topics vol.023

「きぼう」での実験

国際宇宙ステーション(ISS)と「きぼう」

地上約400kmに建設中の巨大な「宇宙実験室」。それが、国際宇宙ステーション(International Space Station、以下ISS)だ。米国、日本、カナダ、欧州各国、ロシアの15カ国が参加している。1998年から建設が始まり、2010年に完成を迎える予定だ。ISSの全体はサッカー場と同じくらいの大きさで、宇宙飛行士が生活するための居住棟や、実験を行うための実験棟がある。その中のひとつを構成しているのが、日本の実験棟「きぼう」だ。「きぼう」は日本が開発した初の有人宇宙施設で、2009年7月19日に完成した。完成の翌月から、すでに様々な実験が行われ、2010年までに約20件の実験が予定されている。

中村泰氏は、「きぼう」日本実験棟での宇宙実験に関する技術領域総括をしている。日本のみならず、参加各国と協力してISSの利用を促進するのが仕事だ。ISSの主な目的は、宇宙だけの特殊な環境(左図)を利用した様々な実験や研究を行い、その成果を活かして科学・技術をより一層進歩させること、そして、 地上の生活や産業に役立てていくことにある。「きぼう」は独自の大きな船外プラットフォームを持ち、「きぼう」ならではの実験も数多く行われている。

宇宙実験の方向性

では具体的に、どのような実験を行っているのだろうか。中村氏に聞いてみた。
「まず生命科学、物質科学などの科学利用分野があります。と言っても、基礎的な実験だけではなく、『きぼう』をより広く利用する方法を考えています。若田光一宇宙飛行士が2009年に行った『おもしろ宇宙実験』は、皆様に宇宙を身近に感じていただくことを目的として行いました(参照「おもしろ宇宙実験」)。他にも、成果を目的として行う応用利用分野があります。これは例えば創薬につながるタンパク質や新材料などを宇宙で生成し、医療分野や産業分野などに応用し生活に役立てようというもので、高い成果が期待されています。そして、芸術大学の教授などが参加している教育・文化利用分野。若田飛行士が衣装を着て舞を踊った『飛天プロジェクト』がそれにあたります。ほかに、コマーシャル撮影などが行われている有償利用分野もあります。『きぼう』という、いつでも使える宇宙の環境を手に入れた今、その環境の可能性を制限するのではなく、広く様々なことを実施し探ろうとしています。この可能性はまだまだこれから広がると考えられます」。

fig-f05.jpgカイコの卵は非常に小さく、スペースの限られた宇宙空間へ持っていくのに好都合だ。卵を低温にすることで休眠させ、ISSで卵を休眠から覚ましてやると、発生が始まる。発生の段階での放射線の影響を、カイコの様子を観察する方法で地上で調べることができる。また、遺伝子解析も行われる予定だ。未来館では宇宙に行ったカイコから生まれた子ども(上の写真)を展示した。
→宇宙に滞在したカイコの子ども

「きぼう」には、流体ラック、細胞ラックなど最大10個の実験ラックが搭載できる「船内実験室」と、全天X線監視装置などの実験装置をとりつけて宇宙空間に曝された環境での実験を行う「船外プラットフォーム」がある。最近注目の科学研究に対応した装置としては、超伝導サブミリ波リム放射サウンダ (SMILES)がある。地球の大気に含まれるオゾンなどの粒子を観測することで、地球規模での分布と変化を明らかにしようというものだ。この観測データをもとに、オゾン層破壊や地球温暖化についてのより精密な将来予測をすることが期待されている。
「Rad Silk」実験(右の写真)は、宇宙にカイコの卵を持って行き、宇宙放射線の影響を調べようという実験だ。宇宙環境での放射線被爆が、発生やがん抑制遺伝子(p53遺伝子)に与える影響を調査する。中村氏は語る。
「きぼうでの実験として個人的に一番期待しているのは、放射線被爆をどう防ぐか、という研究です。宇宙開発を進めていくには、宇宙飛行士が安全にもっと遠くへ行き、無事に帰ってくる必要があります。宇宙には放射線の影響がどのくらいあるのか。それをいかに遮蔽するのか。今行われている生命科学だけでなく、工学や材料などの分野も組み合わせて行っていく必要があります」。















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