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Re:バザール サイバースペースの"共創"新時代

特集 vol.2_1

オンラインゲームの効果を探る

知的活動の新境地とは?

馬場章

馬場章[東京大学大学院情報学環]
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「オンラインゲーム」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。一日中パソコンの前で無心にキーボードをたたき、現実の社会を遮断する姿? しかしそこにはヴァーチャルゆえの豊かな空間が広がり、新しいコミュニケーションの形が生まれているようだ。
オンラインゲームには、今、日本の人気タイトルで50万人ものプレーヤーを誇るものもあるという。そのポジティブな面を教育目的に利用しようと研究を行う、東京大学の馬場章教授を取材した。

撮影=邑口京一郎
インタビュー=常盤拓司[日本科学未来館元スタッフ]
編集協力=アイシオール
テキスト=阿蘭ヒサコ

オンラインゲームの効果を探る(後編)

オンラインゲームで世界史の授業!?

Q4 ではゲームのプラスの効用を見出すための、具体的な研究についてお聞かせください。

オンラインゲームの教育的利用について、実証実験を行っています。一般の方でもプレイできる市販のゲームを使って、エンターテインメント以外の効果が期待できるのかどうか。それも実験用に作られた場所ではなく、どこにでもある場所、その代表である学校の現場で検証してみようというのがこの実験の特徴です。

たまたま香川県の詫間電波高専という学校の協力が得られ、高校1年生、2年生に相当する学生さんたちの世界史の授業の中で、株式会社コーエーから発売されている「大航海時代Online」を使って実験を行っています。このゲームはMMORPG*の歴史シミュレーションゲームに分類されます。2006年7月に行った第1回目の実験では、西洋の地中海世界を学ぶ時間に、ふだん通りの授業だけのクラスと、オンラインゲーム(ゴールを設定)と先生の授業を組み合わせたクラス、オンラインゲーム(ゴール設定なし)だけのクラス、の3つに分けて実験しました。

ゲームをプレイする授業の様子を公開したところ、校長先生も「子どもたちがこんなに夢中になって授業に参加しているのを初めて見た」と驚いておられました。さらに、定期試験の平均点が躍進したクラスもあって、これには先生方も「奇跡だ」とおっしゃっていましたね。知識の増大と定着に最も効果のあったクラスは、オンラインゲームと先生の授業を組み合わせたクラスでしたが、ゲームプレイに加え先生から課題を与えることで、彼らの学習に対する意欲をうまく引き出せたのではないかと思っています。

*MMORPG:Massively Multiplayer Online Role-Playing Gameの略。「多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム」などと訳される。

「大航海時代Online」( https://www.gamecity.ne.jp/dol/)より。サーバー上の仮想空間に大航海時代を再現し、冒険商人たちが交易しながら冨を築いていくゲーム。通常こういった研究は専用に開発されたシリアスゲームを使用して行われる。この実験では一般性があり、プレーヤー(高校生)にとってのルールと操作系のバランスを考えて、エンターテインメント性もあるこのゲームを選んだ  写真提供:株式会社コーエー (C)2005-2006 KOEI Co., Ltd. All rihgts reserved.

詫間電波高専でのオンラインゲームを使った授業風景



オンラインゲームならではの「体験」

Q5 この実験から得られたことを教えてください。

ゲームは面白いから子どもたちをひきつけるわけですが、面白さの要因については今後多方面から解析していかないといけません。 僕は、ゲームの面白さの要因の一つはバランスだと思うんですよ。プレーヤーを中心にして、ゲームのルールと、それをコントロールする操作系のバランスがすごく重要です。今回「大航海時代Online」で成功したのは、高校生レベルにフィットしたゲームだったことがいちばんの理由ではないでしょうか。実際のプレーヤーはもっと年齢が高いかもしれませんが、高校生レベルというのが狙い目だと思うんです。

あとは、ネットワークによるメリット。パッケージやカードゲームと違うのは、自分の分身(アバター)が、その時代の、その世界で動き回り、人と出会ったり話したりというヴァーチャルな体験ができること。ヴァーチャルというのは単なる仮想ではなく、限りなくリアルに近いがリアルではない世界。リアルじゃないからこそ、例えばエリザベス女王と会話ができたりもするわけです。そこがマンガの歴史参考書のような、一方的に読むだけの情報とは異なり、さらなる没入感を生み出して、より深いところにいこうとする彼らの行動を引き出しているのではないか、と思うのです。

また、パッケージゲームのようにエンディングが決め込まれているわけではなく、自分の行動でストーリーを変えたり、プレーヤー同士で教え合い協調して進むこともできる。教師が解答を用意していないというのは一見危険なようですが、当時の世界が忠実に再現されているので、プレーヤーが自分で答えを見つけることができるんですね。

教育効果の測定方法や、ゲームの評価法など、まだまだ検討すべき問題も多々あります。また、教育という狭い範囲だけでなく、コミュニケーション能力といった人格形成に役立つかどうかなど、プレーヤー同士の年齢・性別等の属性を変えながら研究し、検証していく必要もあります。しかし今回、ゲームタイトルの選択を間違わなければ、教育に使えるオンラインゲームが存在するということが証明できたのは、大きなメリットでした。


