毛利衛さんの後任として日本科学未来館の館長という重責を担うこととなりました。
人工知能やバイオテクノロジーをはじめとする科学技術の進化によって、これまで人類があきらめていたようなことができるようになり、新しい社会が開かれようとしています。一方で、人為起源の気候変動や生物多様性の損失をはじめ地球規模の課題は日増しに深刻になっています。科学技術がもたらす便利さをただ受け入れるだけでは、より良い未来は決してやってきません。2030年はちょうど国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標年です。これからの10年間、私たち一人ひとりが誰かに任せるのではなく、自らの行動を変えなくては持続可能な世界は実現できません。
未来館はミュージアムとして何ができるでしょうか。昨年4月に就任が決まって以来、進むべき方向性について、スタッフらと議論を進めてきました。そして、2030年に向けて「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」というビジョンを掲げることにしました。
最新の科学技術をはじめとする知識によって、より良い未来をつくるため、未来館をあらゆる人が立場や場所をこえてつながるプラットフォームにしたいと思います。未来館というプラットフォームを通じて、幅広い科学技術を体験することで、未来の社会を想像し、より良い未来に向けた行動を始めるきっかけとなってほしいと願っています。その中から新しいアイデアやイノベーションが生まれればこれほど嬉しいことはありません。そのために、さまざまな科学コミュニケーション活動を積極的に進めていきたいと考えています。
そんなプラットフォームになるためには、未来館が、障害や年齢、国籍といった違いに左右されることなく、誰にとっても利用しやすいことが不可欠です。スマートフォンを活用した高精度な音声ナビゲーション・システムを導入する準備を進めているほか、未来館に私自身アクセシビリティの研究室を設けて、研究開発を進めていきます。ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)を大切にし、アクセシブルなミュージアムとして未来館を世界に誇れるモデルにしたいと考えています。
私のモットーは「夢を持ってあきらめなければ道は開ける、不可能は可能になる」です。私は小学5年生のときプールでの事故で視力が弱まり、中学生のころには両眼の視力を失いました。大学では英語を勉強しましたが、目が見えなくてもプログラミングはできると知って専門学校に通いました。そして日本IBMで先端技術を活用し、視覚障害者の課題解決に取り組んできました。簡単ではありませんでした。何度もあきらめようと思いましたが、チャレンジを続けた結果、失明した当初には予想もできなかった人生が開けました。
私たちは一人ひとりいろいろな可能性を秘めています。夢を持っていればその可能性をいかすチャンスはめぐってきます。日本科学未来館は今年で20周年を迎えます。素晴らしい成果をさらに積み上げていくために、精いっぱい努力していきますので、皆さまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。ぜひ私たちとともに、より良い未来をつくっていきましょう。