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3|「リスクコントロールを目指せ」
甲斐倫明
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(YouTube 1:07:50~1:27:03)

安全とは何か、リスクとは何か

福島の事故以後、食品の安全問題をどう考えていけばいいのかについて、私自身の考え方をお話しいたします。いま皆さんは、食品の放射能汚染に対して不安をもっていますが、その不安の原因は、食品に含まれている放射性物質を摂取し続けた場合どんな影響がでるのか、またそのことについて科学的な事実はどこまで確認されているのか、といったことだと思います。また、いろんな専門家が「リスク」と言っていますが、リスクとは何かという疑問もあるのではないでしょうか。さらに、今までは暫定規制値、4月からは食品規格基準が定められましたが、こういった基準によって食品の汚染がどこまでコントロールできるのかが非常に大きな関心事だと思います。
さて今回、厚生労働省がだした新基準値について一番素朴な疑問は、新しい基準値はどういう意味のものなの? 今までの基準値は何だったの? ということになるでしょう。今までの基準値で「安全」と説明されていたのに、基準値が下がって厳しくなると、今までの基準値は危なかったのか? と思う方もいらっしゃる。逆に、基準値はもっと厳しく、限りなくゼロにしなければいけない、というご意見もあります。
では、どう考えればいいのでしょうか。これは私の解釈ですが、放射線の世界は「リスク」を軸に管理しています。つまり「安全か危険か」という考え方を捨てるわけです。それでは安全とは何か。これはぜひ今日皆さんに考えてほしい問題です。安全とは、「危険ではない」ということではないのです。では逆に「リスクとは何か」と考えてみてください。「安全とは何か」というのは、「リスクとは何か」と同じクエスチョンなのです。

4月に規制値を厳しくした3つの理由

現在のところ、事故のあった原子炉はある程度コントロールできるようになり、環境の放射能汚染は収束に向かっています。放射線の世界では、原子炉事故によって生じる緊急事態のリスク管理と、平常時のリスク管理とは、使い方を分けています。実はこれがなかなか理解されにくい。「そんなことはないだろう、健康なんて事故も平常時もないはずだ」と。
しかし、よく考えてみましょう。昨年3月、東京で水道水のヨウ素が基準を超えました。そのため水道水の摂取制限が出ましたね。ヨウ素の基準超え自体は1日で止まりました。しかしもし1ヵ月続いたらどうでしょうか。今回4月の改正で、飲料水の基準値は200ベクレルから10ベクレルへと厳しくなりました。昨年3月時点でこの10ベクレルを適用したらどうなるでしょうか。ほぼ1ヵ月以上、水道水を使えなくなり、それによる大きな健康影響が当然でてきます。
もし放射線のリスクが大きければ当然避けねばなりませんが、事故の状況によってはある程度はがまんせざるを得ない。緊急時はもちろん長く続かないほうがいいわけですから、なるべく早く収束させて、もとに戻していく努力をする。そういう意味で、4月の改正で基準値を下げて厳しくした理由は3つあると思います。1つは事故から一年が経ち、復旧期に戻ってきたため。2つめは、リスクゼロはないという前提に立ったうえで、それでもなるべくリスクを下げていくため。リスクを下げ、平常時に近づける1つの努力目標値的なものといえるでしょう。3つめは社会的な信頼性を向上するため。事故直後の緊急時から復旧期に入り、これからこの状態が続くとしたら、やはり食に対する社会的な信頼を得なければ、食べるほうも生産するほうもいろんな苦汁をなめることになります。これを避けるための改正という意味もあると思います。

放射線の基準とは何か

では、放射線の基準についてもう少し考えてみましょう。下のグラフを見てください。

放射線の基準とは何か1


横軸は汚染のレベル、縦軸は頻度です。汚染レベルが非常に低い場合と高い場合は少なく、真ん中あたりの、あるレベルのものが多いということです。もし基準値をAのレベルに設けたら、当然これより高い汚染レベルものは流通させないので、それだけリスクが下がります。一方、基準値が新たにBに下がったら、それ以上の汚染レベルのものはなくなります。ですから私たちのイメージでは、Aが500ベクレルだとすると、500ベクレル以上のものは流通していないが200、300ベクレルのものはたくさん流通しているだろうという印象をもってしまいます。だとすると、基準値を例えばBの100に下げたとき初めて200、300ベクレルのものが流通しなくなると思いますね。
しかし、実際はどうでしょうか。私がもっている情報で見てみましょう。

放射線の基準とは何か2


米は県によって違いますが、福島県などで若干検出されている以外は、もうほとんど不検出です。高いレベルのものは非常に少ない。野菜にしても、3月4月は放射線ヨウ素が500ベクレルを超えているもの、100から500ベクレルのものがわずか10~20パーセントぐらいありましたが、7月8月にはだんだん低くなっている。物品によって違いはありますが、全体から見ると、先ほどのグラフ――Aが500ベクレルでBが100ベクレルという状況では、どうもなさそうです。ですから今の状況は下のグラフのようなものと推定されます。

