「AIスーツケース」は、視覚障害者の移動を支援する自律型ナビゲーションロボットです。見た目はスーツケースですが、内部にコンピューターやセンサー、モーターなどが組み込まれており、人や障害物を避けながら、目的地まで安全にユーザーを案内することができます。未来館アクセシビリティラボで、パートナーの企業や大学などと協力しながら研究開発を進めています。
AIスーツケースの紹介動画
(動画は前半後半に分かれており、後半は、前半と同じ映像に音声解説が入ったものが流れます。)
AIスーツケースのしくみ
ユーザーを安全に誘導するために、また目の見えない方でも操作しやすいように、AIスーツケースにはさまざまな工夫がされています。
動かし方
専用アプリの入ったスマートフォンを使い、画面タッチや声で目的地を設定します。ツアーのように、いくつかの目的地を順番に移動していくこともできます。目的地の設定後、ハンドルのスタートボタンを押してグリップを握ると、AIスーツケースが動き出します。ハンドルの下にセンサーがついていて、握ると動き、離すと止まるしくみです。動いているときはボタンでスピード調節ができるほか、ハンドルの両側についている小さな端子の振動で進む方向を知ることができます。
ナビゲーションのしくみ
ユーザーを目的地まで案内するには、AIスーツケースが自身の位置を正確に把握し、周りの状況に合わせて安全なルートを選ぶ必要があります。LiDAR (ライダー:Light Detection And Ranging)センサーは、レーザーで周囲の壁や障害物までの距離を正確に測り、大まかな形も把握することができる機械です。リアルタイムで測定する壁の形と、事前に測定した壁の形のデータを照らし合わせることで、自分がいる場所と障害物の位置を導き出します。RGB-Dカメラ(深度カメラ)は、歩行者などの対象物との距離がわかるカメラです。画像を認識するAIにより、歩行者やその動きを把握します。
AIスーツケースは、これらの機械からの情報をもとに、膨大な量のデータを高速で処理できるGPU(Graphics Processing Unit、画像処理装置)が組み込まれたコンピューターによって安全に移動できるルートを計算しています。
屋外を走るときの工夫
屋外では、自分の位置を把握するための壁があまりないため、LiDARセンサーだけの測位では不十分です。屋外を走るモデルでは、人工衛星の電波を受信するアンテナを追加し、衛星の電波と、電波の乱れを補正する地上の基準局からのデータをもとに正確に位置を割り出す技術(リアルタイムキネマティック)も使って、位置を計算しています。
実証実験:「AIスーツケース」で常設展を歩こう
常設展内でAIスーツケースによるナビゲーションを体験していただける実証実験を、毎日開催しています(休館日をのぞく)。視覚に障害のある方だけでなく、どなたでも参加できます。
体験内容は次の2つで、受付時にどちらかを選んでいただけます。ツアーの発着地は3階の総合案内横にある「AIスーツケース・ステーション」です。
① 「プラネタリー・クライシス」をめぐるツアー(所要時間:25分から40分程度)
常設展5階にある地球環境がテーマの展示「プラネタリー・クライシス ーこれからもこの地球でくらすために」をめぐるツアーです。触れる展示などを体験しながら、じっくり楽しむことができます。
② 自由選択ツアー(所要時間:15分から20分程度)
常設展3階および5階にある18個の展示の中から、3つ程度を自由に選んでめぐるツアーです。広い展示フロアの中でAIスーツケースのナビゲーションを楽しみながら、興味のある展示をダイジェストでまわります。
- ツアーとは別に、体験方法の説明とアンケートに回答していただく時間(15分程度)があります。
- 当日の受付状況により、体験コースを限定させていただく場合があります。
- 開催日時
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休館日をのぞく毎日 10時30分~、13時30分~、15時30分~ (1日3回)
- 体験方法の説明とアンケート回答を含め各回30分~55分
- 参加方法
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3階総合案内横の「AIスーツケース・ステーション」でお申し込みください。各回、開催時間の20分前から受け付けを開始します。
視覚に障害のある方は、体験日の3週間前から事前予約を受け付けています。次に記載する参加要件や参加可能人数、注意事項をご確認のうえ、お問い合わせ先の電話番号(TEL:03-3570-9151)にご連絡ください。電話の対応時間は開館日の10時~17時です。
- 当日の受け付けは、受付開始の時点で体験希望者が多数の場合、抽選となります。なお、予約状況によっては、各回、受付開始時間までに受付終了となる場合があります。
- 参加費
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入館料のみ
- 視覚障害者の方は、購入時に障害者手帳等の証明書をお持ちいただくと、ご本人および付添の方お一人までが無料となります。
