• 目次
  • 特集
  • トピックス
  • 未来人

  • カフェテリア
  • 旬
  • トイ

Re:バザール サイバースペースの"共創"新時代

特集 vol.2_4

12の視点から見るWebの未来

テキスト:中嶋謙互
whos whoWho's Who
イラスト=花

20世紀最初の年、1901年(明治34年)お正月の「報知新聞」(現「読売新聞」)に、百年後の科学の進歩を予測した「二十世紀の預言」という特集記事が掲載された。当時のジャーナリストが描いた未来像を検証してみると、その多くが見事に的中しており、今更ながら彼らの想像力には驚かされる。

では、21世紀を生きる私たちは、50年先、100年先の未来図を思い描くことができるのだろうか。21世紀の予言は至難の業である。人間の想像力を超えるスピードで、科学技術が進展しているためだ。現実社会のパラダイムに縛られていると、科学技術、あるいは人間の進化の可能性に向き合うことすらできなくなる。でも未来は否応なしにやってくる。

中嶋謙互氏は、現実の自然環境をシミュレートする人工世界の開発を行っている。科学技術の現実を受け入れるリアリストであると同時にビジョナリーでもある。中嶋氏と一緒に想像力の限界を超えて、来るべき未来社会に向き合ってみようではないか。[小沢淳/日本科学未来館 科学コミュニケーター]

ワールドワイド・マインド

私には、想像力の限界がある。Webの未来について、私が想像できる最も遠い地点は、「ワールドワイド・マインド」と呼ばれるものだ。率直に言って、それ以上先のことについては、私はまったく想像できない。私たちの頭では、これ以上を想像することがむずかしいため、この地点を「知性の特異点」あるいは「Singularity(*1)」などと呼ぶ人たちもいる。

ワールドワイド・マインドという言葉はいろいろな意味で使われるが、ここでは、“More Than Human”(*2/日本語版『超人類へ!』*3) で紹介されている意味で使いたい。ワールドワイド・マインドについて、技術的な詳細を一切省略し、典型的な説明をしてみたい。

この本によれば、まず、何百万本という、毛細血管よりも細い電極を、頸動脈などから挿入し、脳全体に行き渡らせる。この電極を使うことにより、脳に対して直接的な手術をしなくても、脳内の何億という数の神経細胞の電気的状態を調べ、また電気的状態を変えることができる。次に、この電極の束を超高速・大容量の計算機に接続する。さらにその計算機を光ファイバーで接続された通信ネットワークで相互接続させる。

この種の、手術をせずに脳神経細胞をネットワークに接続するための技術は、さまざまな種類のものが開発されている。最短で30年、おそらく21世紀のあいだには、実用化されるはずである。実験室のレベルでは、神経細胞同士を電気的に接続すれば、離れたところにいる人と、記憶やイメージを直接交換できることもわかっているし、計算機の能力を、自分の脳機能の一部として 「考えるだけで」活用することができることもわかっている。最終的には計算機を使っていることに気づかないレベルにまで到達できるのだ。これは、実験室で起こっていることの延長線上にある。「心とは何か」を物理的に精密に説明できなくても、脳の適応能力が高いために、こうした接続が可能になってしまうのである。

21世紀の後半、人類は、100億個ぐらいの脳を持っているだろう。神経細胞の動作速度は、1秒間に数回程度である。光ファイバーを使えば、0.1秒あれば地球の裏側まで情報を到達させることができる。10万本の電極の1本1本を10万個の脳に直接接続すれば、10万×10万=100億 となり、2段階つまり200ミリ秒で他のあらゆる脳神経細胞と直接に通信することができる。他の脳が覚えていることを、ちょっとがんばれば思い出すことができるようになる。最終的には、人類の意識や記憶は一体化し、区別することができなくなる。

現時点では、ワールドワイド・マインドを実現するためには、どういう要素が必要なのか、おぼろげに見えてきている段階だ。しかし、欠けているピースは、急速に埋まりつつある。21世紀、私たちが死ぬまでの間に、ワールドワイド・マインドが実現してしまう可能性すらゼロではない。それほどの速さで、技術革新は進んでいるのだ。問題は、この「想像の限界」が、何百年という遠くではなく、とても近い時期にありそうなことだ。



ワールドワイド・マインド以前

ワールドワイド・マインド以後の「産業」や「経済」や「社会」や「人生」について議論することは、その土台となる人間の能力があまりにも異なっていて、もはや「人間」であると言えるのかどうかすら疑わしいため、極めて難しい。

私たちにできることは、せいぜい、ワールドワイド・マインドにはどのようにして至るのか、そこに至るまで人類が生き延びるにはどうしたら良いのか、どういった状況でそこに至るのが良いのか、といったことを考えることだけである。

とは言っても、いままさに、私たちは生きている。5年後、10年後、20年後も多分生きているだろうし、しかも、より良く生きたいと願っているはずである。ワールドワイド・マインド以前の将来には、私たちはどういう生活をしているのだろうか?

2006 (C) NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION