メディアラボ第19期展示「匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界~」

常設展示「メディアラボ」は、先端情報技術による表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していくスペースです。

ようこそ、嗅覚の世界へ。
私たちの身の回りには豊かな匂いの世界が広がっていますが、忙しい現代、匂いに心を向けるのはなかなか難しいことです。 この展示では、さまざまな匂いを実際にかぎながら、嗅覚の不思議を体感することができます。近年の研究によってわかってきた成果のなかから、鼻が「匂い物質」をいかに捉えるのかと、脳が匂いをいかに感じ、感情にどう影響を与えるのか、という2つの視点から奥深い嗅覚の世界を紹介します。嗅覚のしくみの奥深さを知れば、今までとは違う感覚で「匂わずにいられない!」ことでしょう。


出展者インタビュー

レッスン1:多様な匂いを感じる仕組み

私たちヒトの鼻の内側には、約400 種類もの匂いセンサー(嗅覚受容体)が存在しています。空中を舞う「匂い物質」がこのセンサーにぴったりはまると、匂いを感じることができます。展示では、この匂いセンサーの仕組みについて興味深い実験を2つ紹介します。

  • 【匂い体験】 感じる?感じない?
    スミレやパンジーの匂いに含まれる「β-イオノン」という匂い物質は、対応する匂いセンサーのかたちが人によって異なることがわかっています。結合のしやすさが異なるため、感じる匂いの強さも人によって異なります。

  • 【匂い体験】 匂いは、「組み合わせ」
    シナモン、レモン、ライムの3つの匂いを組み合わせると、コーラ飲料の匂いを再現することができます。さまざまな匂い物質がそれぞれの匂いセンサーにはまることで、匂いは複雑に変化します。

レッスン2:匂いは感情をゆさぶる

なんとなく好きな匂い、嫌な匂い。実は、匂いは脳や感情に直接はたらきかけていることが、研究から明らかになってきました。ここでは、「悪臭とストレス」、「赤ちゃんの匂いと親の愛情」それぞれの関わりについてご紹介します。

  • 【匂い体験】 悪臭を、かいでみよ!···そっとね。
    イソ吉草酸という匂い物質は、汗や靴下の悪臭に含まれています。この匂い物質をかぐと、ストレスを示すα-アミラーゼという物質がだ液にあらわれます。ところが、イソ吉草酸にバニラの匂い物質「バニリン」を加えるとチョコレートのような心地よい匂いに変化し、ストレスが軽減されることがわかりました。

  • 匂いと愛
    匂いを頼りに母マウスが赤ちゃんを運ぶなど、赤ちゃんが発する匂いがマウスの子育てでは重要な役割を果たします。ヒトでも同じとは限りませんが、東原氏の研究グループが未就学児の父母を対象に行ったアンケート調査では、赤ちゃんの頭の匂いに愛着をもつ人が多いことがわかっています。

レッスン3:匂いを、語れ

匂いを言葉で表現できるようになると、もっと匂いを楽しむことができます。 展示では、これまでのレッスンで学んだことを思い出しながら、匂いをかいでアンケートに答え、言葉に表します。この体験は、東原氏の研究グループの調査も兼ねており、次の研究テーマを生み出す一助になります。


公開時期 2017年12月13日(水)― 2018年5月21日(月)
出展者
  • 東原和成(とうはら・かずしげ)

    東京大学大学院農学生命科学研究科教授
    JST ERATO 「東原化学感覚シグナルプロジェクト」研究統括
    博士(Ph.D. ニューヨーク州立大学ストーニー・ブルック校)
    デューク大学博士研究員、東京大学医学部助手、神戸大学助手、東京大学助教授をへて、2009年より現職。