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ビジュアライゼーション

VISUALIZATION

ヒッグス粒子を観測した実験や宇宙進化シミュレーションなど、コンピュータグラフィックスで描かれているこれらのシーンは、実際の研究による科学データを可視化したものです。
また、ニュートリノやヒッグスなど素粒子のビジュアルショーを見るかのような美しい映像表現、さらに「ビッグバン以前の世界」など、科学の概念をもとに芸術的な視点で表現した映像も本作ならではの見どころです。素粒子の世界から最果ての宇宙まで本作のビジュアライゼーションをご紹介します。

1.ヒッグス粒子を観測した実験を描く

加速器の中を高速で移動する陽子と陽子が衝突する瞬間を描いた迫力あるこのシーンは、世界最大の加速器を持つCERN(欧州原子核研究機構)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で、ヒッグス粒子を観測した実験を可視化しています。
衝突実験で発生した素粒子が飛び散っていく様子は、実験データから素粒子の座標(縦、横、高さ)を抽出し、その軌跡をコンピュータグラフィックスで描いています。

2.138億年を2分でさかのぼる「宇宙の巻き戻し」

ビッグバンから現在まで、宇宙138億年の歴史を約2分でさかのぼる「宇宙の巻き戻し」のシーンでは、宇宙空間に浮かぶ青い地球を見ながら、あっという間にビッグバンの瞬間へむかって一気にさかのぼっていきます。
このシーンでは、画面下に現れるカウンターにも注目してみてください。
カウンターは13,800,000,000(138億年)からはじまって、ビッグバンの瞬間「0」へと限りなく近づいていきます。その途中では銀河の形成、恒星の誕生、素粒子の誕生などが次々と現れます。ここでは、大栗先生の監修に基づいてカウンターの年代と映像のタイミングが可能な限り正確に表現されています。

3.宇宙進化シミュレーション

「宇宙の巻き戻し」シーンの映像(画像上)は、ハーバード大学など、宇宙物理学の最先端の研究機関の科学者チームで構成される「Illustris project(イラストリスプロジェクト)」から、大栗先生を介して提供された科学データを用い、銀河が形成される過程を可視化したものです。
このデータは、ビッグバン直後(120万年後)から現在までの、138億年に渡る宇宙の歴史を、忠実にたどるシミュレーションデータで、重力、流体力学、熱力学やその他の複雑なプロセスを考慮し、強力なスーパーコンピューター上で、数千の銀河の経過を追跡しています。 Illustrisから提供された本来のデータは「バイナリデータ」(画像下)と呼ばれるもので、一見すると文字の羅列にしか見えませんが、この中には、宇宙空間に広がる星やガスの座標や密度、温度といった、さまざまな情報が詰まっています。しかし、「バイナリデータ」のままでは「見る」ことができないため、適切な形式に加工します。本作では、このデータの中から「暗黒物質」「恒星の光」「ガスの濃度」に関する情報を抽出し、恒星が生と死を繰り返す様子を描いています。

4.カラビ‐ヤウ空間を自由に操る?「カラビ‐ヤウシミュレーター」を開発

超弦理論においては、空間の次元は9つと予想されています。そのうちの3つは「縦」「横」「高さ」で表される3次元の空間で、残りの6つの次元は非常に小さく折りたたまれているため、人間には直接認識することができません。この残りの6次元は「カラビ‐ヤウ空間」と呼ばれています。
本作では「カラビ‐ヤウ空間」の映像化にも挑戦。CG/VFXチームが本作のために通称「カラビ-ヤウ シミュレーター」(画像上)と呼ばれるアプリケーションを開発しました。6次元のカラビ‐ヤウ空間を、科学監修を受けた正確な数式に基づいて3次元空間に射影し、3D映像として可視化させました。パラメーターに数値を入力したり、つまみをスライドさせて数値を変えると、自在にカラビ‐ヤウの形を変えることができます。そして、このシミュレーターで作った形をベースに、色や形など視覚的な効果を加え、ふわふわと飛び回るキャラクターのようなユニークな「カラビ-ヤウ空間」を作り上げました。

5.シャワーのようなニュートリノ、渋滞のようなヒッグス粒子

「素粒子のふるまい」をはじめとする、科学の概念を芸術的に表現した本作のコンピュータグラフィックスは、ビジュアル・ディレクターの山本信一氏とCG/VFXを担当する映像クリエイターのチームが制作しました。
ニュートリノ(画像上)は、超新星爆発や太陽、地中などさまざまなところから発生しますが、本作では太陽から降り注ぐニュートリノをカラフルなシャワーのように表現。降り注ぐ粒の色を青、緑、赤と色を変えることで、飛んでいる間にニュートリノの種類が変わる「ニュートリノ振動」を描いています。
ヒッグス粒子(画像下)のシーンでは、相転移を起こしたヒッグス場を通り抜ける時、粒子がヒッグス場の影響を受けて進む速度が遅くなり、ヒッグス場を抜けると再びスピードを早くして進んでいく様子を描いています。このシーンでは「渋滞」をイメージして表現しています。

6.ビッグバンと、ビッグバン以前「無の世界」

一般に「ビッグバン」と聞くと、バーンという爆発音とともに、ある一点から一気に拡大していくようなイメージなのではないでしょうか。本作において、既存の表現を越え、かつ科学の理論や本質に近い表現を目指した山本氏は、ビッグバンのシーンでは、静止画を連続的に見せ、あえて無音で表現するなどの手法をこらし、斬新な映像を創り出しました。監修の大栗先生からビッグバンについて「爆発は、一点ではなく、宇宙全体で一様に起きた」というアドバイスも表現に取り入れられています。
そして、本作で最も抽象的といえるのが、ビッグバン以前の「無の世界」(画像下)です。だれも見たことのない世界をどう描くか、数ヶ月間の試行錯誤の後、たどり着いたのは抽象的な表現の中に少しだけ具象的なものを垣間見せるというものでした。
独創的な「無の世界」の着想は、真夜中の公園で大きな木のそばを通ったときに感じる「何も無いけど何かある」気配を、無の世界のイメージに取り入れて表現しているそうです。

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