“あかり”の模型

雨のため順延したものの、M-Vロケット8号機は、2月22日早朝、打ち上げに成功した。ASTRO-Fも予定されていた軌道上に投入することに成功し、“あかり”と命名された。日本で初めての赤外線天文衛星の誕生である。それ以来、姿勢、電力とも安定で、順調に運用を続けている。そして4月には、望遠鏡を覆っていたふたを開いて観測を開始した。

トワイライトゾーンから全天を観測する

“あかり”は、直径は68.5cmながら、マイナス270℃近くまで冷却されるという世界屈指の赤外線望遠鏡[★4]を有する。特徴的なのはその軌道で、太陽同期極軌道という、常に太陽光に照らされている昼側と太陽光が当たらない夜側の境界線上を飛ぶ[★5]。いわば、トワイライトゾーンである[左図『“あかり”の軌道』参照]。そこから太陽と地球に垂直な方向に望遠鏡を向け、約半年間かけて全天をサーベイする。

開発におよそ5年を費やした中川氏は、「これまでの天文衛星と違うのは、赤外線望遠鏡を冷却するための、さまざまな工夫がされていることです。液体ヘリウムだけではなく、通常は使用しない大型の機械式冷凍庫まで搭載しています。」という。望遠鏡本体の熱が放射する赤外線の影響をなくすためだ。それほど温度に敏感な高性能の赤外線望遠鏡なのだ。

“見えない光”をみて作る新しい宇宙地図

この望遠鏡の特徴は、人間の眼が認識できない赤外線を捉えることができることだ。宇宙には、可視光線以外にもさまざまな電磁波を放射する物体があり、違う波長を捉える望遠鏡を使うことで、まったく違った宇宙の姿が見えてくる。

これまで打ち上げられた2機の赤外線天文衛星に比べ、ASTRO-Fは他の衛星にはない強みを持っている。それは視野が広いにもかかわらず解像度が高いことである。中川氏も、「例えば、英米蘭で打ち上げたIRASはASTRO-Fとほぼ同じ広さの視野ですが、ASTRO-Fは約10倍高い解像度と数倍良い感度をしています[左の写真『“あかり”で撮影された画像』参照]。また、NASAの打ち上げたSpitzerに比べ、ASTRO-Fは約4000倍も視野が広いんです。」と話してくれた。この特徴を活かし、ASTRO-Fは世界で初めての赤外線でみた宇宙地図作りに挑む。


[★4]世界屈指の赤外線望遠鏡

可視光線と同じ電磁波の一種である赤外線は、宇宙空間を満たしている細かい粒子の吸収を受けにくいため、可視光線より長い波長の光を発する遠方の銀河を観測するのに使われる。また、温度の低い惑星は赤外線で輝いているため、太陽系外の惑星を探すにも有効である。


[★5]境界線上を飛ぶ

太陽同期極軌道とは、衛星の軌道面の回転方向と周期が地球の公転周期に等しい軌道。つまり、地球を回る衛星の軌道面全体が1年に1回転し、衛星の軌道面と太陽方向がつねに一定になる軌道のこと。

2006 (C) NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION