反応拡散波は生物の形にも関与か?

いまの社会には、まだ、木を分子材料に変換して原料とするものづくりのしくみはない。新しい分野の産業を興し、社会のなかに新しいネットワークをつくるにはどうすれば良いのか。舩岡氏の夢は全く新しいタイプの循環型の工業システムを構築することだ。

木をベースとする循環型の製造システム

舩岡氏が構想し、開発を進めている新しいシステムとはこのようなものだ。
「まず、原料プールである大気から、二酸化炭素を集めて木という資源に変換する。それが林業です。次に、木を切り出して形の加工をする木材工業。そして、木材の廃材から分子材料を生みだす分子分離工業、さらに、生み出された分子素材から様々な製品をつくる植物系分子素材工業。以上が、ものづくりの新しいシステムです。このしくみの最後には、石油とまったく同じ素材が出てくるので、いまの合成化学工業にそのままつなげることができます。そうやって木を多段階に何度も利用し、最後は、炭酸ガスに還していきます。高分子から低分子へと材料が段階的に流れていく、自然界にならった循環型の工業ネットワークとなるのです」。

プラントの写真
植物資源変換システムの試験プラント。2001年に三重大学に開設させた。

現在はどこまで実現しているのだろうか。本格的な植物資源変換システムの試験プラントが、2001年に三重大学構内に建てられた。その後、林業、木材工業の企業から合成化学工業関連企業まで、約20社が北九州に集まり、2003年12月から第2号プラントでの実験をスタートさせた。さらに2008年春には、和歌山県に建てられた第3号プラントが稼働し始め、実用化に向けた検討が続けられている。

さる2009年1月14、15日、舩岡氏と共同研究者が一堂に会し、これまでの研究成果を総括するシンポジウムが、日本科学未来館で開かれた。定員300人のみらいかんホールは満席。シンポジウムを終えるにあたり、舩岡氏は次のように締めくくった。
「脱石油型社会の基盤を構築するために必要な要素技術は、ほぼクリアできました。これからは社会のなかでインフラを整備しながら、少しずつ一般の認識を深め、新しい資源の流れをつくることになります。その新しい活動へのキックオフが、いま蹴られたのです。」
人類存亡の危機とも言われる環境問題。科学のもたらす智と技術を使いこなし、大きな時代の変革をもたらす必要がある。

funaoka

舩岡正光(ふなおか・まさみつ


1950年生まれ。三重大学大学院農学研究科修了。農学博士。専門は資源環境化学。木の分子材料としての機能に注目し、それを利用した石油に代わる新しい工業ネットワークを提案。次世代型の製造システムとして注目されている。日本科学未来館の常設展示「地球環境とわたし」の総合監修を担当。
木質分子素材制御学研究室 www.bio.mie-u.ac.jp/kankyo/shinrin/lab5/Japanese/top.htm

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