世界が注目した成果

2004年5月、科学誌『Science』に掲載された論文は、世界中の地球科学研究者を驚かせた。地球深部、コアと接するマントル最下層に、「ポストペロフスカイト」という、かつて誰も見たことのない結晶構造をもつ物質が存在することが明らかになったのだ。

マントル最下層は何でできているか

それまでの地震波などの研究から、マントルには4つの層があり、上から3層の主要構成鉱物は、相転移[★1]という現象によって、かんらん石(上部マントル)、スピネル相(遷移層)、ペロフスカイト相(下部マントル)と変化していくことがわかっていた。さらに4つ目の最下層、コアと接する厚さ約300kmの帯域は、また別の性質をもつD”(ディーダブルプライム)層とよばれ、この層の構成物質は、他の3層のように相転移で性質が変わったものではなく、全く異なる化学組成のものだと考えられてきた。

すぐ上の層のペロフスカイト相のような高密度の結晶構造が、それ以上に密度の高い構造へと相転移するとは考え難いとされていたのだ。つまりD”層は、たとえばコア内の金属がマントル内の酸化物と化学反応を起こした結果、特殊な物質からできているとの仮説があった。

地球内部の構造
デザイン=永原康史 イラスト=宮村泰史(下の図も)


マントルの4つの層と結晶構造変化
CG=廣瀬敬研究室

ところが廣瀬氏は、深さ2600kmの地球内部、つまり125万気圧/温度2500K(ケルビン=絶対温度。摂氏0℃=273.15K)の状態を実験室で再現し、ペロフスカイトが相転移してさらに高密度な結晶構造をもつ「ポストペロフスカイト」に変化することを発見した。マントルを代表する化学組成MgSiO3のペロフスカイト相の発見(1974年)から、実に30年が経過していた。

「冷静に考えると、深さ410kmも、660kmも相転移なのに、2600kmだけどうして相転移じゃないと考えられていたのか、今から思うと変なんですけどね」。当時をふり返り、廣瀬氏は語る。

世界に3つしかない大型放射光施設を使って

地球内部の物質がどういうものなのか、実際にその物質を手にとって調べられるのは、せいぜい深さ200km程度まで。それより深いところにある鉱物の研究は、実験室で地球内部の超高圧高温の状態を再現し、人工的に鉱物を作り出さねばならない。また作り出した物質を調べるのにも、最先端のテクノロジーが必要であるという。

「とにかく試料が50μm[★2]程度と小さいので、できた鉱物を解析する技術が必要なんです。兵庫県西播磨に、世界最大の放射光施設SPring-8(スプリングエイト)[★3]があって、できた鉱物の解析はここだときれいにできる。僕らはほぼ毎月通って、X線のデータをとっています。これだけの大型放射光施設は、他にアメリカとフランスにしかありません。だからこの3カ国は、この分野の研究において他の国に比べ有利なんですよ」。



[★1]相転移

化学組成を変えずに物質の状態や結晶構造が変わること。例えば、水が氷になる、グラファイトがダイヤモンドになる、というのが相転移。


[★2]μm(マイクロメートル)

長さの単位で1メートルの100万分の1。ちなみに人間の髪の毛の直径が100μm程度。


[★3]SPring-8

世界最高性能の放射光が利用できる大型実験施設。
http://www.spring8.or.jp/ja/


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