マントル研究の一方で

旅行好きも手伝って、もともとは地質学を専門とするフィールドワークを行っていた廣瀬氏。やがて、火山の成り立ちやマグマはどうやってできるのかに興味をもつようになり、さらに、もっと深く、マントル深部へと関心が移ったという。

「圧力をかけていく実験をしていたら、地表には絶対にない鉱物が自由に作れることがだんだんと面白くなってきたんです。ダイヤモンドはグラファイトに5万気圧の圧力をかけるとできるのですが、屈折率が高いからキラキラして綺麗ですよね。他にも高圧をかけると、屈折率の高い、いろいろな種類の見たこともない鉱物ができるんですよ」。

現在、廣瀬氏は、地球深部を解明する一方で、これまでに築き上げてきた高圧高温発生技術を使った、未知の物質の開発に興味があるという。たとえば高温超伝導物質など、私たちの生活に役立つ新素材を開発することができるかもしれない、と語る。

これからの研究者に必要なこと

「50年前と違って、今はサイエンスのスピードがものすごく速い。昔は自分がある分野で世界の第一人者になれたら、その研究で退官するまでやっていけたんでしょうが、今は同じ研究で何十年も世界の最前線であり続けるなんてことは絶対にない。僕も5年先くらいまでは今の研究でやっていけるかな、と感じますが、その先どうするのかを考えて、今のうちからいろんな種をまいておかないと、と思っています」。

研究室に至る廊下。奥右に廣瀬氏の部屋がある。つきあたりは複数の研究室の学生がシェアする部屋で、入り口には「学生の秘密基地」と書かれている。

研究室のある地球惑星科学専攻のフロアには、「全地球史解読計画」を進める丸山茂徳教授をはじめ、惑星の謎に迫る天文物理学の研究者や鉱物学の研究者など多様な顔ぶれが集まり、学生たちは自然に交流している。廣瀬氏も、ご自身の「現在の地球」の研究に、歴史という時間軸を加えたり、地球以外の惑星との共通項を考えたりと、同じ廊下でつながれた研究者から触発されることがあるようだ。

「これからの研究者は、ひとつのことだけにとらわれるのではなく、幅広い視野を常に持っておくことが必要だと思います。学生にも、いろんな人と出会い、いろんな可能性を検討するように、といつも言ってるんですよ」。

ストレートで通りの良い声と、曇りのない語り口。わかりやすく楽しい授業で学生たちから人気が高いと聞くが、そんな“先生の顔”をのぞかせた。


[お知らせ]


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「地下展 UNDERGROUND」に関連し、廣瀬氏が平朝彦氏と監修をつとめた「地下探検すごろく×地下大マップ」が完成しました。
「地下展 UNDERGROUND」


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廣瀬 敬(ひろせ けい

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1968年福島県生まれ。94年東京大学大学院理学系研究科地質学専攻博士課程修了。同年東京工業大学理学部地球惑星科学科助手に就任。在任中、96〜98年カーネギー地球物理学研究所客員研究員を務める。その後、99年東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻助教授を経て、2006年同教授となる。専門は、高圧地球科学。04年5月、マントル最下層の知られざる物質、「ポストペロフスカイト」結晶構造の物質発見による論文(Murakami, M., Hirose, K., Kawamura, K., Sata, N., Ohishi, Y., Post-perovskite phase transition in MgSiO3, Science, 304, 855-858, 2004)で、世界の注目を浴びる。





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