03 02 02 参加者としてのディスカッション | 未来設計会議

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あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 震災以降、社会に生まれた科学者への不満や期待と、科学者の側の切実な思いとをぶつけ合い、議論しました。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。
(このサイトでは、当日の講演とディスカッションをダイジェストでまとめています。イベント全編はYouTubeでご覧ください。)

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5|参加者とのディスカッション
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(YouTube 1:11:06~2:35:16)

お二人の講演に対して、参加者はどんな意見をもったでしょう。続くディスカッションでは、緊急時の情報発信のありかたや、リスクのとらえかた、科学者の役割と市民の側がもつべき心構えについてさまざまな論点が提出されました。
※参加者の発言は一部編集して記載しています。


参加者とのディスカッション


[1] 情報発信における問題点

市民の欲する情報が発信されるために必要な仕組みとは?

参加者1 御用学者という言葉を頻繁に聞きましたが、実際に御用学者と批判されているような方々がいるのでしょうか。また、どうしてそういう仕事をしているのですか。

参加者2 同じ放射線の防護に関して、ある学者さんは「まあ大丈夫だよ」と言い、ある学者さんは「危険だ」と言う。どちらを信じていいかわかりませんでした。科学をやっている人の話をまとめてくれる人がいるといいと思います。

中島 御用学者の中島です(笑)。今回の場合、おそらく多くの科学者は、自分の任務や社会的な責任・機能として、誠意を持って話しています。ただ、混乱の状況でデータがなく、ないデータを自分の知識で補完しながら発言しているため、意見に食い違いが起こった面もあったのではないか。しかし、時間をかけて検討すれば、科学者はきっちりとした結果を出すことができます。今回問題だったのは、社会に対しても、プロの科学者の間にも、データや情報がちゃんと流れていなかったところにあります。
私が示した放射性物質の飛散モデルの数値計算などは若い人が出したものです。早野先生がどんどんTwitterで情報を発信しても、批判によって致命的なことにはなりませんが、若い人がやった場合、研究者生命を失うような批判もあり得ます。政府の任を受けている立場の人たちが、そういった若い研究者を守りながら彼らから情報を吸い上げて、その情報を専門家に流し、議論をしたうえで社会に流す。そこまでやるのが本来の御用学者の役割なんじゃないでしょうか。気象研究所などのプロの人は、実際には解析をやって情報をもっていた。しかし専門家の中でも情報共有ができなくて、結局、社会へも発信できなかった。あまりにもまじめな国民性のためか、政府のポジションにある人は、内部だけで完結してしまう。その辺りの情報の血行障害がなければ、いいサッカーゲームができたんじゃないかと思っています。

参加者3 科学者の方々は、限定的な範囲の中で専門的にお話をされるので、一般市民には全然わからないということになる。国民が知りたい内容を、国民が納得できるような科学的でかつわかりやすい言葉での情報提供をお願いしたい。

参加者4 やってきた仕事を一般の社会に対して発信するのが科学者のファンクションではないでしょうか。情報を出さないのであれば、なんのために科学者をやっているのか。

早野 初期の段階で放射性物質の飛散予測情報を提供するはずだったSPEEDIの情報は公開されませんでした。いつ、どちら方向に、どのくらい、何が飛んだかということは、当時誰もが知りたくて、海外から発信されたデータをネットで見て一喜一憂していました。私はこの計算をしてくれる人はいないかと探したところ、国内でこっそりやってくれる人が見つかたんです。そのシミュレーション結果をウェブ上で公開させてもらいましたが、「シミュレーションを自分がやったと上司にも言わないでください」と言われました。自身の研究に国の予算が入っているという立場と、組織として出す情報はシングルボイスでなければという意識だと思います。

平川 個人で情報を発信できなかったのは、その責任を個人では負い切れないからだと思います。政府や原子力関連の機関などから情報発信する場合もそうですが、もし情報の誤りに気づいて修正すると、「情報を隠した」と疑われ、マスメディアで報道される。本当は社会に知らせたいが、不確定なため情報発信は控えておこう、もっと証拠が集まってから発信しよう、と考え、そのうちに情報発信が遅れて手遅れになることが結構ありました。間違っても気兼ねなく修正できるような情報の出し方と受け止め方を社会にくみこむことが大切かと思います。
また、中島先生のおっしゃるとおり、研究者個人に発言の責任がいかないよう、学術会議などが意見を集約し、科学者の総意として情報を発信するなど、組織で情報の責任を担保することが大事です。

長坂 緊急時に必要な情報が出てこなかった理由の一つには、実務と研究開発の連携のなさの問題です。例えば、科学技術政策と危機管理政策が真二つに分かれているというのが大きな問題です。
被災地から被害情報があがってこない状況下で、JAXAが打ち上げた「だいち」が被災後に撮影した衛星画像は役に立ちました。しかし、JAXAには、災害対策基本法に基づいて災害時に衛星画像を広く一般に無償で提供するミッションはありませんでした。今回は例外的に提供していただきましたが、原則、「だいちは試験実証用の衛星です。実務のオペレーションのための衛星ではありません」という、非常に馬鹿馬鹿しい線引きをしている。サイエンスや研究開発の途上の成果物を用いて「あなたが頑張れ」と言うためには、災害対策基本法上「指定公共機関」に指定され業務計画に位置付けられていないと、災害時に機動的に動けないわけです。予算もありません。研究開発途上の成果も含め、災害時は動員して活用するという社会的なコンセンサスが必要です。

参加者とのディスカッション

情報の正しさを担保するのは誰なのか?

参加者5 ジャーナリストやNPOの方の講演会を聞いて、恐ろしい、ここにはいられないと引っ越しをしたり、これを食べれば放射線が全部出ていくという食事療法を信じてそればかり食べる人がいます。フリーで活動している方たちのほうが、一般市民に対して影響力が大きいと思えます。私たちがほしいのは正しい情報です。科学の専門家の方たちから正しい情報をもっと効果的に寄せていただきたいです。

参加者6 放射線を扱っている医師です。医学というは科学のなかでもかなりおおざっぱな分野だと思います。放射線被曝リスクに関しても十分な実験データは無くて、物理学者さんのやられているサイエンスと比べると、医学というのはそれほど精度の高いものではないのです。物理学者の方の中には放射線は危険だと、ご自分の専門分野を超えて医学的なリスクに言及された方が結構いらっしゃいましたが、そのことが市民の混乱を招いた原因のひとつだったと思います。

長坂 いや、ここで皆さんに考えていただきたいのですが、たとえば健康食品に関する情報なども、普段から身の回りにもおかしいことがたくさんあります。それが今、よく目につくようになっているだけなんです。今はもう、おかしな情報を流す学者の“魔女狩り"をしている状況じゃないんです。皆さんが冷静になって、リスクと社会がどうつきあうのかを本気で話し合う社会にしていかないと。


学術界がもっと機能するために何が必要か?

参加者7 先生方からの情報が政府の政策決定にはほとんど影響を与えてきませんでした。マスコミなどの媒体も含め、どういうチャネルで情報を発信すべきとお考えですか。

平川 すでに始まっているものとして、早稲田大学のジャーナリズムコースの人たちがつくっているサンエンス・メディア・センター(http://smc-japan.org/)があります。複数の科学者の意見を並列的に出し、メディアの人々に判断し使ってもらい、科学者、研究者とメディアとをつなぐ仕掛けです。これは今回かなり活躍しました。

中島 方法としては2つあります。1つは早野さんみたいなスターを使って、メディアを絡めてどんどん行く方法。もう一つは、私のように地味でまじめな御用学者が学術会議を通していく方法。
学術会議のルートは非常に重要なんです。本来、学術会議は政府の組織の一部でもあるのだから、提言を出しっぱなしにせず、官邸に持っていって「何とかしろよ」と総理に叩きつけるくらいすべきです。早野さんができるんだから、学術会議の会長だってできますよね。だけどそこのパイプが弱くて、僕は非常に歯がゆい思いをしました。日本中から情報を集めて、政府へ伝えるメカニズムが動いていなかったのが問題です。
また、日本では政府もおそらく皆さんも、やはり科学をばかにしているんじゃないかと思います。信用してない。アメリカのコロラド大学に地球環境の大きなセンターがありますが、そこには地方政府と直接つながったホットラインがあるといいます。例えば「温暖化の次はどんな研究をやる」など、どういうことを、どういう予算でやるかがと直接議論ができます。日本の場合は、「あなたがたサイエンスフィールドで勝手にやってください、それは政策とは関係ありません」という位置づけです。政府の方針が研究費に直接反映されることはほとんどありません。研究者それぞれが獲得した研究費の中で、なんとかやりくりしていくことになると思います。
政府側から方針を伝えるコミュニケーターと、学術会議から意見を伝えるコミュニケーターが必要ですね。

