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Re:バザール サイバースペースの"共創"新時代

特集 vol.2_1

オンラインゲームの効果を探る

知的活動の新境地とは?

馬場章

馬場章[東京大学大学院情報学環]
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「オンラインゲーム」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。一日中パソコンの前で無心にキーボードをたたき、現実の社会を遮断する姿? しかしそこにはヴァーチャルゆえの豊かな空間が広がり、新しいコミュニケーションの形が生まれているようだ。
オンラインゲームには、今、日本の人気タイトルで50万人ものプレーヤーを誇るものもあるという。そのポジティブな面を教育目的に利用しようと研究を行う、東京大学の馬場章教授を取材した。

撮影=邑口京一郎
インタビュー=常盤拓司[日本科学未来館元スタッフ]
編集協力=アイシオール
テキスト=阿蘭ヒサコ

オンラインゲームの効果を探る(前編)

海外のゲーム熱

Q1 海外のご出張続きで、なかなかお目にかかれませんでしたが(笑)。どんなところへ行ってこられたのでしょう。

いやぁ、すみませんでした。この1カ月の間に「ロンドンゲームズサミット」、「ロンドンゲーム開発者会議」、「ロンドンゲームキャリアフェア」、パリの「マンガエキスポ」、ワシントンの「シリアスゲームズ*サミット」、台北の「第2回台北ゲーム開発者会議」、ソウルの「G★(ジースター)」、韓中日の「文化コンテンツフォーラム」さらに韓国延世大学の「教育とゲームシンポジウム」と立て続けに出席していました。マンガやアニメ、ゲームなどの日本の文化が海外に紹介されるだけでなく、向こうで独自の動きを作り出している様子が視察できました。異常な増殖と言えるほどの勢いですよ。

いろんなところで実感したのですが、海外の開発者や研究者にとって、素晴らしいゲームを生み出している日本は憧れの地なんです。彼らの日本のゲームやゲーム開発者に対するリスペクトというのは想像を絶するものがあります。有名なゲーム開発者である宮本茂さん(任天堂)や岩谷徹さん(バンダイナムコゲームス)が海外でも尊敬されているのは知っていましたが、実は日本の“ゲーム研究”も期待されているんだ、ということをすごく感じましたね。

他方で、韓国、中国、台湾など東アジア諸国の追い上げもすごい。この1年間で彼らの作品のクオリティが抜群に上がってきている。もう、日本の作品の物真似という領域を出て、確実な技術に裏付けられた独創的な作品を作り出そうという間際まで来ている。国家をあげて人材育成にすごく力を入れていますからね。翻って日本では、コンテンツにおける人材育成が立ち遅れている印象があります。

*シリアスゲーム:教育、医療、訓練、公共政策といった、エンターテインメント以外の目的で開発されたゲーム。

海外では国をあげてのゲームイベントが目白押しだ。ゲーム産業に就職を希望する若者対象のセミナー「ロンドンゲームキャリアフェア」会場風景

ワシントンの「シリアスゲームズサミット」会場風景

台北ゲーム開発者会議 シンポジウム終了後の研究者懇談会

「韓日中文化コンテンツフォーラム」会場風景
フォーラム終了後の中国政府関係者の記念写真撮影

「G★」会場風景
ゲームショー出展の準備をする韓国の大学生



「たかがゲーム」という日本の風潮

Q2 なぜ日本では、ゲームを支える人材の育成が立ち遅れてしまったのでしょうか?

歴史的にみると、日本はゲームを作るという部分では最先端でした。それがいつのまにかアメリカに抜かれていた。その最大の要因がまさに人材育成の問題にあるんです。日本ではまだ一子相伝の職人技で、クローズドな環境でゲームを作っている部分が多いのですが、アメリカでは先人の知恵(プログラムなど)をオープンにして、ゲームの開発者を大量に育成する体制をいち早く構築した。しかも裏付けとして「ゲーム学」という学問的な基盤をきちんと置いたのです。そこから日本は学ぶべきだったのですが、日本が十分学ばないうちに東アジアの国々が、国家主導でそういう体制を作り上げ日本を脅かしている、というのが現状です。

しかも韓国、中国では、ゲームはIT産業として認知されています。ゲームはデジタルコンテンツの中で最も高度な技術や表現を使う、「エリートな」コンテンツであるとされているんです。だから国が積極的に支援する。ところが日本ではゲームはエンターテインメント産業という見方が強くて、社会的な評価は必ずしも高くない。僕はもともとゲーム好きなのですが、日本におけるゲームに対する偏見に疑問をもったことが研究の動機になっていて、現在は、オンラインゲームを対象に研究を行っているところです。


「趣味が研究に転じてしまった」という馬場先生はもちろんゲームが大好き。その中でも大きな影響を受けたのは、「やはり学生時代熱中したインベーダーゲーム(写真)」だとか。研究室にはインベーダーゲームの開発者、西角友宏氏のサイン色紙が飾られている
写真提供:株式会社タイトー

ゲームはサイエンスの最新の成果

Q3 馬場先生がゲームのなかでもオンラインゲームに注目されている理由はなんでしょうか?

