03 02 02 「東日本大震災における被災地情報支援の取り組み」 | 未来設計会議

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あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 震災以降、社会に生まれた科学者への不満や期待と、科学者の側の切実な思いとをぶつけ合い、議論しました。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。
(このサイトでは、当日の講演とディスカッションをダイジェストでまとめています。イベント全編はYouTubeでご覧ください。)

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1|「東日本大震災における被災地情報支援の取り組み」
長坂俊成
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(YouTube 12: 53~28:25)

被災地からの声なき要請をどう汲み上げるか

 私の勤務先である防災科学技術研究所は独立行政法人で、国の研究機関です。これから紹介するのは、国の研究機関で国の施策として行ったことでなく、国の施策が不在だったために、われわれが市民や事業者、NPOの方々との協働性の中で、被災地をどう支援したかという話です。決して「私がこんなことをした」という自慢話ではなく、逆にもっとできたはずなのになぜできなかったのか、が肝心です。これはぜひ皆さんとディスカッションさせていただきたいと思います。
私がふだん行っているのは、今回のように想定を超える事態が起こったときに、社会全体の協働性の中でリスクをいかに小さくしていくかという、仕組みづくりの研究です。そのためには、どうしても「情報」が鍵になります。不確実性を孕むリスクを軽減させるために、情報を共有・流通し活用することによって、社会全体としてどう協働するか。私たちは研究領域としてこれを「リスクガバナンス」と呼んでいます。

リスクガバナンスとは


こういう研究をしているわれわれが、いざ3.11のような災害が起きたときに、まず何をしなければいけないか。今回、被災地では直後に電源喪失をし、二次災害として原子力災害も引き起こしました。こうした状況では、下からの補完性では対処できません。下からの補完性は、一定の局所的な災害が起きたときに妥当する原理で、今回のように想定を大きく超えてしまった場合には、それが機能しません。
皆さんはテレビでずっと報道を聞いていたと思います。「要請がない」ということで、国はなかなか動きませんでしたよね。でも被災自治体は通信手段も失い、基礎的自治体の基本的な災害対応機能を喪失したため、国等へ救援の要請ができなかったわけです。被災地から情報が発信できない。それに対して私たちは以前から、こういう事態が起きたとき、被災地の外の支援者が、被災地の中から要請がなくても助けに行くための情報共有の仕組みを開発していました。被災地の情報発信の機能が段階的に回復し救援を求める声が上げられるようにする情報システムの仕組み、それをオペレーションする社会的なガバナンスの仕組みが大事だと言い続けてきたんです。研究開発をこれまでやってきて、道具立てはできていました。ただし、それをちゃんと実務に生かしていくべき国の防災行政に働きかけてきましたが、一切これを無視してきたんです。
今回の震災発生後も、その必要性を投げかけましたが、まったく無視されました。そこで私は、今まで貴重な税金で開発してきた研究成果を用いて、被災地を支援するための情報プラットフォームを立ち上げ、オペレーションも自分がやるしかない、という状況に迫られて活動を始めました。このミッションについては、すべて民間からの寄付、それに市民ボランティアの方、またプロフェッショナルなボランティアの方々の協働性の中で実現できたことです。3月11日以降、このミッションのために私が皆さんの税金を使ったのは、私のチームの研究員の人件費と現地への旅費だけです。

情報を組み合わせて加工する

皆さんはホームページで「ALL311」というのをご覧になったでしょうか(http://all311.ecom-plat.jp/)。この仕組みを使ってわれわれが取り組んだことを紹介します。まず、初動期は被災地から情報が上がってきませんので、外から被災地に助けに行く人たちの手掛かりとなる情報を提供することがはじめのミッションになります。私たちは助けに行く人たちにどういう情報を提供するのかに苦心しました。
次に、被災地の中から被災自治体が情報発信することや、被災自治体が被災地の中の情報を収集し復旧業務を効果的に行うことを支援するミッションに取り組みました。または災害ボランティアをコーディネーションする被災地の災害ボランティアセンターの情報発信や被災地での活動を情報面で支援しました。さらに、現在では、被災地のコミュニティが自ら復興に取り組んでいる人たちをどう支援するか。これらの情報支援に取り組んできました。
簡単に言いますと、私たちはインターネット上でさまざまな機関が分散的に公開している被害状況の情報や対策の動向などの情報を、位置と時間を考慮して、組み合わせて二次加工し対策に活かす情報プラットフォームの仕組みをつくっていたわけです。「そんなのはGoogleマップでぜんぶできるはずだ」と言われる方は多いです。Googleマップの貢献も確かにあります。でもGoogleマップだけで災害対応に必要な機能が実現できるわけではありません。
一方、サイエンスの人たちが情報提供者として、今回どういうコンテンツで貢献したのかということですが。例えば、JAXAの「だいち」は震災直後に衛星写真を撮っています。衛星画像は広域に被災した状況を俯瞰し把握できます。これを被災地の被災前の地図や対策上の情報と同じ図郭、縮尺で重ね合わせて、被災の程度が認定できるように情報を組み合わせて、評価できる状態でコンテンツを提供しないといけない。今回、これを本来やるべき人たちがやっていなかった。それを私たちがやってきたわけです。

