かけがえのない発見を信じて

このような壮大な物質の流れのなかで木を捉えて、私たちのこれまでの木とのつきあい方をあらためて見つめ直してみると、それはどのようなものだったのか。
「私たちは木をおもに木材として利用してきました。あるいは薬品をくわえて高温処理を行ない、糖のカゴ状の構造だけをとりだして、紙をつくってきました。しかし、その際リグニンは破壊され、廃棄物として焼却されてしまっています。これは、木のもつ分子機能を放棄して、一気に二酸化炭素にしてしまう、実にもったいないことです。」

リグニンをとり出す新技術

木の分子材料としての機能を、焼却によって捨てるのではなく、積極的に工業原料の形で利用していくべきではないか。舩岡氏は考えた。現在、様々な製品の原料には石油が使われているが、もともと石油は1億年前の太古の木が起源の一部となっている。石油からつくられるものが、木からつくられないはずはない、と。
そして、木の分子構造を自然の特性を活かしたままの形できれいに解体し、新しい工業原料となる分子素材をつくりだすことに、世界で初めて成功したのである。

鍵を握るのが、相分離変換という新技術だった。セルロースとヘミセルロースでできたカゴ状構造と、それらを硬くむすびつけているリグニンとをほどくための技術だ。
「非常に複雑に見えるリグニンですが、よくみると、構造のへそにあたる部分があることがわかりました。その急所をつくことによって、リグニンを上手に解体することができたのです。ちょうど20年前、1988年の夏に発見しました」。その方法とは、信じられないくらいシンプルだ。

「2種類の薬品と、ビーカー、混ぜるための棒、そして30分の時間をいただければ、みなさんにこの場でお見せすることができます」。
常温常圧の環境下で、セルロースとヘミセルロースでできたカゴ状構造は、その構成単位である糖にまで分解され、それとともにリグニンは解体されて、「リグノフェノール」という材料へと変換されるのだ。

分子構造を小さくしながら、木を使いきる

このようにしてできあがった新しい工業原料がリグノフェノールだ。リグノフェールには、まったく新しい製品を生み出すさまざまな可能性が秘められている。たとえば、古紙から再生したパルプとリグノフェノールによって、木質プラスチック(写真)をつくることができたり、鉛蓄電池の電極にリグノフェノールを添加することで、電池の寿命を大幅に延ばすことができたりなど、他にもさまざまに応用できる。

そして、リグノフェノール製品の寿命がつきたら、製品を分子レベルで分解して、今度はより小さなサイズの別の分子材料をつくる。このように分子構造を変換させながら、次々に別の材料として何段階にもくり返し利用することができるのだ。[★1]

分子構造を変換させながらの多段階活用(製品化)の図
リグノフェールの多段階利用。分子構造を徐々に小さなものへと変換させながら、さまざま形で工業システムのなかで活用していく。

木から得られた分子材料を、多段階にくり返し利用していくことは、自然界にならった木の使い方だ。くり返し利用されたあとに焼却されて、最終的に二酸化炭素となって空気中へ還っていく。そして再び二酸化炭素は集められ、木という資源になる。


[★1]分子構造を変換しながらの多段階利用

多段階利用の最終段階では、現在石油からつくられているフェノールやベンゼンなど、さまざまな材料を得ることができ、そのまま現在の石油化学工業の原料に置き換えられる。


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