軽くて丈夫、値段も安いので、わたしたちの暮らしになくてはならないものになったプラスチック。しかし、ごみとして海などに流れ出ると、なくならずに生きものに悪い影響をあたえるなど、現在大きな問題になっています。この「プラごみ問題」をどうすれば解決できるでしょうか。イベント「どうする!? プラごみ」の観覧の助けとして、パネルの概要をまとめたテキストを用意しました。


ゾーン1のタイトル「こんなに!? わたしたちの出すプラごみ」

ペットボトルやレジ袋などプラスチックは商品を入れたり、包んだりして大量に使い捨てられています。日本では年間1人当たり約32キロの容器や包装のプラごみを出しています。このオブジェはその32キロ分を集めてつくりました。展示終了後、再資源化、または一部を燃やしてエネルギーとして活用する予定です。


ゾーン2のタイトル「たいへん!? プラごみとわたしたちの社会」

そもそもプラスチックが大量に使われるわけは? どういったところでプラごみが生まれているの? 環境やわたしたちにどんな影響があるの? プラごみがいま世界中でなぜ大問題になっているのか、その理由や背景を探っていきましょう。
取材協力:高田 秀重さん(東京農工大学農学部環境資源科学科)


ゾーン2のパネル1「長所いろいろ、社会ささえるプラスチック」

軽くて丈夫、プラスチックはいろいろな生活シーンで使われています。プラスチックとはおもに石油から人工的につくられた物質のことで、一般的に軽さや丈夫さ、水をはじくなどの特性をもっています。いろいろなかたちにできたり、さまざまな性質を付け加えたりできることが、いろいろな生活シーンで使われる理由です。
とても器用な素材であるプラスチック、その変化自在な特性の秘密は、鎖のようにつらなった分子の構造にあります。

パネル1のコラム「プラスチックを分子レベルで見てみると…」

プラスチックは、同じ形の分子が鎖のように規則的につらなり、からまったような構造をしています。 つらなっている分子の形を変えることで、さまざまな特性のプラスチックをつくることができます。


ゾーン2のパネル2「大量のプラごみが引き起こす環境汚染」

プラスチックは大量に生産され、大量に廃棄されています。その量は年々増えてきていて、2015年には世界全体で4億トンが生産され、3億トンが廃棄されました。ごみとなったプラスチックは適正に処理されず、私たちの社会のさまざまなところから、海や川などに流れ出ています。その多くが分解されることなくたまり続けて、環境問題を引き起こしています。


ゾーン2のパネル3「生きもののくらしをおびやかすプラごみ」

プラスチックの袋や網はカメや海鳥などの生きものに絡み、移動を邪魔したり、窒息して死んでしまう原因になったりしています。またエサと間違えて食べてしまうことで、消化管に詰まって死んでしまったり、餓死してしまったりすることもあります。 プラスチックは細かく砕けて、マイクロプラスチックとよばれるプラスチック片となり、いたるところに散らばらっています。これが、プランクトンのような小さな生きものにいたるまで、あらゆる生きものに悪い影響を及ぼしています。これまで調べられた海の魚のうち3分の2 の魚の種の体内からプラスチックが見つかったという報告もあります。


ゾーン2のパネル4「心配されるわたしたちの健康への影響」

マイクロプラスチックは呼吸や飲食を通して、人体に入ってきています。便だけでなく血液や臓器からもプラスチックが発見されており、体内に入ったプラスチックがどんな健康影響を与えるのかについては現在も調べられています。また、プラスチックそのものだけでなく、プラスチックに含まれる化学物質(添加剤)中には人体に有毒なものがあり、問題が指摘されています。 こうした化学物質はマイクロプラスチックなどを介して、また食物連鎖を通じて、水中の生きものの体内に蓄積されることが報告されています。そして、それを人が食べることで健康被害が起きる危険性が指摘されています。


