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あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 震災以降、社会に生まれた科学者への不満や期待と、科学者の側の切実な思いとをぶつけ合い、議論しました。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。
(このサイトでは、当日の講演とディスカッションをダイジェストでまとめています。イベント全編はYouTubeでご覧ください。)

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3|参加者とのディスカッション
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お二人の講演に対して、参加者はどんな意見をもったでしょう。続くディスカッションでは、自然エネルギーへの不安要素から政治や産業のあり方まで、エネルギー問題を巡るさまざまな論点が一般の方々の目線で提出されました。(YouTube 1:11:35~2:13:00)
※参加者の発言は一部編集して記載しています。

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新しい社会モデルへのチャレンジ

参加者1——飯田先生のお話では、自然エネルギーは原発に十分代わり得るとのことでしたが、エネルギーは単に物理的なものではなく、社会性をもったものです。データ上では、日本は自然エネルギーに恵まれた環境とのことですが、ではなぜ現在1%強の普及率でしかないかないのでしょうか。政治的、社会的な事情が普及のバリアになっているはずです。そういう現実を含めた問題点を議論しないと、結局は従来型のものに押し切られてしまうのではないかと思います。

参加者2——太陽光でも風力でも、自然エネルギー発電には膨大な土地が必要となります。すると本来その土地を使うはずの目的に使えないなどの問題が生じて、実際はうまくいかないのではないでしょうか。

飯田——確かに、自然エネルギーの普及のためには地域社会との合意形成は必要で、そのための社会モデルをこれから一つ一つ、つくっていくしかありません。そのことは私たちの社会にとって、大きなチャレンジになると思います。小規模分散型の自然エネルギーはこれから数が莫大に増えていき、それに伴って、いろいろな問題が生じてくるでしょう。しかし考えてみれば20年前にはほとんど誰も持っていなかった携帯やインターネットが普及し、それに伴って、例えば携帯に関してはマナーモード、インターネットでは著作権保護などのルールを形成してきましたよね。新しい技術が社会に投入されたときに生じるトラブルをルールによって乗り越えてきた。自然エネルギーでもそれをやっていくことになると思います。
 風力発電に関しては、デンマークは九州ほどの面積の国土に日本の3倍の発電機があります。そこには合意形成やルールについて、先駆者として学べる例があるでしょう。例えばデンマークでは風車を立てられるところ、立てられないところが全土に渡ってあらかじめ地域社会の合意のもとでゾーニングされている。加えて地域の自然エネルギーで生まれた便益は地域に還元するしくみ、つまり地域のオーナーシップがあります。上から目線で普及させるのではなく、地域が引っ張って行く。そういう社会モデルをつくっていく必要があると思います。

小林——飯田先生がおっしゃったような社会的、政治的なファクターが、新しい電力体制をつくるためには重要です。そしてこれをつくるには人々の意志が必要なんです。例えば、自然エネルギーを普及させていくためには、当面は全量買取制度のようなかたちで国が補助する必要があるわけですが、それはやはり国民の合意がなければできません。さらにそれを各地域で展開するのには、各地域での意思決定が必要です。
さきほど「エネルギー自己統治」という話をしましたが、それは各地域、さらに各家庭でどういう電力を選択するかということです。一番端的な例は、家に太陽光パネルをとりつけること。それから送発電分離をすれば、どこから買うかという選択肢が広がります。そしてその判断は個人の主体的な考え方によるものです。ですから、科学技術の面からのデータを十分に知ったうえで、どう選択すべきかを国民が議論のうえで判断してほしい。そのうえで納得ということになれば、自然エネルギーはこれから広がっていくと思います。

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自然エネルギーの“不安定”をどう克服するのか

参加者3——原発でなく自然エネルギーを使っていくべきだとは思いますが、自然エネルギーを基幹エネルギーにするには不安があります。ポテンシャルはあっても安定供給はできるのでしょうか。