中国や韓国と違って、日本ではパッケージ型のコンソールゲームが現在の主流ですが、その中でも通信機能を持ったものが増えてきています。それに対してオンラインゲームは、もともと、ゲームとしての流れと、ネットワークとしての流れを併せ持ったもので、私たちの研究も、ゲーム研究であると同時にオンラインコミュニティの研究にしたいと思っています。なぜならネットワーク社会は今後もどんどん高度化していき、社会の質、例えばコミュニケーションのあり方も変えていくという確信があり、それをゲームの世界で先進的に実現するのが、オンラインゲームだと思っているからです。

しかし、日本では、「ネット中毒」と「ゲーム脳」という二つの批判が結合して、オンラインゲームはまさに二重苦の状態です。確かにゲームにはマイナスの要因がないとはいえません。が、逆にプラスの効用を積極的に見出す研究も必要だと思うのです。ゲームはエンターテインメントであり、ITでもあるわけで、コンピューターサイエンスの最新の成果をふんだんに盛り込んでいます。それを否定することは、人類の進歩や、科学を否定することになります。むしろそれを使いこなしてこそ、人間は前に進めるのです。プラスとマイナス、両方の影響を公平に見て、プラスに使いこなす。そのための“ゲームリテラシー”が必要なのです。

歴史のなかでも常に、最先端のテクノロジーによるメディアは、否定的な声にさらされてきた。写真は『グーテンベルグ聖書』(1455年)。印刷技術を発明したグーテンベルグが作った西洋初の本格的な印刷物。印刷技術が開発された当時は、「本を読むと目が悪くなる」との批判もあったとか
写真提供:慶應義塾大学 同大学ウェブサイト「ステンドグラス グーテンベルグ聖書」より転載

開発された当初のテレビ画像。テレビに対してもさまざまな批判が持ちあがった。新しいメディアが定着するにはある程度の時間も必要か
写真提供:日本ビクター株式会社 日本ビクターのウェブページ
http://www.jvc-victor.co.jp/dvmain/club/school/hivision/
column/column1/column1.html

より転載 (C) Victor Company of Japan, Limited All Rights Reserved.

(後半へつづく)

おまけコラム:オンラインゲーム初体験の方へのおすすめリンク集

別の人生を生きてみる

「Second Life」

空想の乗り物を運転したり、変わったところに家を建てたり、商売をしたり…。決まった結末やゴールがあらかじめ設定されていない世界を、自由気ままに生きていく。多人数同時参加型オンラインゲーム(MMOG)。

「おいでよ どうぶつの森」

ニンテンドーDS用ゲーム。どうぶつの森の住人となり、気ままに暮らしてみよう。ゲーム機に搭載されている無線LAN機能を用いることで、同時に4人で家を共有したり、実世界上でユーザー同士がすれ違い様にメッセージを送り合ったりすることができる。

歴史の世界を体験する

「信長の野望オンライン」

戦国時代の一個人として生活してみよう。他のプレーヤーとコミュニケーションしつつ、時には競い合い、合戦で手柄を立てて屋敷を建てたり、技芸を磨いて武芸の流派を打ち立てたり。ゲームの背景となる日本の歴史に対する考証が入念になされている。

「大航海時代オンライン」

中世地中海を舞台に、帆船を操り、冒険や貿易をするのはどんなものだろう。他のプレーヤーの操るキャラクターとの商売や情報交換で富を蓄積していける。こちらも中世ヨーロッパに対する歴史的な考証の上に、ゲームの世界が展開されている。

由緒あるゲームをオンラインで

「東風荘」

インターネット上に開設されたマージャン荘。ランキング戦などが定期的に実施されている。

「インターネット将棋道場」

インターネット上に開設された将棋道場。ログインし、対戦相手を捜して将棋を指すことができる。たまに、プロ棋士が紛れ込んでいたりすることもある。

ひたすら戦う

「ハーフライフ2」

市街地のような場所で次々と出てくる敵を撃ち倒すゲームだが、従来の同様のゲームと違い、敵となるキャラクターに人工知能が搭載されていたり、通信機能を用いてチームプレーや対戦ができるなどの機能がある。国際的な人気が高く、世界大会などが行われている。

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