超高圧高温部室の作り方

試料。マグネシウム、ケイ素などマントルの構成物質を混合し乳鉢で細粒化して使う。

試料に圧力をかけるには、「ダイヤモンドアンビルセル」とよばれる、アメリカ留学時に技術習得した装置に独自の工夫を加えたものを使用している。正16角錐にブリリアントカットされた天然のダイヤモンドの先端を少し削って平らにしたものを装置の中央部にとりつけ、そこに試料をのせて圧力をかけるというもので、驚くほど小さくてシンプルな装置だ。高圧力を出すには先端部のダイヤモンドの研磨方法にトリックが必要だという。

「僕らは五反田にある町工場の職人さんにお願いしています。大きなダイヤモンドが使えれば、より大きな試料が載せられるのですが、そういうわけにもいきません。世界中の研究者が同じ大きさで勝負しているんですよ」。

廣瀬氏が最初に150万気圧2500Kを出したのが2002年。そこから5年経ち、今では最高320万気圧まで出せるようになったという。

レーザー加熱装置。レーザーが一つ一つの鏡に反射して通っていき、ターゲットである試料を加熱する。レーザーの照射位置はこれらのミラーを微調整して決める。

高温化への道のりは、コア解明への道のり

高圧状態にしたダイヤモンドアンビルセルの試料は、その後、セルに入れたままレーザーで加熱する。この高温化が現在の大きな課題のひとつだという。

深さ6380kmにあるコアの中心部の気圧は364万気圧とみられている。実験ではあともう40万気圧で実現できるところまできた。しかし、地球内部は、中心に近づくにつれ圧力とともに温度も高くなっていく。現在、技術的には、150万気圧で4500Kまで温度が上げられるが、300万気圧だと2000Kまでしか上げられない。しかしコア中心部の温度は5000Kを超えると推測されており、この3000Kの温度差の克服が難しい。

なぜなら、ダイヤモンドは熱伝導率がよい鉱物で、熱を加えてもすぐに逃がしてしまうからだ。そのため、熱を逃がさないよう断熱材を入れるのだが、高圧になるほど、どんどん圧縮されて試料も薄くなり、断熱材の厚みも薄くなるので、断熱がしにくくなるというわけだ。

「今僕らが使っている断熱材の素材は、固体のアルゴン[★4]です。でも状況によって、別のものを使ったほうがいいかもしれません。このように温度をいかにして上げるかが大きな壁ですが、他にも課題はあります。今、コアの圧力と温度は推測されていますが、そもそもコアを形成する物質の化学組成が分かっていないのです。また、極小サンプルで作った物質を調べるための、X線以外の解析方法を見つけなければなりません。X線解析では結晶構造と密度などを知ることができますが、コアの化学組成進化に関する情報などは得られないんです」。

取材の日の実験室で、淡々と観測をしつづける女子学生(修士2年の小澤さん)。小澤さんは先生について、「わかりやすい授業が人気。小さな子供が4人いる先生は家庭をとても大切にしていて、学生にもやさしい」と語る。

「地球は隕石が合体・集積してできた」という説が今は一般的に信じられているが、果たしてそれは本当だろうか。廣瀬氏らの今後の研究成果によってコアについての解明が進めば、「地球は何からどうやってできたのか」という根源的な問いの答えが明らかになるかもしれない。






[★4]アルゴン

Ar。普通はガスだが液体窒素で冷やすと液体になる。それを試料とダイヤモンドの間に流し込み、圧力をかけると固化する。


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