オンラインゲームでプレイするだけよりも、授業担当の先生から出された課題をもとに壁新聞を作成したクラスでは、歴史知識の増大と定着に顕著な前進が見られた。生徒からも「案外壁新聞作りが面白かった。壁新聞にまとめて授業がよく理解できた」という声があった

社会的スキルと歴史学習についての関心に関するt-Testの結果。被験者に対するアンケート調査によると、オンラインゲームのプレイは歴史学習に対する動機を引き上げ、社会的スキルの向上にプラスになったと考えられている

やがて自分でゲームを創る時代へ

Q6 先生は4月に「日本デジタルゲーム学会」を立ち上げました。その目的を教えてください。

先端科学技術を研究される方々の間でさえ「アニメはいいけどゲームはね」と言われることがあるんですよ。ゲームの不当な社会的評価に引きずられて、目が曇っている人がたくさんいる。まず、「ゲームはどうして動くのか」という単純なことを考えてみてほしい。そこには非常に高度な技術が使われているわけです。そういうところからゲームに対する偏見をぬぐい去ってほしいですね。

欧米では学問として「ゲーム学」が確立されていて、ゲーム研究者を名乗る方も結構います。でも日本では皆無に近い。僕は、これまでゲームに関わってきた人たちの知恵を集め、日本なりのゲーム学を形成する場として「日本デジタルゲーム学会」を設立しました。産学協同の組織であり、(学術研究のみならず)、エンターテインメント産業とIT産業の側面からもゲームを捉えようとしています。学会の6割が開発者や関連業界の方々で4割が研究者。学会としては珍しいことになっているんですよ。僕はこの学会によって、各方面でゲームを肯定的に研究する人が増え、ゲームの良いところをどんどん活用していくようになればいいと思っています。

テレビだけでなく活字でさえも、印刷技術が登場したばかりのときは悪く言われましたが、今はそれらのない世界なんて考えられない。同様にゲームの研究者やプレーヤーが世の中に溢れるようになることが僕の夢なんです。さらにパソコンでゲームを開発する環境が整備されれば、プレーヤー自身がゲームを作っていく時代も遠からず実現すると思っています。

日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan) http://www.digrajapan.org/modules/tinyd1/。 日本国内におけるデジタルゲーム研究の発展と普及啓蒙を目的に馬場先生がイニシアチブをとり設立された団体。産業界との積極的な連携、国際的な活動の中で日本でのゲーム学の確立を目指す

マイクロソフト社ではWindows、Xbox360用のゲーム開発環境が無料で提供されており、左記サイトから誰でもダウンロードして使用することができる

サイバースペースがカオス化しないために

Q7 先生は今、サイバースペースが「共創」的時代にあるという実感はおありでしょうか?

今現在、その端緒は見えているけれど、まだそう言い切ることはできないと思います。でも、今が大事なときです。今の方向性を誤ると、情報共有も失敗するし、共創的な効果を生み出すのとは逆の、カオスの世界に落ち込んでいってしまう。例えば倫理を無視した、たんに殺し合うだけのゲームがあちこちにできていくようなことになりかねない。

確かに時代は、一方的に情報を享受する時代から共有する時代へ、さらに情報を共に創り出していく時代へ、と間違いなく進んできています。新しい時代に入ろうとしている今だからこそ、慎重に、きちんと方向性を見極める必要がある。僕たちの研究はその基礎づくりの一つだと思っています。

また、研究者がゲームの開発者と連携しながら、ゲームの持つ社会性を研究し開発するのも大切だと考えています。「共創的」な情報共有の世界が実現したら、僕自身はゲームは研究をするよりも創ったほうが楽しいので、気の合う連中をネット上で探して面白いゲームを創って、大勢の人に遊んでもらいたいですね。

すでにデジタルゲームの世界では、ネットワークを活用したゲームの「共創」時代が始まっています。この動きはますます広がっていくでしょうし、広げていかなければなりません。

馬場研究室ではプロジェクトベースで研究が進められ、研究スタッフはそれぞれのプロジェクトごとに研究に取り組むとともに、それらの統合にもつとめている

馬場先生からの質問

馬場先生から読者のみなさんへ質問があります。あなたの答えが先生の研究をさらに活性化するかもしれません。下の「コメントを投稿する」よりどしどしお送りください。

質問その1

あなたはデジタルゲームをプレイしますか?それともしませんか? どうしてデジタルゲームをプレイするのですか?それともしないのですか?

質問その2

デジタルゲームのプラスの効用には、どのようなものがあると考えますか? また、そのような効用が発生する理由は、デジタルゲームのどのような特質に由来すると思いますか?

質問その3

デジタルゲームをめぐっては、人間や社会に対してさまざまなマイナスの影響が指摘されています。あなたはデジタルゲームと現代の社会との関わりをどのように考えますか?

質問その4

新しいIT技術を搭載した次世代ゲーム機が出揃いました。さて、それではさらに次の世代のゲーム機、あるいはゲームはどのようなものになるでしょうか? 予想してください。

2006 (C) NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION