この映像コンテンツでは、画像を生み出すしくみと、生み出された画像と元の画像を見比べて判定するしくみが互いに競争し合う、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれる人工知能の学習システムを応用しています。

敵対的生成ネットワーク(GAN)は、偽データを作る生成器とそれを判定する識別器が競い合うことで学習を進めます

関連するキーワード

画像生成/ディープラーニング/GAN(敵対的生成ネットワーク)/End to End/事事無碍

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映像コンテンツ制作:ミラクルマイル株式会社、AIQ株式会社

解像度には、大きく二つあります。「空間の解像度」と「時間の解像度」です。現実の世界を映像という情報として切り取るためには、空間をどれだけ細かく、そして時間をどれだけ密に記録し、再生するのかが重要です。それを決めるのが、この2つの解像度なのです。

情報を切り取る方法にも、二つあります。「アナログ」と「デジタル」です。ここでは、アナログの手法として、機械式テレビとも呼ばれるニプコー円盤という装置を使っています。空間解像度を高めるためには円盤を大きく、時間的な解像度を高めるためには回転の速度を速める必要がある、という物理的な制約が伴います。「デジタル」の手法では伝送速度などの制限はあるものの、物理的な制約から解放されます。この展示では、伝送速度を一定として「空間的な解像度」の異なるディスプレイが画面を更新しています。

関連するキーワード

アナログ/デジタル/標本化/量子化/ニプコー円盤/テレビの歴史/空間解像度/時間解像度/データ量

私たち人類はさまざまな道具や方法を生み出すことで、課題を解決し、より便利なものを作り出し、また新しい価値観を創造してきました。その背景にある考え方は、大きく二つに分けられます。「経験」を積むことで、改善を繰り返すという考え方と、「法則」を見出してそれをもとに解決策をもとめるという考え方です。「経験」をデータ、「法則」をモデルと置き換えて、これまでの人類と技術の進歩と照らし合わせてみれば、人間に代わってこれから計算機がどのように発展するのかわかります。この展示では、5つのトピックスを例に、これまでとこれからの技術の進歩を「経験」と「法則」という観点で見つめなおします。

「画像」
画像(視覚的なイメージ)は現実を忠実に再現することを目指して、発展してきました。写実的に描こうという絵画での模索や、解像度を向上しつづける写真もその一環と言えます。さらに、現実と同様3次元でかつ時間の流れもあるバーチャル空間へと発展します。そこでは、もはや現実を写し取る以上のことができるでしょう。

「音楽」
音楽を聴く、あるいは作ることに対する価値観は、常に時代とともに変容し続けています。1か所に集まって生演奏を聴いていた時代から、録音した複製物を楽しむ時代、計算機による演奏や歌声を楽しむ時代と移り変わっています。価値観が変わりうることを前提とすると、未来の人類はどのような音楽を聴き感動しているのでしょうか。

「計算」
計算機は、時代の要請から計算の需要が増すにつれて、従来の方法では対応できなくなり、その都度進化を繰り返してきました。現在は機械学習による人工知能技術が脚光を浴びていますが、これは人類のさまざまな「経験」をデータ化して計算機に学習させていると捉えることができます。いずれそこから数々の「法則」が導き出され、さらにはそれらが統合された汎用人工知能に行きつくのでしょうか。

「移動」
人は物理的に離れた場所へ、いかに速く、いかに快適に、移動をできるか模索し続けています。動力が発明され、自動車等の乗り物が広く普及したたことは、速さにおいて大きな飛躍でした。さらに完全自動運転が実現したときには、人は運転の手間からも解放され、移動に関わる制約はほとんどなくなる未来が来るでしょう。

「通信」
通信をこれまで進化させてきたのは、距離を克服したい、遅延なく伝えたい、品質をもっといいものにしたいという人間の欲求でした。今やインターネットがインフラとなり、場所も時間も帯域もさほど気にすることはなくなりました。今後の通信の主役は計算機に変わり、計算機同士の通信が未来の通信を牽引することになることでしょう。

関連するキーワード

経験と法則/統計と解析/狩猟採集社会/農耕社会/工業社会/情報社会/Society5.0

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監修協力
「画像」:伊藤亜紗(東京工業大学)
「音楽」:後藤真孝(産業技術総合研究所)
「計算」:杉山将(理化学研究所、東京大学)
「移動」:加藤真平(東京大学、株式会社ティアフォー)
「通信」:登大遊(筑波大学、情報処理推進機構)
イラストレーション:一乗ひかる
協力:株式会社バンダイナムコエンターテインメント

「飛鳥美人」は、飛鳥時代に築かれた高松塚古墳内に描かれた壁画で、1972年に発見されました。そこには、当時の女性たちが鮮やかな色彩で描かれています。外の空気に触れてしまったことで、残念ながら発見された当時の色彩は失われてしまいましたが、当時の写真をもとにした再現展示や復元されたデジタル画像などは多くの人の目に触れています。

カメラや印刷技術が誕生して以来、その解像度は常に向上し続けています。より細かく記録することができるようになり、忠実に複製されたコピーとオリジナルとの差はますます小さくなります。デジタル複製技術が進歩していく中、本物であることの意味を考え直す時期に来ているかもしれません。

関連するキーワード

飛鳥美人/高松塚古墳/複製/デジタル推定復元/真正性/バーチャルミュージアム

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イラストレーション:ハギーK
協力:関西大学博物館

戦国時代の武将、武田信玄は情報通信技術に重きを置いていた人物として知られています。山間地に領地を持つ信玄は、馬よりも早く効率的に情報を伝えるために「狼煙(のろし)」を活用しました。リレー式に情報が伝わる狼煙をネットワークのように発達させることで、長距離に渡って早い情報通信手段を獲得していたとされています。

現在私たちの通信を支えるインターネットも仕組みはよく似ています。インターネットの通信は管理者が担うのではなく、ネットワークを構成する単位(ノード)がそれぞれにリレー式に情報を伝え合うことによって、長距離に渡る高速な通信を実現しています。もし一部のノードが機能しなくなってしまっても、他のノードを通じた通信を続けることができます。まさに戦国時代のように。

人工知能がすみずみまで行き渡る未来社会も、歴史が生み出した情報通信の基本原理に支えられるでしょう。

関連するキーワード

武田信玄/狼煙/情報通信/インターネット/WWW/ノード

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イラストレーション:ハギーK
協力:甲府市武田氏館跡歴史館

自動運転など新しい技術には、期待と不安の両方が付きまといます。より便利な技術が生まれれば、これまでの道具や方法は徐々に使われなくなっていきます。ですが、そうしたかつての手法は姿を消してしまうばかりではありません。わたしたちの文化に浸透して新しい価値を提供し続けることもあるはずです。

「馬」は約6000年前から家畜として、農耕や運搬など人力に代わって活躍してきました。動力が誕生するまでは、陸上の重要な移動手段の一つでした。産業革命以降、さまざまな仕事が動力を持った機械によってなされるようになり、馬と馬を扱う人間の仕事は減っていきました。しかし、陸上の移動手段の主流が自動車になったいまでも、乗馬を楽しむ人は多くいます。これからも文化としての「馬」は大切にされ続けることでしょう。

関連するキーワード

馬/畠山重忠/鵯越/産業革命/自動運転

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イラストレーション:ハギーK

音楽の作り手がコンピュータ上で歌を作り、聞き手はその機械の歌声を楽しむ。「機械が歌う」という点で、「初音ミク」に代表される歌声合成エンジンの登場は音楽のかたちを大きく変えました。さらに人工知能の発達により、コンピュータが自動で歌を作りだすことができるようになれば、これからの音楽の供給と鑑賞のスタイルも変わるでしょう。未来社会はどんな音楽で溢れているでしょうか。

「初音ミク」とは
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した、歌詞とメロディーを入力して誰でも歌を歌わせることができる「ソフトウェア」です。大勢のクリエイターが「初音ミク」で音楽を作り、インターネット上に投稿したことで一躍ムーブメントとなりました。「キャラクター」としても注目を集め、今ではバーチャル・シンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど多方面で活躍するようになり、人気は世界に拡がっています。

関連するキーワード

初音ミク/歌声合成/バーチャル・シンガー

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イラストレーション:ハギーK
画像・音声提供:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

和歌は五・七・五・七・七の31文字からなる日本の「歌」です。季節や自然を表す言葉を織り交ぜながら、さまざまな人の思いや感情が表現されます。平安時代の著名な歌人「紀貫之」は、和歌という表現手法の発展と普及に貢献しました。人々は和歌を通して感情を記録し、共有することができるようになりました。また紀貫之は、和歌を中心に据えた紀行文学『土佐日記』のような先進的な表現方法も追求しました。

AIは人のさまざまな表現方法を学習し、それに似たものを作り出すことができます。しかし、和歌に込められた人の心まで生み出すことができるでしょうか。

関連するキーワード

紀貫之/和歌/土佐日記/記録/共有

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イラストレーション:ハギーK
協力:大野ロベルト(日本社会事業大学)