参加者4——自然エネルギーは不安定だといわれていますが、ドイツなどヨーロッパの国ではどうやって風力発電などを実現しているのでしょうか。(Twitterから寄せられた意見)

飯田——まず言っておきたいのは、皆さんの頭のなかに「自然エネルギーが変動すると安定供給が脅かされる」という先入観というか、認知バイアスがあることです。「安定供給とは何か」を、おそらく多くの人はテクニカルな面でご存じでないので、変動がただちに安定供給を脅かすと考えがちですが、それは誤解です。
 まず事実から確認すると、実際に安定供給が脅かされたのはどういうときか。直近では3月11日の地震で発電所がいっせいに止まったときと、東電の“無計画停電”のときです。つまり巨大電源がいっせいに失われたときなんです。その事実を忘れて、「不安的な風力が安定供給を脅かす」と考えるのは、電力会社などが言ってきたことにだまされた「印象操作」の影響だと思います。もちろん風力発電の変動に関しては、乗り越えるべき課題はあります。ただそれは安定供給の問題というよりは、周波数変動や潮流変動といったテクニカルな問題です。

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[出典]日本風力発電協会

 上のグラフはスペインの1週間の電力供給を表したものです。スペインには日本の半分の設備容量である1億キロワットに対して、およそ10倍の風力が入っており、瞬間的には電力量の6割を超える電力が風力でまかなわれることもあります。グラフの一番下の緑の部分が風力で、発電量にばらつきがあり波打っていますが、火力や水力といった出力調整のできる電源を使って、常に需給バランスを実現しています。このとき活躍するのがITです。リアルタイムの風況予測、あるいは日照量予測から自然エネルギーの発電量を予測することで、他の電源をスタンバイさせておくのです。このようなテクノロジーのさらなる進展は、この10年のITの爆発的な進展に見られるように、これからの10年に起こりえるでしょう。私はあまり技術の信奉者ではありませんが、今あるテクニカルな課題を技術が解決しながら、分散型の自然エネルギーシステムがこれから整っていくことになると思います。

参加者5——ドイツなどは「自然エネルギーでいきます」という方向性がはっきりと出ていますよね。でも日本は政府の姿勢が見えない状態です。実際、自宅に太陽電池パネルをつけたくても数百万円もかかりますから、国が補助金を出すなど、普及のためには本気で政策を打ち出さなければならないと思うんです。これからは一般市民が国を動かしていく必要があると思うんですが……。

小林——7月に菅首相が「原発に依存しない社会を目指す」と表明し、その後でそれは「個人的見解である」と言うなど、確かに日本の政府は非常に揺れ動いている状況です。ここが政治の根本理念や方針としてしっかりと定まるかどうかが、今後数年の政治の大課題です。私は、「電力は公共財である」という発想が必要だと考えています。今後新しい政権ができて、電力は公共財であるという考え方のもと、送発電分離・公共電力などを実現し、電力体制を大変革し、自然エネルギーや新エネルギーの方向に科学技術を発展させていこうという意志決定を行うことが重要です。これを実現できるような政治家が次の日本政治を切り開いていく人だと私は思います。しかしそれができなければ、現在のような曖昧な状況がずっと続くでしょう。そういう意味で今、人々の民主的な意思決定が試されているんだと思います。