参加者とのディスカッション


参加者8 学術会議の会長さんとかは功成り名を遂げた学者さんだと思うのですが、組織の運営を専門にやられているわけではないでしょう。ですから、そもそも学術会議をつくり替えなければ、期待するような機能は発揮されないのではないでしょうか。

長坂 いや、はっきりいいますが学術会議には期待しないほうがいいですよ。
平常時も国策として、大学の研究者を中心として、防災のための研究開発プロジェクトを推進してきました。首都直下、東海、東南海、南海連動型の災害を防ぐための研究費を多く使ってきました。それらのプロジェクトのリーダーやメンバーには、大学の先生、学術会議の会員の方もたくさんいらっしゃいます。そのような国家レベルの研究プロジェクトのマネジメントは片手間で行われています。国家プロジェクトのリーダーは「私はこの5年間研究も教育もやめます。マネジメントに徹し国民のために本気で戦います。」という仕組みになっていません。そんな状態で実務に役立つ答えが出せるはずはありません。会場の皆さん方も今になって情報がないとか間違っているなどと言いますが、研究開発の仕組みをしっかりみて指摘してください。皆さんと本気で夜通しで議論したいほど、これから変えなければいけないことがたくさんあります。

平川 長坂先生がいわれた「片手間」というのは、学術会議の科学者が悪いというわけではなく、仕組みの問題です。アメリカの国立アメリカ科学アカデミーには、全部で600ぐらいの委員会があります。その委員会でどういうテーマでどういう資料を集めてどういう審議をするか、どういう専門家を招くかということを切り盛りしているリサーチャーが科学アカデミーには多数専属しています。主任クラスでだいたい100人、トータルでは1,000人ぐらいという規模です。
日本学術会議の事務局は文科省からの出向のみで、リサーチ機能はありません。ここに所属する科学者は、普段は大学で研究、教育、学内行政の仕事があって忙しい。片手間でしか参加できない先生がまじめに議論できるわけはないんです。ですから専任で責任を持って24時間戦えるようなリサーチャーを学術組織に雇わねばなりません。信頼できる知識を生産するにはお金が必要です。そのために税金を使うことを、われわれ納税者はしっかり考えねばならないと思います。

[2] リスクへの対処における問題点

相対的なリスクのとらえ方とは?

参加者9 3人の子どもの母親です。リスクを科学的に考える際に、一番責任のある人は、私たちお母さんだろうと、強く感じています。今は怖いから安全なほうに安全なほうに考えてしまい、そのリスクを避けることによって発生する別のリスクへの意識が抜け落ちています。お母さんたちを集めて小さな勉強会を始めていますが、リスクを相対的にとらえる考え方を広めるにはどうしたらいいでしょうか。

平川 実は普段からわれわれは複数のリスクを判断しながら生活しています。一回引いてみて、普段の自分たちのしている判断を思い出してみることも大事です。科学的な情報に加え、自分として何を大事にしたいか、そのために何を我慢してもいいかと判断すると、おのずと優先順位が決まってくるのではないでしょうか。

長坂 リスクを社会がどう扱うかという基礎的な知識を、義務教育課程でしっかり教えねばなりません。また、個人の選択が社会に及ぼす影響について意識する必要があります。例えば、今回の津波に遭った人の中には、先祖代々その場所に住んできて、今回の津波の浸水深が2メートル未満の所では3分の1しか家屋が流出していないから、もう一回そこに戻りたい、という人もいるでしょう。でも実際には、たまたま逃げられただけかもしれません。自分が元の家に戻るという選択をすることで、周りの人が助けに行くリスクが発生する。社会基盤として道路やガス、電話、電気を全部引き直すと、次の世代にそのままそれが受け継がれますが、リスクも次の世代に押し付けることになるかもしれない。どちらが正しいということはありませんので、さまざまな可能性も含め、リスクへの対処をしっかり議論しなければなりません。

参加者とのディスカッション

[3] 今、科学者と社会がすべきこと

測定を続け、社会に公表すること

参加者10 放射線問題については、まず測定することが一番大事、それが公表されることが次に大事だと感じています。科学者の責任は、正確な値を市民に示すということしかないと思います。ネックとなっているのは組織で、今回一番象徴的なのは、SPEEDIです。SPEEDIが公表されなかった理由は、組織全体でそれが決められたからではない。一部の人が「それはちょっと」と考えたことですべて止まったり、SPEEDIのデータを担当者がちゃんと見てなかったりと、われわれの命がかかっている情報が非常に低次元な理由で公表されなかった。組織の質を下げるボトルネックをいかになくして確実に公表するか、その原点となるのが、「すべてを公表していく」という姿勢だと思います。

