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あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 震災以降、社会に生まれた科学者への不満や期待と、科学者の側の切実な思いとをぶつけ合い、議論しました。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。
(このサイトでは、当日の講演とディスカッションをダイジェストでまとめています。イベント全編はYouTubeでご覧ください。)

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1|「自然エネルギー100%の未来へ」 飯田哲也
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今さまざまに議論されている自然エネルギーのコストと可能性は、実際にはどれほどのものなのでしょう? まずは各エネルギーを客観的に評価し、そのうえで自然エネルギー100%の未来像について考えます。 (YouTube 0:12:24~0:33:17)

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2011年以降、エネルギーの値段はどう変わる?

 今日のタイトルは「自然エネルギー、高くても買いますか」ということですが、実際「自然エネルギーは高い」というイメージが皆さんのなかにあると思います。まずは自然エネルギーや原子力エネルギー、化石エネルギーの発電コストがそれぞれ相対的にどうなっていくのか、その実態をお話しします。
原発のコストに関しては、経産省から1kW時あたり5円から6円という数字が出されていますが、有価証券報告書から計算した大島堅一さん(同志社大学)によると、10円前後。電力会社が自ら報告している設置許可申請書に記載されている数字ですと、平均15円ぐらいです。経産省のこの5~6円のなかには、放射性廃棄物の処理にかかる費用として1kW時あたり0.5円くらいの額が見積もられているのですが、実際にはその10倍の5円くらいはかかるのではないかと思います。
さらに、事故コストが必要です。今回のような事故が次に起きると、その損害賠償をすべて保険会社に支払ってもらう場合の保険料は、オランダで計算した例で1kW時あたり5円、ドイツでは最低15円(最大で8000円)という見積もりがあります。これらをすべて勘定にいれると、原発のコストは1kW時あたり、控えめに見ても25~35円[15+5+(5~15)]になると考えられます。

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 化石エネルギーのほうは、今後、燃料の値上がりがうなりをあげて進んでいく状況です。リーマンショック前までの10年間で、化石燃料の値段は約5倍になっています。日本が1年間に輸入する化石燃料のコストが10年前には5兆円だったものが、2008年には23兆円となって貿易収支を悪化させています。2008年には、貿易黒字が2兆円まで下がってしまい、今年は下手をすると貿易収支は赤字になるかもしれません。

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化石エネルギー輸入額と貿易収支
[出典]財務省貿易統計より国立環境研究所集計
(潤滑油など非エネルギー用途考えられる物は除く)


 一方、自然エネルギーのコストは、今後急激な低下が期待できます。例えば太陽電池パネルの値段は、アメリカでは2010年で発電能力1kWあたり12万円程度、スウェーデンでは今年1kWあたり6万円を切ります。これは液晶テレビや携帯電話、パソコンなど、小規模分散型の製品に共通してみられる傾向ですが、つくればつくるほど製品の性能は上がり、値段も下がっていく。風力発電の設備の値段も、導入が進むに従って下がってきています。風力の稼働率は一般的に太陽光の倍あるので、発電量あたりのコストでみると、太陽光の半分くらいになります。
 これをうけてドイツでは、太陽光発電の買い取り価格はどんどん下がっています。最新の値では、1kW時あたり29円。大規模太陽光発電所メガソーラーでは、1kW時あたり22円です。日本でも自然エネルギー固定価格買取制度が来年導入された場合、買取価格は太陽光では1kW時あたり40円弱、風力は20円程度と設定でき、その後も徐々に下げていくことができるだろうと考えています。

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買取価格の想定(ISEP試算)


 以上の話をまとめると、今、見かけ上は自然エネルギーが高く、原発や化石エネルギーが安くなっていますが、原発には安全コスト、事故コスト、廃棄物コストを上乗せして考える必要があります。また化石エネルギーには、資源枯渇や温暖化リスクによるコスト上昇を考慮しなければなりません。一方で自然エネルギーは、液晶テレビの例でもわかるように、これから急激にコストが下がっていくというトレンドにはっきりと乗っていますし、追加的なリスクはないと考えてよいでしょう。これからのエネルギーとして、どちらを選択するのかというのは、合理性から考えて、もうはっきりしています。

コストを相対的に見る必要

 では、化石エネルギーに代わって自然エネルギーを大規模に導入した場合、将来のコスト負担がどう推移するかを考えてみましょう。現在は相対的にコスト高の自然エネルギーを導入すると、電気料金にいくらか上乗せされますが、いずれ発電コストの低下によって今とおなじくらいの料金水準になるでしょう。一方、自然エネルギーの導入により、化石燃料の費用を減らしていくことができるので、長期的には電気料金は下がっていく可能性があると思います。
 今後10年間の、エネルギーコストが家計に与える影響も見積もってみました。2020年までに全電力量の13%を太陽光や風力などの自然エネルギーにした場合(従来の水力も合わせると自然エネルギー全体で23%)、一般家庭の電気料金は10年後には1000円弱程度上がる可能性があります。しかし同時に、化石燃料の上乗せコストはさらに2000円強存在します。そして自然エネルギーを普及させなかった場合には、代替できなかった化石燃料費用が千数百円生じることになります。下の図には原発のコストは入っていません。もし今後も原子力を運転するのであれば、廃棄物の処理コスト、事故の賠償コストを上乗せして考える必要があるので、競争力のある電源とはならないでしょう。今後、エネルギーのコストはいやがおうにも上昇します。だから自然エネルギーだけでなく、他の電源と相対的に見て、上昇するコストをどこに振り向けていくかを戦略的に考えていくことが重要なのです。