放射線の基準とは何か3

これは概念的なもので正確なグラフではありませんが、こうやって見ると、例えば500ベクレルだった基準値(A)が100ベクレル(B)になると、少しは減る可能性はありますが、全体として見るとリスク低減としてはそんなに効果があるわけではないことがわかります。もちろん、少しでもリスクが下がるという意味で信頼度が上がるのなら、それはそれで意味があるわけですが。
本来、リスクコントロールのためには、現状に即したリスク管理のうえで数字を決めることが求められると思います。しかし残念ながら日本の法律は、現状に即して考えるよりも、やはり「どうあるべきか」の議論が先にあるんです。しかしリスクの問題において、この「どうあるべきか」はそう単純には決めにくいところがあるわけです。

現在、食品中の放射能はかなり低レベルである

下のスライドは、国立医薬品食品衛生研究所のマーケットバスケット調査からのデータで、12月に発表されたものです。

現在、食品中の放射能はかなり低レベルである1

セシウムについては一日当たり3ベクレル程度、東京都は0.45ベクレル程度が食品中に含まれている平均ということでした。線量は確かに非常に低いです。自然の放射性カリウムと比べても一桁以上低い。さらに、下のスライドが陰膳調査。これは朝日新聞と京都大学が共同で行なったものです。A、B、Cは、それぞれの家庭を表します。

現在、食品中の放射能はかなり低レベルである2

福島の食事で1日4ベクレル程度、つまり国の基準の40分の1であると出ています。左のデータは福島コープさんが測定した調査によるものですが、この緑は自然の放射性カリウムです。1kgの食品中にだいたい20~40ベクレルぐらい含まれているのですが、セシウムについてはHの家庭でごく少量検出された程度です。
こういうデータから見ても、福島県の人たちも含め、私たちが今食べているものの放射能は、かなり低いレベルであろうと示唆されるわけです。これが本当にすべての実態を表しているかどうかは、今後しっかり管理をしていくべきですが、非常に高いレベルということはなさそうだといえるでしょう。

「出口」でなく「生産現場」での管理を

では、こういう状況のなかで私たちが求める、信頼できるリスクマネジメントはどうあるべきか。確かにゼロリスクはいいですし、「安全側」というのも非常に魅力的で、一見否定しにくい。安全で何が悪いのか、と。しかし、この論理には多くの落とし穴があります。放射性物質に限りません。いろんな食品規制についてもよく行われてきたことですが、基準が厳しければそれが効果的なリスクコントロールになるわけではないんです。ここを私たちはしっかり考えていかなければなりません。
なぜでしょうか。それは、基準を厳しくしていくと当然、検査体制を強化しなければなりません。それは大変なことなんです。まずコストをかける必要があります。次に、お金は何とかなったとしても、その検査体制に見合った技術や人材を教育していかなければならない。一方で、それらに投資するによって、ほかの食品安全規制や、ほかのリスクコントロールとのバランスがなくなることにも注意が必要です。つまり、放射線が危ないからといって汚染ばかり気にすると、ほかのことを見過ごしてしまう危険がある。私たちは、お金にしても時間にしても人材にしても、すべて有限なもののなかで生きていますから、そういうなかできちんとリスク管理をしなければならないのです。
これまで行なってきたのはどうしても「出口管理」でした。つまり流通する前に調べて、基準を超えていたら流通させないという方法です。しかし本来のリスクコントロールは生産現場、つまりどこで取れているのか、なぜそこで汚染しているのかを調べ、生産現場で汚染が低くなるよう努力するほうが効果的なはずです。 ですから、これからは適切なリスク管理のために生産の管理をしっかりしていただくこと。これは消費者にとっても、また生産者にとってもいいことです。「いいものを消費者に出したい」というのは生産者の方々の思いですから。 
生産現場でのリスク管理は福島の復興にもつながります。「もう福島のものは買わない」などと言う人もいます。そう決めることは簡単かもしれません。しかし、たまたま今は福島ですが、日本各地には放射線以外にもほかの災害を受ける可能性はいくらでもあります。「食べる」とは生きる上で非常に大事なことです。その意味で、もちろん危ないものを食べろということではありませんが、きっちりリスクコントロールしながら農業を復興していかなければ、私たちのふだんの食の安全につながっていきません。現状は出口管理が優先されていますが、きめ細かく田畑の汚染状況や食品への移行条件を調べ、しっかり生産の管理をしていくことが、私たちのメリットになると考えています。

03030003_pf.jpg甲斐倫明
大分県立看護科学大学 人間科学講座環境保健学研究室 教授
1955年生まれ。放射線のリスク分析や医療放射線利用におけるリスク管理を専門とし、国際放射線防護委員会(ICRP)の委員も務める。原発事故による放射能汚染に対して社会全体はどのように向き合っていくべきなのか、リスク管理の観点から提言している。

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YouTube: イベント記録映像(2時間24分)


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