1 21世紀、ロボット市場拡大のビジョンとは? 労働力不足を補うためにロボットが必要になるらしい

ロボットが普及するということは、ロボットの市場が確立するということ。売り買いされる規模が大きくなってはじめてロボットが私たちの社会でいっしょに暮らしてゆく世の中が来るのだ。国にはこの市場を拡大するビジョンがあるらしい……。

比留川博久 ひるかわ・ひろひさ
独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門
副研究部門長

経済産業省・NEDOのプロジェクトで、ヒューマノイドロボットHRP-2を共同開発した研究者。現在は経済産業省傘下の研究所に所属しながら、次世代ロボット産業化のための企画を立案する、次世代ロボット黎明期のリーダー的存在。さらに詳しく→

比留川博久(以下、比留川) ── 日本の労働力人口は、2005年から2025年の20年間で470万人減るという試算が出ています。その1/4の人口×年収500万円=約5.8兆円。これはロボットで代用できるあらゆる 労働の対価を試算してみたものです。つまり、このくらいのロボットに対する潜在需要があるということです。労働力不足を補うためにロボット開発を促進したい。これが国の考えです。実際にそうなるかどうかは、現在人間が行っている仕事をロボットが行えるかどうかにかかっています。
もうひとつ。現在日本は産業ロボットの生産高で世界1、2位を争うロボット先進国。しかしこれは生産のためのロボットが主で、それ以外の家庭や社会で活躍するロボットはごくわずか。現在、全ロボット市場約7600億円のうち、工場以外で使われるいわゆる次世代型ロボット[*注1]は、273億円で3.6%にしか過ぎません。産業ロボットだけではなく次世代型ロボットを日本の基幹産業にしたい、これも国のロボット開発促進の動機です。そうして経産省から2003年に発表されたのが、「21世紀ロボットチャレンジングプログラム」でした。

──次世代ロボット市場はここ2、3年で活発になってきた気がします。

比留川 ── まだまだ小さな市場ですが、第一歩は踏み出せています。いくつか成功例を紹介しましょう。お掃除ロボットは比較的売れていて、ある製品は年間10億円規模の売上があります。また、ニッチな市場ですが、99.9%をロボットが占める市場もあります。それはイカ釣り機。皆さんがスーパーで買う国産のイカは人が釣ったものはもうありません。すべてこのロボットが釣ったイカです。このロボットが垂らす糸の先についた針にはシャクリ(返しの部分)がありません。だから船上につり上げた瞬間にはずれて自動的にイカを水揚げできるのですが、一方で船が揺れて糸がゆるんだ瞬間にバレてしまいます。それを防ぐために、揺れを検知して一瞬たりとも糸がゆるまないように張り続けているのです。一度釣れたイカの深度も覚えていて、次の針はそこまで降ろします。これもいまは10億円の市場規模。また、食事補助をするマイスプーン。両手の不自由な人が、あごなどの体の一部を使って、食事を自分でとれるもので、ヒットしています。

先川原正浩 さきがわら・まさひろ
千葉工業大学未来ロボット技術研究センター室長

開発のマネージメントや広報活動を行うロボットの情報発信人。ロボットの面白さを伝播、その意味を啓蒙する活動をつづけている。次世代ロボット産業の仕掛け人のひとりでもある。
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先川原正浩(以下、先川原) ── マイスプーンは40万円するのですが、補助金で個人負担を少なくする配慮がなされています。普及までの過程にはこのような助成が必要ですね。

近藤博俊 こんどう・ひろとし
近藤科学株式会社代表取締役

大ヒットの自作ロボットキット「KHR」シリーズを開発し、ホビーロボット市場を立ち上げた中心的存在。ホビーとしてのロボット産業の可能性を拓くばかりか、ロボットの開発マインドを若者に芽生えさせる教育者ともいえる。
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比留川 ── マイスプーンはメーカーが障害者自立支援法の自立生活支援用具の適用にこぎつけました。厚生労働省が自立生活支援用具の対象製品に「食事」の2文字を入れるまでに、4年かかったそうです。9割補助金負担は自治体の判断にゆだねられていますが、このメーカーの働きはひとつの突破口を開いたと言えます。

一般に家庭で購入できる生活サポートのためのロボットの価格は4万円程度と言われています。ホビーもだいたい10万円を切っています。逆の言い方をすれば、いまの家庭用ロボット技術は、市場では5万円程度と評価されているということです。まだ50万円のサービスには至っていないということなのです。

*注1 次世代型ロボット
製造に特化した第二次産業のためだけでなく、第三次産業(サービス、情報、金融産業など物を製造しない産業)やその他多様な用途に使える、広く社会で人をサポートする自律型ロボットのこと


HRP-3 Promet Mk-II
比留川氏がリーダーをつとめた人間協調・共存型ロボットシステム(Humanoid Robotics Project、HRP)の最 新ロボット(2007年6月発表)。防塵・防滴機能をそなえ、3本の指で道具を使う働くロボット。経済産業省、NEDO技術開発機構が進める「基盤技術研究促進事業」のひとつとして開発が進められた。ロボットのデザインは「パトレーバー」などアニメのメカデザイナーで知られる出渕裕。
→産業技術総合研究所 HRP-3 Promet Mk-II


イカ釣り機
はまで式全自動イカ釣り機「イカロボマイティー MY-11」。世界初のコンピュータ式イカ釣ロボット。長年のノウハウを生かし北海道の東和電機製作所が開発。経済産業省等が主催する「今年のロボット大賞」2006「中小企業・ベンチャー部門」を受賞
→東和電機製作所 自動イカ釣りシステム


マイスプーン
食事支援ロボット「マイスプーン」。ジョイスティックやボタンによる軽い操作で手が不自由でも自由に食事ができる。「今年のロボット大賞」2006「サービスロボット部門」で優秀賞、審査員特別賞を受賞
→セコム

コラム1 21世紀ロボットチャレンジプログラム
コラム2 このロボットをあなたならいくらで買いますか?

2 どんなロボットが欲しいですか? 市場で求められるロボット像とは?

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