宇宙の進化に迫る2つのターゲット

赤外線で見える宇宙。それは、銀河が誕生してくるところや、生まれたての星の姿である。宇宙では、遠くを見るということは過去をみることである。星から放たれた光は、地球に届くまでに数年から、長いものでは100億年以上もかかる。ということは、遠くから届く星の光は宇宙が誕生した当時にできた星の姿をとどめていることになる。

これまで最も遠いところに見つかった星までの距離は約129億光年、宇宙ができてからわずか8億年後のことである。しかし、この8億年の間に何が起こったかはよくわかっておらず、宇宙の暗黒時代と呼ばれている。「ASTRO-Fの性能を持ってすれば、この暗黒時代に生まれた銀河を見つけることができるかもしれません。」と中川氏も期待をふくらませる。

もう一つの大きなターゲットは、太陽系以外の惑星を見つけることである。これまで、すでに160個あまりの太陽系外惑星が発見されているが、まだ地球型惑星は見つかっていない。惑星がどのように生まれ、進化していくかを知るためには、より暗い光を捉える必要がある。ASTRO-Fには、通常の望遠鏡では見えない原始惑星系円盤[★6]から惑星の進化の過程を明らかにすることが期待されている。

世界を驚かせた高精度の天体画像

5月末、“あかり”の近・赤外線カメラで撮影された最初の観測成果が発表された。その画像は驚くほど鮮明で、星雲や銀河の姿をはっきりと映し出していた。生まれたての星の姿や星が生まれる材料となるガスの分布。可視光ではとらえることのできなかった宇宙の地図や謎につつまれた宇宙の歴史を解明するため、世界中の天文学者たちは、さらなる成果に期待を寄せている。

しかし中川氏の夢はこれで終わらない。「今、SPICAという新しい赤外線天文衛星の開発に取りかかっています。直径3.5mの赤外線望遠鏡を持つこの衛星が完成したら、ASTRO-Fにはできなかったさまざまなこともできるようになります。そのためには、望遠鏡をどう冷却するかが課題です。」その視線の先は、さらに遠くの宇宙に向けられているのかもしれない。

取材・文=松岡均(日本科学未来館科学技術スペシャリスト)
撮影=大森克己

なかがわたかお

1988年東京大学大学院理学系研究科天文学専攻課程修了、理学博士。同年、日本学術振興会・特別研究員。90年文部省宇宙科学研究所・助手。97年同助教授。99年同教授。2003年組織変更にともない、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部教授。東京大学大学院理学系研究科教授を併任。専門は赤外線天体物理学。


[★6]原始惑星系円盤

恒星を回る惑星系は、恒星を取り巻く原始原始惑星系円盤の内側の領域で形成される。太陽系の惑星も、原始惑星系円盤の中のケイ酸塩のような粒子がお互いにくっつき合いながら大きな粒子へと成長してできたと考えられている。

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