早野 おっしゃるとおりです。給食の放射線量を測りましょうという提案を最初に文科省の担当者に持っていったとき、「測ってみて検出限界をこえる値が出たらどうしますか。現場はきっと説明できないだろう。やりたくない」と明確におっしゃいました。しかし、測って淡々と正しい数字を出し続けることが非常に重要です。安全か危険かは、その数字を見て個人が判断すればいいんです。

平川 計測値の公表については、政治家の資質の問題もあります。私は大阪府の食の安全安心推進協議会の委員ですが、そこのトップはこの間まで橋下徹さんでした。彼は、一番大事なのは信用だと判断しました。それで大阪府は先んじて測定器を買い、公衆衛生研究所でデータを毎日取り、もし高い値が出たら、間に合う限りは利害関係者に全部話を通して、リコールすると決めました。リコールしないでそのまま流し、後から発覚したら一発で大阪の食品業界はアウトだという覚悟を持ってやった。政治家としてこの判断は正しかった。日本政府にも、ほかの自治体にもぜひ見習ってもらいたいと思います。

長坂 データを全部出すのは当たり前です。絶対に隠しては駄目。数十億の税金を使ってきたわけですから。それを信頼性がないから出さないということ自体、皆さん国民をばかにしています。
今たいへんな状況ではありますが、あらゆる社会の矛盾が今この危機のときに飛び出しているだけだと僕は思います。決して特殊な状況ではありません。皆さんは日頃から冷静で批判的な精神でコミュニケーションをして、行政や学者にもきちんと文句を言ったほうがいいと思います。


正しいリスク評価をもとにした政策決定

早野 政策担当者と話をすると、今の学者に欠けているものは、経済学だと感じます。例えば除染の問題。その予算がリスク回避に見合うだけの金額になっているかを、誰がどうやって判断するのか。ほかのリスクに関しては、このくらいの寿命が減る要因を減らす施策にどれくらい予算をつぎ込むことが妥当かという、過去のスタディがあります。それを参考に、どのくらいの予算をかけて何日分平均寿命を伸ばすだけの除染をすれば妥当だと、言える能力のある研究者がちゃんと言うべきです。

参加者11 予算をどのプロジェクトにどれだけかけるかといった判断を科学者に求めても、コンセンサスは得られないと思います。判断して予算をつけるのは、われわれが選挙で選んだ政治家の仕事ではないでしょうか。

長坂 限られた財源の中でどうするか、全員で議論しなければなりません。リスクはサイエンスで決まるという話ではありません。対策をどのレベルで行い、いくら予算をかけると、どのくらいリスクが下がるか。例えば、防波堤や堤防、道路の嵩上げ、宅地の嵩上げなどに何千億使って、1000年に1度発生するレベルの津波の水深をゼロになる家屋を何軒うみだしたいのか。仮に1,000億円かけて40軒分しか安全な宅地が生まれないということも、現実的にはあります。被災地では、堤防整備の議論が先にありきで、私たちは高台に行くから、堤防を低くしてその分で高台に住宅を整備してくれ、といった議論がまったくおきていません。
われわれの生活の場や生活基盤を選択する際には、歴史的・文化的な価値を考慮して社会がリスクを受容するレベルを決定すべきです。つまり、リスク対策には、価値判断を含んでいいんです。その上で政策的な議論があって初めて政策や予算が決まるものです。社会にそういう議論の土壌が全然なくて、「政策決定や予算配分に学者が知恵を貸すべきだ」とか「いや政治家の仕事だ」とか言いあっていても、次の世界には全然行けないと私は思います。

平川 これまでは、国民の判断ができない中で、専門家たちが適当に、政治家あるいは官僚の都合のいいように物事を決めてきました。これからは住民参加、住民主体、当事者が参加して価値判断や選択のできる仕組みを早くつくっていく必要があります。

参加者12 地震に津波、そして原発事故が発生したことで、今日のこのような会議が持てるようになりました。しかしそういう事態がなくても、普段からこういう会議をやらなければいけないと思います。これまでの社会は、科学の成果が効果的に反映されない社会でした。社会の仕組みを変えるためには、国民全員が立ち上がらなければだめだと思います。

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YouTube: イベント記録映像(2時間38分 イベント開始は5分40秒からです)


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