- 参加要件
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歩行に不安・困難のない方
身長130㎝以上推奨
音声ガイドの聞き取りに不安・困難のない方- 身長が130㎝に満たない方で体験を希望される場合は、電話もしくは当日受付でお問い合わせください。
- 参加可能人数
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AIスーツケース1台につき、1~4名程度
- グループでの参加の場合は途中交代しながらの体験になります。
- 各回の運用台数は、当日の機器状況により1~2台です。
- 注意事項
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- 参加する方には、当日、会場で体験同意書へご署名いただきます。また、未成年者の体験には保護者のご署名が必要です。
- 未成年の方で、当日、保護者の同伴なく来館し体験を希望される場合、以下のリンクから事前に同意書をダウンロードして印刷し、ご署名の上でお持ちください。
体験同意書のデータはこちら
- 未成年の方で、当日、保護者の同伴なく来館し体験を希望される場合、以下のリンクから事前に同意書をダウンロードして印刷し、ご署名の上でお持ちください。
- 本イベントは、AIスーツケースの研究開発に資する実証実験です。体験いただいた方には、アンケートへのご協力をお願いしています。
- 機器の状況等により、やむを得ず開催を見合わせる場合があります。
- 事前予約をした場合、開催時間までにお越しいただけない時はキャンセルとなり、他の来館者を優先する場合があります。
- 参加する方には、当日、会場で体験同意書へご署名いただきます。また、未成年者の体験には保護者のご署名が必要です。
- 協力
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一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム
- お問い合わせ先
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日本科学未来館
TEL:03-3570-9151(開館日の10:00~17:00)
お問い合わせフォーム
AIスーツケース開発のあゆみ
未来館の館長で、IBMフェローでもある全盲の浅川智恵子が、出張の際に「スーツケースが自動で動いて道案内をしてくれたら」と感じたことを発端に、2017年頃から浅川が客員教授を務める米国カーネギーメロン大学の研究室を中心に開発が始まりました。その後、2019年、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)をはじめ、趣旨に賛同する企業が「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」(以下、「AIスーツケースコンソーシアム」)を設立し、開発を推進。浅川が館長に就任した2021年4月以降は、未来館も拠点の一つとなり、研究開発や技術実証などを行っています。
参考
- 会誌「情報処理」 Vol.63 No.11(2022年11月) 「デジタルプラクティスコーナー」 「自律型視覚障がい者ナビゲーションロボットの普及を目指して」
[文献リンク] - 機関誌「ロボット」 No. 280(2024年9月) 「視覚障害者用ナビゲーション・ロボット「AIスーツケース」の実用化に向けて」
[文献リンク]
これまでの主な実証実験
2021年3月 | 社屋にてユーザーを招いた初の実証実験(主催:日本IBM) |
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2021年11月 | 米国ピッツバーグ空港での実証実験(主催:カーネギーメロン大学) |
2022年7月 | 日本科学未来館での体験会(主催:日本科学未来館) |
2022年7月 | 新千歳空港での実証実験(主催:日本科学未来館) |
2022年8月 | 東京都日本橋室町地区にて、地下道と商業ビルを使った実証実験(主催:AIスーツケースコンソーシアム) |
2023年1月 | 未来館敷地およびプロムナード公園にて、初の屋外走行実証(主催:日本科学未来館、東京都、Digital Innovation City協議会) |
2023年3月 | アクセシビリティ関連の国際会議CSUN2023でのデモンストレーション |
2023年4月 | G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合「デジタル技術展」でのデモンストレーション |
2023年9月 | 日本科学未来館およびプロムナード公園にて、初の屋内外走行実証と施設内運用実証(主催:日本科学未来館、東京都、Digital Innovation City協議会) |
2024年4月 | 日本科学未来館にて、定常的な試験運用を開始 |