topics vol.28

月研究を考える

冒頭でも挙げたが、アメリカのオバマ大統領は有人月探査計画の予算をカットした。それにより、人類が再び月に立つ日が遅れた。ここで月開発の意味、私たちにどんな利益をもたらすかを考えてみよう。

オバマ大統領の月開発予算削減

オバマ大統領はブッシュ政権時代に計画された月面有人探査を柱とする「コンステレーション計画」(左図)を撤回すると発表した。コンステレーション計画が大幅に遅れたこと、次世代ロケットの開発経費が膨らみ予算不足になっていることなどが原因らしい。月有人探査のスケジュールが大幅に遅れると思われる。

ただ宇宙開発全体や宇宙探査が下火になるわけではない。ISSの運用は2020年まで延長され、民間企業とも協力し、スペースシャトルに代わる次世代ロケットが開発される予定だ。また、より予算の少ない小惑星の無人探査や地球観測などの科学研究に力を入れていくという。有人探査は国際協力をより強化しながら研究開発を続行するとした。つまり、アメリカは現存の有人月探査計画は中止するが、宇宙開発事業全体および宇宙探査の研究開発は、国や民間、大学機関を巻き込んで活発になることが予想される。そんな中、日本の月開発はどのように進められていくべきなのか。

アメリカの影響を受け、日本も月開発にはこれまでのように力を注がなくなるかもしれないと考えられる。ただ遅かれ早かれ月を目指し、再び探査する時が来るのではないかと思う。より安全に月開発を実施するためは、月の無人探査技術や、有人技術などの開発に一定の力を注ぐ必要があると思う。また「かぐや」などの探査機により蓄積された月のデータから、月研究の何に力を入れるかを精査し、本当に必要と思われる研究を判断する必要がある。

月探査の意義

寺薗氏、佐藤氏に、もしご自身が月に行ったら何をしたいか、どのような技術を発展させたいかをうかがった。

「私が月に行ったら、ローバーを乗り回し、色々な場所で地質調査を行いたいですね。そして月の構造や成り立ちなど、他にもまだまだ残されている謎を解明していきたい」と、寺薗氏。一方、佐藤氏は、
「まずはレゴリスで様々な実験を行い、その場で色々な物をつくってみたいと考えています。また、月で長期滞在できる技術が確立されたら、月を拠点とし、さらに遠くの天体を目指すことを目標に置き、研究を進めていきたい」と述べている。

これまで見てきたように、月開発には様々な計画があり、着実に準備も進められている。火星や小天体など、月よりもさらに遠い天体の探査も活発になると考えられる。そのとき、研究者はどんな探査を行いたいのか、月を含めた宇宙研究の魅力とは何かを、世間一般の人々に伝える必要がある。そして私達も、研究者が本当にやりたいこと、国の宇宙探査の方針をよく知り、その上で必要か否かを判断する必要がある。

アポロ11号のアームストロング船長(左写真)は、初めて月面着陸をした際、「人間の小さな一歩だが、人類にとって大いなる飛躍だ」と述べた。月開発の次の一歩が、私たちにどのような飛躍をもたらすのか、注意深く見守っていく必要があるだろう。




寺薗淳也

寺薗淳也(てらぞの・じゅんや)
会津大学 先端情報科学研究センター 助教/月探査情報ステーション代表

whos whoWho's Who

宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構、(財)日本宇宙フォーラムを経て、現在会津大学先端情報科学研究センター助教。専門は惑星科学、情報科学。月・惑星探査データ解析のための情報システムの構築などを専門としている。また、月・惑星探査の普及啓発などにも努めている。著書は「イケナイ宇宙学」(楽工社、2009年、共訳)など。

佐藤直樹

佐藤直樹(さとう・なおき)
宇宙航空研究開発機構 有人宇宙環境利用ミッション本部 主幹開発員/月・惑星探査プログラムグループ兼務


宇宙航空研究開発機構の前身である宇宙開発事業団時代より16年間、国際宇宙ステーションの開発に従事。その後は国際有人月探査にかかる研究・国際調整を担当。

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