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自然エネルギー普及にともなうコスト効果のイメージ [出典]ISEP


「新しい現実」を前提に考える

 では、次に自然エネルギー100%の未来を考えてみましょう。まず前提として原子力の状況を見る必要があります。日本の原発の多くは、1970-80年代につくられていて、これから新増設がないとすると、今後急速に減少していきます(下図の青線)。しかも震災によって多くの原子炉がダメージを受け、今や総電力に占める原子力の割合は18%、一次エネルギー換算では6%にまで落ちています(下図の赤線)。ダメージを受けた原子炉の再稼働はできず、他の原子炉は定期点検後の再稼働が認められた場合、10年後には原発の割合は電力量にして10%、一次エネルギーに対して4%。もし定期点検後の再稼働が一切認められなければ、来年にでも原発全廃ということもあり得ます(下図の緑線)。

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原発設備容量の今後の推移 [出典]ISEP


 このような「新しい現実」を前提に今後のエネルギーの選択を考えていくわけですが、これまでのように化石燃料に頼り続けることは、資源枯渇と温暖化というあまりにも巨大なリスクが待ち受けています。だから長期的には、自然エネルギーと省エネルギーに向かっていくしかありません。私たちの人類文明を、この先数百年、数千年、あるいは数万年の間、持続的に営み、地域不均衡や世代間不均衡が生じないようにするためには、持続可能なエネルギーと資源を再生可能な範囲内で使うしか方法はありません。時間がかかっても、この自然エネルギーを軸としたエネルギーシステムを手に入れていかなければならないのです。


2050年へのロードマップ

 太陽から降り注いでいるエネルギーは、現在地球上で人類が使っているエネルギーの1万倍もの量があります。そのわずかに1万分の1のエネルギーをとらえてエネルギー変換することができればいいのです。では日本国内では、どれだけの自然エネルギーをつくることができるのでしょうか。環境省の調査によると、太陽光と風力とで設備容量として20億kWものポテンシャルがあることがわかっています。これは日本の全電力施設の設備容量2億kWの10倍もの量です。もちろん、太陽光発電や風力発電の場合、施設利用率は10~20%程度ですが、それを考慮しても現在の発電施設をはるかに超える発電能力を自然エネルギーだけで確保できるのです。

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日本での導入ポテンシャル
[出典]環境省「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(2011年3月)


 2001年から毎年毎年、自然エネルギーが地球全体で正味増えた量をプロットすると、太陽光と風力ではこの“増え方”が増えています。逆に原子力は減ってきている。あと3~5年で、原子力の設備容量を風力の設備容量が逆転するでしょう。そして、太陽光、風力にバイオマスを加えた設備容量では、2009年ですでに原子力を追い抜いている現実があります。

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各年で新たに導入された自然エネルギーの設備容量
まず風力発電、次いで太陽光発電が原発の伸びを追い越した。
原発は「伸び」ではなく「純減」の時代に入る
[出典]GWEA, IAEA, Photon, Platts,


 このような事態を導いたのは、各国で政治が非常にはっきりとした目標とビジョンを立てて、政府が”賢い政策”を導入したからです。それは、日本でも先日審議が始まった、自然エネルギー全量買取制度を基本とする政策です。この制度を導入している国が、いまや世界で88カ国にのぼり、この10年で急速にマーケットが拡大しています。
 経済的にも非常に大きなインパクトがあります。自然エネルギーへの投資額は過去10年間で20倍に増え、去年は22兆円にのぼりました。これから10年でさらに10倍の200兆円にまで伸びるだろうといわれています。このマーケットのなかで現在、日本が占める割合はわずかに1.5%。しかも、世界で活躍している自然エネルギー企業のなかに日本企業はほとんど見当たらず、今後拡大する自然エネルギー市場において日本の存在感はほとんどないというのが現状なのです。
 日本も今この”賢い政策”を実施して、自然エネルギーの割合を増やす努力をすべきです。ドイツでは過去10年間で、自然エネルギーの割合を6%から17%に増やし、今後10年間で40%にしようとしています。日本もドイツと同じようなペースで、自然エネルギーを全速力で増すことができれば、全電力のうち今、自然エネルギーが占めている10%の割合を、今後10年で30%にまで増やすことが可能だと思います。原子力は2020年には0~10%、そして省エネ・節電も無理のない範囲内でがんばって20%を達成します。このような取り組みを継続することで、2050年には今の全電力を自然エネルギーと省エネルギーの半々でまかなうことができるようになると考えています。

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エネルギー構成の将来シナリオ
2020年までに原発の割合を10%(上)あるいは0%(下)とする場合 [出典]ISEP

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飯田哲也
環境エネルギー政策研究所所長
1959年生まれ。京都大学原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程修了。大手鉄鋼メーカー、電力関連研究機関で原子力研究開発に従事した後に退職。スウェーデンのルンド大学客員研究員などを経て現職。日本における自然エネルギー政策の第一人者として知られる。

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