今年の1月から2月にかけて、日本の宇宙開発関係者はこれまでにない忙しさに追われた。わずか1ヶ月の間に3回のロケット打ち上げ[★1]という、日本の宇宙開発史上では前例のないことに挑んだのだ。しかも天候不順などによる延期はあったものの、打ち上げは全て成功。これで日本のロケット技術に対する国際的な信頼は、一気に高まった。そのうちのひとつがASTRO-F(“あかり”)であった。

内之浦宇宙空間観測所

鹿児島県肝付町。M-Vロケット8号機の打ち上げ直前の2月20日、鹿児島県南端のこの小さな町のこの町が大勢の科学者や報道関係者でにぎわっていた。ロケット発射場といえば、種子島宇宙センターが有名だが、そこからほど遠くない大隅半島のこの町にも30年以上の歴史を誇るロケット発射場がある。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が今では人工衛星やロケットの開発すべてを担うようになったが、日本の科学衛星の開発や打ち上げは、もともと1大学の付属研究所から始まった。その後、宇宙科学研究所[★2]と名前を変えたこの研究所は、日本で最初の人工衛星「おおすみ」以来、27個もの科学衛星を打ち上げてきた。

しかも驚くべきことに、衛星やその搭載機器、ロケットに至るまで、そのほとんどを研究者たちが自ら開発してきたのである。特にX線天文学の分野では世界をリードしてきており、ASTRO-Fは、日本では初めての赤外線天文衛星となるが、その成果に世界中が期待している。

10万平方メートルの広大な敷地

内之浦宇宙空間観測所の敷地に入ると、そこは打ち上げ前の緊張感にあふれていた。あいにくの小雨だったが、打ち上げには支障がないらしく、着々と準備が進められていた。風速15m以上、1時間あたりの雨量15mm以上にならないと中止にはならないという。

町の中心部から車で30分ほど山道を登ってきたところにあるこの施設には、ロケット発射場だけではなく、軌道上の衛星から電波を受信するための設備なども備わっている。まず目を引くのは、直径が34mもある巨大なパラボラアンテナ。普段は衛星からの電波を受信しているこのアンテナも、ロケット打ち上げ時には他のパラボラアンテナとともにロケットの支援[★3]に当たる。


研究所に届けられた打ち上げ祈願

発射台は、さらにそこから2kmも離れたところにあるが、厳戒態勢がとられ、立ち入りは厳しく制限されていた。打ち上げ30分前になると、実験場にいたる一般道も閉鎖されるという。打ち上げに向けて、緊迫した雰囲気はだんだんと高まっていく。


[★1]1ヶ月の間に3回のロケット打ち上げ

1月24日にH-IIAロケット8号機によって打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)、2月18日にH-IIAロケット9号機によって打ち上げられた運輸多目的衛星新2号「MTSAT-2」に次ぐ打ち上げ。


[★2]宇宙科学研究所

宇宙科学研究所(うちゅうかがくけんきゅうしょ、ISAS)は、旧文部省(現文部科学省)の国立大学共同利用機関で、宇宙開発のうち科学分野を担当していた。前身の東京大学宇宙航空研究所(1964年設立)が1981年に改組して発足したが、2003年10月に宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所と統合され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙科学研究本部」に改組された。


[★3]ロケットの支援

打ち上げ時の風圧・高熱・振動からガードするため人工衛星はフェアリングと呼ばれる保護カバーの内部に置かれる。パラボラアンテナは、その中の衛星の状態を監視するために使われる。

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