ゾーン2のパネル5「解決へのヒントはたくさんの「R」」

プラごみをなくすためにはどうすればいいでしょう。わたしたちがこれまで大量に消費して捨ててきたプラスチックが、分解されずに自然環境に残っている限り、問題は解決しません。これからのつきあい方にたくさんの「R」が提案されています。 まずはこれ以上プラごみを出さないため、あらたにつくられるプラスチックの量を減らすこと(Reduce リデュース)が大事です。そのためには、プラスチック製品の使い捨てはやめ、一つの製品を長く繰り返し使うこと(Reuse リユース)や、自然に出されても問題のない素材でつくること(Replace リプレース)があげられますが、そもそも必要のない場面では製品を使わないこと(Refuse リフューズ)などの方法もあります。
またプラスチック製品をつくる時に、なるべく少ない量でつくる工夫や、使用済みのプラスチック製品を回収して再利用すること(Recycle リサイクル)もプラスチックの全体量を増やさないことにつながります。


ゾーン3のタイトル「かいけつ!? プラごみのない地球へ」

解決をめざして取り組み始めた人たちがいます。ここでは商品やサービスを通じて、わたしたちともかかわりのあるビジネスの現場で取り組む5名の方を紹介します。みなさんもいっしょに、プラごみ問題の解決方法を考えてみませんか?


ゾーン3のパネル1「服をはじめとしたあらゆる資源が循環し続ける社会をつくりたい!」

繊維の約7割は合成繊維というプラスチックでできています。捨てられた服の多くは焼却や埋め立て処分されていますが、リサイクルなどのしくみを整えれば再び資源にすることができます。

岩元 美智彦さん(株式会社JEPLAN 会長)の取り組み

わたしたちは、着なくなった服を回収して資源にする「BRING™」というプロジェクトを展開しています。現在、全国約4,000カ所以上で回収しています。回収した服のうち、まだ着ることができるものはリユースし、もう着ることができないものは素材ごとに分けてリサイクルしています。その中でも、ポリエステル100%の服は独自のケミカルリサイクルという技術でポリエステルを分子レベルまで分解して異物をのぞき、石油からつくられたものとほとんど同じ品質のポリエステル樹脂に再生します。その樹脂をつかって、みなさんに長く着てもらえるような服もつくって、販売しています。 回収箱にえがいているのはハチ。ハチが蜜を集めてくるように服を集めて新しい資源を生み出すイメージです。「服を回収してリサイクルし、また新しい服となって戻ってくる」というしくみを通して「服とのつきあい方」や「服(資源)の循環」を考えるきっかけにしてほしいです。

パネル1の来館者への問いかけ

あなたが循環させたいものはなに?どうして?


ゾーン3のパネル2「容器持参で必要な分だけ。楽しい買い物スタイルで「捨てない未来」を!」

商品には、多くのプラスチック容器や包装がついてまわります。売り方や買い方を変えることで、プラごみを減らせるライフスタイルが実現できます。

髙橋 由紀子さん(量り売りとまちの台所 野の 共同代表)の取り組み

東京都三鷹市で、地元の食材や日用品を必要な分だけ買える「量り売り」のお店を開いています。一般的なスーパーでは、お米は5キロや10キロなど決まった重さでプラスチックなどに包まれて売られていますが、わたしたちのお店では、お客様が持参した容器に、ほしいだけのお米を入れてもらい売っています。「1人暮らしでお醤油1瓶も使いきれない」という方にも「量り売り」はおすすめです。プラごみを減らすだけでなく、食品ロスやお金の無駄も減らせる、人にも環境にもやさしいお店をめざしています。
米や調味料のほかドライフードやスパイスなどさまざまな食材を扱っていて、その説明から量りの使い方まで、「量り売り」を通じてお客様と会話が弾みます。食材に込められたこだわりを説明したり、やっぱりプラスチックの方が便利な時もあるよね、と話したり。そんな会話を通じて、新しいライフスタイルを一緒に探していけたらいいなと思います。

パネル2の来館者への問いかけ

量り売りだとうれしいもの、困るものは?