当事者と専門家の相互協力による運用

 ではどんな情報が流通し組み合わせて利用されたか事例を紹介します、例えば道路の通行実績マップです。これは、車載のナビゲーションシステムから送られてくる位置情報を活用したもので、被災後に被災地で走っている車がどこを通行したかの区間を津波後24時間ごとに集計し、道路の上りと下りの路線ごとに通行可能な経路を示したマップです。この情報を、インターネット上で地図等の情報を流通し組み合わせて2次利用できる世界標準の仕組みを用いて、先ほどのJAXAの被災後の衛星画像などと同じ縮尺で重ねて見る仕組みを提供しました。それによって、被災地の外から被災地に救援に行く方々や被災地のライフライン等の復旧に向かう事業者等が、どのルートから現地に入れるのか、どこを後方基地にするかを検討することができました。また、地区ごとの被災の程度を把握し、どの地区を優先的に復旧すべきか、どの地区にどの程度救援物資が必要になるかを検討できるわけです。
しかし、被災後のALOSの画像だけで対策が打てるかというと、打てません。見ていただければこのとおりです(下図)。

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右端の写真は被災後です。これだけ見ても、もともと田んぼで泥がかぶっているだけなのか、家が流されているかはわかりません。同じ図郭、同じ縮尺で、被災前の土地利用や建物や道路などの状態が分かって初めて、ここの住宅がすべて流出していることが比較によってわかるわけです。これも全部世界標準の仕組みで実現しています。このシステム私たちが開発し無償で公開しています。自治体等公的機関に関わらず商業利用しても国や防災科学技術研究所に一切ロイヤルティーを払わなくていいというオープンソース、フリーソフトとして権利処理しています。
こちらは住宅地図です(下図)。これがあると、ただ建物があるということだけでなく、より具体的に、どんな施設だったのかまで含めてわかります。

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 このようなシステムとコンテンツを組み合わせると、本来は遺体の捜索などが効果的にできたわけですが、私たちがこれを提案しても政府の現地対策本部は耳も傾けない状況でした。国の補正予算でも手当されませんでしたので、民間からの寄付や購入すると何千万円もするデータを無償で提供してもらい、私たちが公民協働で被災地や外部の支援者たちに情報提供していったわけです。
また岩手県の陸前高田市では、この仕組みを使って罹災(りさい)の判定調査を用いて罹災証明書を発行しました。被災後の航空写真などから建物の被害の程度を評価することで、建物の損壊のレベルに応じた判定結果に基づき罹災証明書を発行する仕組みです。これも先ほどと同様に仕組みは全部オープンソースです。操作性も簡単ですので、東京都の職員が来て10分で発行業務ができていました。
それから炊き出しの調整にも活用しました。地震後、3週間目くらいからボランティアが全国から被災地に入ってきます。すると、そこで彼らは炊き出しを始めます。しかし支援が偏在します。テレビでやったところについては、三度も四度も炊き出しが集中します。その状況に対して、私たちは自衛隊にこの仕組みを紹介したんです。以来、実際に自衛隊がやった炊き出しの実績・予定、ボランティアがやった炊き出しの実績・予定、その調整を5ヵ月ずっと行っています。
このように、災害時に国が情報を集約して提供するだけではなく、国が提供しなくても、当事者間で共有し、いろいろな専門家がそれを使って二次加工して、さらに情報提供すること、これを分散相互運用といいます。今回明らかになったのは、日本にはこの環境がまったくなかったということです。本来国の防災をつかさどるかたがたに、われわれが繰り返し主張してきたことはこれまですべて否定されてきたし、いまだに理解されていません。
実は、この測位・地理空間に関しては、皆さんご存じないと思いますが、整備及び活用のための基本法もあるんです。国を挙げて計画的に行っているということで、防災の白書にしても、e-Japanの中でも、「進んでいる」という評価です。僕は「進んでいない」と各学会の先生がたにも伝えていましたが、誰も聞く耳を持ちませんでした。今回の震災では図らずもその実践をするということになりました。しかしまだまだできなかったことがあります。それについては、ディスカッションの中でもお話ししたいと思います。

長坂俊成 プロフィール
長坂俊成
防災科学技術研究所 主任研究員
1962年生まれ。震災直後から被災地入りし、「東日本大震災協働情報プラットフォーALL311」というネット上のサービスを立ち上げ、情報提供による被災者支援を行う。現在も頻繁に現地に出向き、救助や復興支援を続けている。

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YouTube: イベント記録映像(2時間38分 イベント開始は5分40秒からです)


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