私たちは何のために電気を使うのか

参加者6——自然エネルギーを開発するというお話でしたが、それと同時に、私たちが使うエネルギーをどれだけ低く抑えて生活するかを考えるべきだと思います。

飯田——そうですね。まず大事なことは、私たちは「電気を使うために電気を使っている」わけではないということです。何かを得るために電気やエネルギーを使っている。これをエネルギーサービスといいます。このエネルギーサービスを落とさずに、電力やエネルギーの量を桁違いに減らすことは、十分に可能なんです。
 アメリカの「分散型エネルギーの始祖」であるエイモリー・ロビンスはこのことを「ファクター4」といっています。現在の最新の技術をすべて使えば、世の中の効率を4倍に上げられる、だからエネルギー消費量を半分にして、経済成長を2倍にできる、と。さらにドイツの「省エネの神様」であるシュミット・ブレークなどは「ファクター10」といっています。「もうすぐできる技術」に置き換えれば、10倍にできると。ですから、「エネルギー消費量が下がったら即、貧しくなる」というドグマというか、思い込みはやめたほうがいいということです。途上国は別にして、その他の国では、ここまでくればエネルギー消費量を減らしながら経済成長ができる。これはデンマークでもスウェーデンでも実証されています。

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参加者7——自然エネルギーのコストが日本の経済にどう影響するのかが気になります。たとえば、電気料金が上がったり、電気をこれまでのように大量に使えなくなったりすると、製造業などは海外に移転してしまうのではないでしょうか。

飯田——これも事実をきちんと見る必要があります。日本の輸出工業製品の価格の中で電気料金が占める割合は平均的にはわずか1.3%。これが1割上がったとしてもわずか0.1%しかインパクトがない。それから工場が外国に出て行くとしても、どこに出て行くのか。中国の電気料金は日本の7割ですから、そんなに安くなるわけじゃないし、停電も多い。やはりドグマにとらわれず、事実を確認したうえで議論することが必要です。

参加者8——しかし韓国の電気料金は日本の半分です。韓国政府は外国の企業を誘致しようと戦略的にやっているんです。このような現実を見ると、0.1%しかインパクトがないから大丈夫、という論理では納得できないんですが……。

飯田——もちろんこの0.1%の話は、丁寧に議論すべき問題です。鉄鋼やアルミなど電気を大量に使うけれども、他の産業を支える重要な部門については個別論として見なければならない。ただ、一般論としてまず言いたいのは、「電気をたくさん使う産業がイノベーティブなのか」ということです。
 これからの経済成長は、物と電気を使わない産業が担っていきます。韓国の電気料金が安いからといって、韓国に行った産業は果たして本当に韓国の経済成長を担うのでしょうか。日本が本当にアジアや世界の中で経済のリーダーになろうと思ったら、もっとソフトでクリエイティブな産業を育てなければならなりません。実際、GDPベースで見ても、日本ではエネルギーを使わない産業のほうが圧倒的に稼いでいるんです。もちろん個別に議論すべき点はありますが、とにかく「電気代が高くなると産業が逃げて経済が空洞化する」というのはあまりにも短絡化された議論です。

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エネルギーは人間と社会のありようを映す

参加者9——私たちはこれまで電気をたくさん使ってきましたが、その電気がどうつくられているかを知らないでいただけなんですよね。だからエネルギーのことをもっと意識するようになれば、自然エネルギーへの移行も絶対うまくいく。心配することはないと思います。

飯田——その通り、意識することだと思います。それから私は、「情報」と「お金」と「エネルギー」の3つは、今の文明をつなぐある種の媒体物のようなもので、それがいかに民主的に開かれ、市民が関わっているかで、その社会のありようが決まると考えています。この3つのなかで、これまでエネルギーが一番閉じており、ブラックボックスのなかで意思決定が行われてきた。こういうことに一人ひとりが自覚的になり、その選択に関わっていくことがこれから非常に重要であり、それができれば社会はよい方向に進んで行くと思っています。

小林——エネルギーは人間にとって根本的な問題です。我々が生きていること自体が、エネルギーの活動なんです。ですから、どう生活するか、どう行動するかは、「どのようなエネルギーをどう使うか」とほとんど同義です。そういう人間の生き方全体、あるいは今日お話しした哲学的な原理、そしてそれにもとづく政治経済構造のあり方、その全体を見直す大きな契機にこの311がなれば、と思います。311を契機としてよりよい世界が実現したと、後になって思えるよう、一人一人が努力すべきだと思っています。

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