「夜はやさしい」

本作は、あたかもその夜その場所にいるかのような、世界の夜を音と詩でつなぐプラネタリウム作品を作りたい、という谷川俊太郎さんの提案のもと、谷川さん自らが構成や演出にも深く関わられ、完成しました。

地球上の6つの地点のある夜の様子を、プラネタリウム投影機「MEGASTAR-Ⅱ cosmos」によるリアルな星空と、フィールドレコーディングで収録された各地の臨場感あふれる環境音で再現。谷川さんによる書下ろしを含む自選の詩に導かれながら、世界の夜を旅していきます。名作「朝のリレー」を彷彿とさせる、各地をつなぐ“夜のコラージュ”ともいうべき作品です。時を経ても色あせない、まるで一篇の詩のようなプラネタリウム体験をお楽しみください。
(上映時間:約25分 /2009年制作)

谷川俊太郎さん(撮影:深堀瑞穂)

見て聴く夜  谷川 俊太郎

少年時代に見たプラネタリウムは東京の夕暮のスカイラインから始まったのですが、そのとき流れるのがバッハの<G線上のアリア>、音楽とともに空がだんだん暗くなって星が輝き始める、それが私の宇宙を感じる原体験のひとつになっています。青空の下で聞く物音や音楽と、星空の下で聞くそれとでは、ずいぶん大きな違いがあるように思います。少年時の感動を再現したいという個人的動機からスタートして、このプログラムは夜の視覚空間と聴覚空間のいわば詩を媒介にした化合…を目指します。
(2009年公開時に制作したリーフレットより)

再上映にあたってのメッセージ

谷川賢作さん

谷川 賢作さん (挿入歌「夜はやさしい」作曲)

父の発案の「夜はやさしい」にそっと身を委ねると、決して、ことばで書かれたものだけが「詩」ではないのだと、気付かされる。地球に生きる鳥たち、動物たちの鳴き声、様々な人々のお喋りと歌や踊り、風の音、波の音。この愛しい惑星の、全ての音たちのハーモニーで奏でられる「音の詩」を、まるで、そっと神が見守っているかのような、星々の瞬きも「光の詩」。時々、お気に入りの車椅子に腰掛け、静かに夜空の星々を見上げていた、晩年の父の後ろ姿を思い出します。それら全ての「詩」を指揮していたのかな、微笑みながら。

毛利衛 名誉館長

日本科学未来館 毛利 衛 名誉館長 (「夜はやさしい」監修)

16年ぶりに「夜はやさしい」を見て胸をつかれたのは、「耳をすませていると文字を忘れる」という一節でした。祝いの宴の太鼓と波音が交じり合うセネガルのにぎやかな夜の場面に添えられた言葉です。言葉に対して物理学者のような厳格さを持っていると感じた谷川さんが“文字を忘れる”ほどに、地球上には豊かな音が鳴っていて、自然や我々の存在そのものの大きさを教えてくれる。そのことに気づいた今、より一層この作品を味わえるようになった気がします。

Tender is the Night MAP ~本作でめぐる“夜”の風景

Tender is the Night MAP

出発地の東京から世界6カ所にわたり、各地の夜空がドームスクリーンに映し出され、あたかもその夜にその場所にいるかのような音場が観客を包み込みます。☆は星空の見どころです。

インドネシア バリ島 12

数万のヒンドゥー寺院があり、「神々の島」とも呼ばれる地。210日というバリ暦では、毎日どこかでお祭りがあります。60年ぶりの豊作を祈る祭りのガムランの音が、田んぼから聞こえるにぎやかな蛙の声とまじり合います。
☆小さな星が寄り添うように集まる「すばる」。インドネシアでも昔から農作の目印です

ドイツ ミュンヘン 6月

バイエルン州の州都。夜のビヤホールには人が溢れ、広場では音大生のストリートミュージシャンたちが音楽を奏でています。ソプラノの澄んだ歌声が響き渡り、街角はまるで劇場のようです。
☆ドイツでは“大きな荷車”と呼ばれる「北斗七星」。北極星の周りをめぐり天頂まで昇ります

セネガル ダカール 3月

アフリカ大陸最西端にある国で、ダカール・ラリーの終着点。かつて奴隷たちが船に乗せられたゴレ島は今は世界遺産に。三日三晩続く祝いの宴、タムタムの音に、子供たちのはしゃぎ声と悠久の時の詰まった波音が重なります。
☆オレンジ色の1等星アークトゥルスが輝く「うしかい座」。そのモデル、天を担ぐ巨人アトラスは山脈として知られています

ブラジル バイーア 1月

バイーア州・サルヴァドールは、ブラジル音楽の中心地。年越しのフリーコンサートには、世界的なミュージシャンが帰国して登場。30万人が集まり、皆一晩中歌い踊ります。
☆南半球では夏に見られる「オリオン座」や「おおいぬ座」。シリウスから南に向かうと「大マゼラン雲」が浮かびます

アメリカ ニューオリンズ 4月

ミシシッピー河のほとり、ジャズの発祥地とされる音楽の都。この街でルイ・アームストロングは生まれ育ちました。静かに船が行き交う昼間の河畔とは一変、夜のバーボンストリートには、にぎやかなライブ音楽が溢れ出します。
☆赤いアンタレスとその周りの星が釣り針のように連なる「さそり座」。天の川が濃く見えるこの辺りが銀河系の中心方向です

オーストラリア アーネムランド 12月

オーストラリア北部にある、アボリジニの村。自然と一体となった伝統的な暮らしが続く地域です。夜の歓迎の儀式では、ディジュリドゥの音が大地にこだまし、波と虫の音とともにゆっくりとした時間が流れていきます。
☆全天88星座の中で最も小さい「みなみじゅうじ座」。天の川に穴が空いたように見える場所の正体は、暗黒星雲です

原案・詩・ナレーション構成

谷川 俊太郎

監修

毛利 衛

朗読

麻生 久美子

フィールドレコーディング・サウンドデザイン

川崎 義博

挿入歌

「夜はやさしい」
作詞 谷川 俊太郎
作曲 谷川 賢作

宣伝写真

川内 倫子

協力

株式会社谷川俊太郎事務所

企画・制作

日本科学未来館