ゾーン3のパネル3「プラスチックがごみにならずに循環し続ける社会をつくりたい!」

つめかえパックをつかうことでプラごみを減らすことができますが、ゼロにはなりません。さらに減らすために新しい技術開発やしくみづくりが必要です。

瀬戸 啓二さん(花王株式会社 包装技術研究所 プロジェクトリーダー)の取り組み

わたしたちは、洗剤やシャンプーなどをつくる化学メーカーです。ボトルと比べてより少ない材料ですむつめかえパックを販売し、お客様につめかえていただくことで、これまで多くのプラごみを減らしてきました。現在は、このつめかえパックをリサイクルできないか研究しています。つめかえパックも、洗って細かく砕いてからとかして固めることで、ペレットとよばれるプラスチックの原料になります。これをもう一度とかして薄くのばすと同じようなつめかえパックをつくることができます。
しかし課題もあります。つめかえパックは、湿気や光などの影響を受けないようにさまざまな種類のプラスチックを組み合わせてつくります。これをまとめてとかしてつくりなおしたつめかえパックは、性能が落ちてしまうのです。また、もともとの色が混ざり合うためリサイクルすると全体に緑っぽくなってしまいます。技術的な問題だけでなく、お客様につめかえパックだけを分別してもらい回収することが可能なのかという課題もあります。

パネル3の来館者への問いかけ

捨てられがちなもの、どうすればたくさん集められる?


ゾーン3のパネル4「自然の中に流れ出てしまったプラごみをとりのぞきたい!」

これまでに出された大量のプラごみが海など自然の中に残っています。ごみを減らすだけでなく、これらも同時に回収しないと問題は終わりません。

土屋 明子さん(株式会社ピリカ PR)の取り組み

わたしたちは、環境問題を科学技術で解決しようと立ち上げた企業です。2040年までに、自然界に出されるごみより、多くごみが回収される状態を目指しています。AIを活用してごみがどこにどれだけ落ちているかを調べるシステムをつくり、効率的なごみ拾いの計画を立てられるようにしたり、マイクロプラスチックが実際にどう流出しているのか調査し、原因を突き止めてプラごみを減らす行動につなげたりしてきました。
ごみ拾いSNSのピリカは、ごみ拾いを楽しくしようとつくり出されたものです。スマホのアプリなどを通じて、自分が拾ったごみの記録を発信したり、ほかのユーザーに「ありがとう」のメッセージを送ったりすることができます。「すべきこと」よりも「やって楽しいこと」の方が、より多くの人に取り組んでもらえるでしょう。すでに100以上の国と地域で累計2億個以上のごみが拾われています。

パネル4の来館者への問いかけ

あなたはどんなごみ拾いなら楽しめそう?


ゾーン3のパネル5「プラスチックにかわる、自然にかえる素材を広めたい!」

プラごみの問題のひとつは分解されずにいつまでも残ること。プラスチックにかわる、自然にかえる素材が広まれば、生きものへの影響などを減らせるかもしれません。

中谷 和史さん(株式会社カネカ Green Planet推進部 市場技術開発チーム)の取り組み

プラスチックにおきかわる、植物由来で生分解性のある素材を開発しました。プラスチックと同様に熱を加えると形が変わり、様々な製品をつくることができる素材です。生分解性とは、たとえば土の中で木材が長い時間をかけて腐っていくように、微生物の力を借りて二酸化炭素や水にまで分解することができる性質です。プラスチックはふつう自然界で生分解されないので問題になっています。わたしたちがつくった生分解性の素材は、土だけでなく海の中でも生分解されます。
わたしは、目的に合わせてこの素材の硬さなどの性質を調整し、スプーンやストローをつくる仕事をしています。地球環境を優先させてわたしたちの生分解性の素材を使うことができる場面は多くあるでしょうし、使いやすさを優先させてほかのプラスチックを使うべき場面もあると思います。環境によいことか、使いやすさか。なにを優先すればいいかお客様と一緒に考えていきたいです。

パネル5の来館者への問いかけ

プラスチックじゃないと困るものは?どうして困るの?