topics vol.023

ISSは途中駅

全人類のための効果を求めて

「ISSに参加している15カ国の間で、この20年間、戦争は一度もないんです」。中村氏の力強い言葉には、誇りが表れている。
「私自身も、たとえばロシアがこんなに近い存在になるなんて、20年前にはとても思えませんでした。それが今では、気持ちまで通い合う関係を築くことができています。かつては常に一つの国との、1対1の関係でしかありませんでしたが、現在では、複数の国の人たちと同時に共通の意識を持ちながらでないと、国際協力は成り立ちません。一人よがりにならないように、バランスをとりながら、全人類により大きな効果をもたらすためにはどうあるべきかを考えなければならない。私たち自身が意識改革をする必要があると感じています」。

これからの宇宙開発を見据えたときに、ISSとは、どのような存在なのだろうか。人類はなぜ、宇宙を目指すのか、私たちはこれからどこへ行こうとしているのか。
「私はISSを“ターミナル(Terminal)”ではなく“ステーション(Station)”と捉えています。終着駅ではなく、そこからまた先があるという意味でのステーションです。ISSを通過点とする次の目標のひとつには月が挙げられるでしょう。今はまさにISSの様々な利用法を模索していますが、それを使い尽くしたときに、次のステーションが見えてくると思っています。
アフリカで生まれた人類は、陸や海を超え、そして空へと進出しました。常に新しい地へと進出する冒険心や開拓心がなかったら、今のように子孫を残し、繁栄することもなかったと思います。人類がもともと持っている冒険心が、今なお私たちを宇宙へ、更なる遠くへと向かわせるのではないでしょうか」。

自由な夢を育むステーションに

近頃は大型研究プロジェクトの予算削減の話題をよく耳にする。中村氏は、「今後も宇宙開発を進めていくために、成果の説明や普及活動がとても重要」であると語り、一方ではその方法を日々模索しているという。
「建設が終わりいざ運用が始まると、どんな成果が得られたかを一般に広めなければなりません。ひとつには政府に納得してもらえるような、お金に換算できる対費用効果の説明が必要でしょう。しかし一方で、社会の皆さんが夢を感じ、次の夢を育てていけるような活動にも力を入れていきたいと考えています」。

最後に、中村氏は、「これは他愛もない夢ですが」と前置きし、自身が「きぼう」でやりたいことを教えてくれた。
「“宇宙ロボコン”です。前から技術者や研究者、出版社の方などいろいろな仲間と一緒にいつかやりたいね、と話しています。なかなか実現できずにいますが。やはり、子供の頃から考えていたような、宇宙を使った楽しい、クリエイティブなことができていくといいですね」。

今から20年前、宇宙空間に人が滞在していることは夢物語だった。夢物語が現実になった今、私たちは更なる遠くを目指している。今から20年後の人類は一体どこにいるのだろうか。そして、私たちの目に映る地球はどんな星なのだろうか。





中村泰

中村泰(なかむら・たい)
宇宙航空研究開発機構・有人宇宙環境利用ミッション本部・宇宙環境利用センター・上席開発員・技術領域総括

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1955年山形県生まれ。東京大学航空宇宙学科卒業。スタンフォード大学大学院航空宇宙学科MS。および東京大学工学系大学院航空学修士修了。宇宙航空研究開発機構(JAXA)にてロケットグループに所属、HII-ロケットの開発などに従事する。2005年から宇宙環境利用センター技術領域リーダーとなり2008年より現職。日本科学未来館常設展示「こちら、国際宇宙ステーション(ISS)」の監修者。

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