topics vol.017

体の模様のなぞに迫る

木は、地球上で最も大きな生物である。アメリカのヨセミテ国立公園には、レッドウッドという世界最大の木が生息している。その高さは120mにもなる。また木は、地球上で最も寿命の長い生物である。数百年から数千年ものあいだ立ち続け、森だけでなく地球上のあらゆる生命の活動を支えている。さらに、法隆寺を見ても分かるように、切り倒されて木材となったあとでも、1000年を越える長いあいだ建物を支えつづけることができる。この木の強靱さにはどんな秘密が隠されているのだろうか?

木の本質を探究しつづけること30年以上、舩岡正光氏は木を理解するための鍵は、分子レベルで木をみることだと言う。
「木質、木材と呼んでいる部分を見てみましょう。大きくふたつの高分子に分けられます。まず、「セルロース、ヘミセルロース」という主成分。ひも状の構造をした糖質が、非常に綿密なかご状の構造を形成しています。さらに、このかごのなかに、もうひとつの主成分「リグニン」が、からまるように入りこんでいます。このふたつの主成分が、分子レベルで高度に固定された完全一体型の構造により、空中高くそびえる木を支えているのです。」

分子レベルの模型
木の分子構造(模型)。メッシュ状の部分が、セルロース、ヘミセルロースからできたかご状構造。赤いひも状の部分がリグニン。

さらに樹木の際立った耐久性は、この複雑な分子構造が、時の流れのなかで外部環境に応じて変化することによって生み出されるという。
「簡単に崩れずに、長いあいだ生態系に存在しつづける資源は、短期的にみると不安定にみえます。それは、分子レベルで環境に応答しているからです。つまり、環境が変わると自分のスタイルを変えて、新しい環境に一番適した構造をとるというシステムをもっている。そうすると、長期的には安定な状態が保たれるのです」。

自然界で、木はいかに生態系を支えているのか

なるほど、木の強さと長生きの秘密が、木を形づくっている分子構造にあることがわかった。舩岡氏は、さらに、分子レベルで木をみることで、地球環境における木の仕事の全貌がみえてくると言う。
「私たちがふだん認識している森に立っている木という状態は、木の一生のうちのほんの一部分でしかないのです。」

木のゆっくりした分解と二酸化炭素の循環を示す図
木の分解は、時間をかけて行なわれる。その分解にあわせて分子構造を徐々に小さくしていき、二酸化炭素をゆっくりと排出していく。

木はその剛直な分子構造によってほとんどの微生物を寄せつけないが、高度に進化したごく一部の細菌のみが、木の分子を分解し栄養源としている。キノコはそのような菌のひとつだが、さまざまな昆虫も同様に進化した菌を腸内に飼っている。倒れた木はそのような生物達によって徐々に朽ちていき、土壌にとり込まれると、土壌中の小動物や微生物によって利用されていく。このように、木の分子は長い時間をかけて、様々な生物達によって多段階に利用され、最終的には二酸化炭素にまで分解されていく。そして再び、光合成というメカニズムによって、二酸化炭素から木という巨大な資源が形成されていくのである。


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