表現を使った21世紀の学び

「Zuzie」は、3つの学問の共同から生まれた“見かたをみつける”ための素敵な道具だ。共通の見かたを「地」として、その上にスケッチ作品を「図」として配置する。だから名づけて「Zuzie(ズージー)」。パソコン上で同じスケッチ群を使い複数の構成作品を制作することができる。そしてそれら構成を「動かす」ことで比較対照し、それぞれの構成意図をふり返り吟味することができる。いわば「動くキャンバス」だ。

Zuzieワークショップ

2008年7月、小学校6年生約30人が参加して、ワークショップ「未来館でみつける未来」が行なわれた。ひとりひとりが興味をもった展示物をクレパスでスケッチし、合わせて作文を書く。次にグループでスケッチ作品を集合させ、眺め、解釈し、配置構成する。その過程で自分たちの共通の視点を探し出す。数枚の構成作品を制作し、最終的にそれらをひとつの組作品とする。未来館展示物のスケッチの構成と再構成をくり返すことによって、展示物を表現にくみ立てている自分たちの「見かた」つまり、理解に気づくことになる。

ZuZieで実践されたミュージアムでの学習モデル。
ZuZieで実践されたミュージアムでの学習モデル。来館者が、各々の視点で展示体験を描き、表現する。複数人の体験表現をデータ化して共有し、共通の視点を探すなどして描かれた情報をPC上で編集し合う。来館者の集合知ともいえるこの編集結果が、ミュージアムの情報提供者にフィールドバックされる、という知の循環が生まれる。

CRESTでは、新しい学びのモデルをつくることも目的のひとつになっている。 「表現は“学び”という領域にも有効な手段なんです。知識を、獲得(インプット)の対象にとどめずに表現(アウトプット)の対象にすることで、自分たち発の“私たちの知識”が創出される。そこに本当の責任ある学びが生まれます。創造のためにはどうしても“表現”というプロセスが必要。

西洋では“表現=議論”ですが、一般の日本人にとっては、議論が対話の基本形になりにくい。でも自分の体験について話すことや、写真を撮り文を書くこと、絵を描くことや物語ることは得意です。『鳥獣戯画』などの絵巻物が多く生まれていることは、それを裏づけています。ですから我々の得意技である“表現=描き共有すること”によって、もうひとつの知識のくみ立てが可能になるはずです」。

人々が出会った知識や経験を表現することを楽しみ、そこに対話と創作がうまれ、表現の循環が始まる。これが新しい学びのかたちだ。ワークショップで生まれたのは、未来館の展示物を題材にしたわくわくするような物語群だ。それらはごく小さな知識創造にすぎない。だが、子ども、大人、専門家が、今後それぞれの見かたで表現の循環をそこに生みしたなら、とてつもなく面白いミュージアム活動が出現するだろう。須永氏は手応えをつかんでいる。未来館はそのための装置になり得る。知識を表現する場というのは、ミュージアムの新しいもうひとつの姿だ。

子どもたちは先端科学に臆することなく、伸び伸びと自由な表現をくり広げる。そもそもそれが勉強だとは感じていない。彼らは「世界の見かた」という宝物を見つけたのだ。夢の大地を目指す須永氏らの旅路は、どうやら子どもたちも一緒のようだ。

須永氏が拠点を置く緑の潤沢な大学では、ひたすら石を彫る彫刻家をはじめとする様々な表現者が学んでいる。
須永氏が拠点を置く緑の潤沢な大学では、ひたすら石を彫る彫刻家をはじめとする様々な表現者が学んでいる。国境や表現分野、さらには文化系理科系の壁を越え、互いに関わり合いながら次世代のものづくりを指向するにはどうすればよいのか。須永氏は風穴をあける道を探っている。

「切り開き系」が見つめるアジア

須永氏は、先頭に立って未開拓の分野に挑んできた。自らを「ジャングル切り開き系オヤジ」と称す。舗装された道を選ばず、服や靴を汚してでも敢えてジャングルに分け入ろうとする。では次にどこに向かうのか。すでに開拓すべき地平は見えているという。それはアジアだ。アジアのトップクラスのデザイナーを集めた大学院である。アジアの知性が集まるところには、世界の知が飛び込んでくる。それが今という時代だ。

「アジアのデザイン学校の若手の先生たちは、たいへんにレベルが高い。彼らを交えて、お互いが切磋琢磨する場所がつくれれば、世界に提供できる次世代デザイン構築のセンターになるはずです。そこに言語も文化も違うが同じアジアのマインドをもつものたちが集まることで、自らのデザインの論拠をも“描き共有する”リフレクティブなプロセスが育成されます。共同して自分たちの社会をデザインするという、本物の創造の仕組みが生まれます。」

次世代のデザインを育む教育と研究のプログラムから生まれる知は、さまざまな学問の研究に「表現」という新しい風を届けるのかもしれない。CRESTで関係を深めた異分野のパートナーたちと一緒にそのプログラムも創ってみたい、と密かに思っているようだ。



須永剛司

須永剛司(すなが・たけし

whos whoWho's Who

横浜生まれ。多摩美術大学卒業後、GKインダストリアルデザイン研究所を経て、筑波大学大学院にて認知科学を学ぶ。学術博士。1989年より、以後は多摩美術大学を拠点に研究活動と教育活動を行なう。海外では、88?89年イリノイ工科大学にて製品インターフェイスの設計方法を研究、95-96年スタンフォード大学コンピュータ科学部でヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)を研究。98年多摩美術大学に日本で初の情報デザイン学科を立ち上げる。現在、同学科教授。主な著書に『デザインが情報に出会った』(IIID-J編、情報デザイン、グラフィック社、2002年)
多摩美術大学情報デザイン学科
http://www.bio.mie-u.ac.jp/kankyo/shinrin/lab5/Japanese/top.htm

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