特集 深海の科学  >  3人の研究者による3つの研究
3. 知られざる微生物の研究/高井研 プロフィール

いったい地下深く、どこまでが
生命の生きられる領域なのだろうか。
深海調査艇の開発に伴って、深海には2000mの深さにも 6000mの深さにも 
そして11000mの超深海においても 生命の存在が確認された。
では、海底下はどうだろう。
現在陸域では地下約4000mの深さまで
微生物の存在が発見されている。
例えば摂氏150℃、1000気圧のような高温高圧の、
太陽も届かない極限環境で
地球を食べて存在する知られざる生き物たち。
微生物学者高井研氏は、地殻内には特有の、
微生物たちの生態系があると主張する。
それに迫るには、もっと深く掘り調べるしかない。



地球の生物の半分が地殻内にいる?


私たちが生活している陸上や、海中には生物がたくさん存在していますが、地下や海底下といった地殻内にも、実は同じくらいの量の生物圏が存在することをご存知ですか。ただしその量は、存在する炭素量によって算出されているため、その中には活動している微生物だけでなく、死んでいる微生物も含まれています。
それほど巨大な生物圏が地殻内にあることが分かったのは1998年のことでした。それ以前にも石油掘削や地下水の調査などで地殻内微生物の存在が確認されてきましたが、本格的な調査となると、その歴史はまだまだ浅いんですね。

地殻内微生物は生きているのか

私たちのグループでは、地殻内微生物について、主に二つの場所に注目しています。一つは活動量の低い海底下。実は大量に存在する地殻内微生物の多くが、果たして死んでいるのか生きているのか…、今それがいちばんホットな話題なんですよ。
もしかすると数万年に一度細胞分裂するようなスローなペースで“生きている”のかもしれません。例えば次世代エネルギーとして期待されているメタンハイドレートは、地殻内微生物が数千万年という単位で生きることによって少しずつメタンをためていったものだ、という考え方もあります。しかし、私たちは「死んでいる」という立場をとっています。そのほうがおもしろいからです。
つまり、海底下というのは非常に静かですから、40億年間の生命の歴史が、死んだときの状態できれいな層状に積もったまま保存されているということなのです。そこからDNAを回収し、ものすごい環境変動を体験してきた微生物を研究して未来に生かすことができたら、おもしろいですよね。

生命の起源を明らかにする説

もう一つ注目しているのは、地殻内でも微生物が活発に活動しているようなところです。一つはマグマが出てきて、地面が割れて熱水がボコボコと出ているような熱水活動域。なぜなら、そここそがまさに、生命誕生の場であると考えられるからです。
現在の生態系の基本である太陽エネルギーのシステムは、27億年前にできたものです。では、それ以前の13億年間はどうだったのか。エネルギーとして考えられるのは地球内部の熱エネルギーです。それが還元物質エネルギーに変換されたのが、二酸化炭素や水素、メタンなどです。 私たちの研究室では、酸素がない状態で水素と二酸化炭素を食べて生きる微生物こそが、多分最初に地球上に繁栄した生物だろうと結論づけました。そして考えたのが「ハイパースライム」(visual summary(4)参照)という生態系です。

宇宙の生命の存在にも迫る?

世界中の熱水噴出孔を調べるうちに、インド洋に、この「ハイパースライム」とよく似た生態系が見つかりました。インド洋は、水素の量が他に比べてはるかに多いのです。
水素はマントルが関与すると発生するのですが、マントル物質は地球固有のものではありません。他の岩石系の惑星にも存在します。つまり他の惑星でも同じことが起こりうる。すなわち、生命の起源を探るというのは、地球だけの生命を探ることにとどまらないのです。 「ちきゅう」でいちばんやりたいのは、このインド洋で見つけた生態系を実際に掘削して、地下何メートルにどういう微生物がいるのかを調べることです。地下1000m以下となると、ODPでは技術的な壁がありました。2000mしか掘れませんしね。「ちきゅう」は最高7000mですから、ほとんどのところが掘れるようになります。
もしかするとガンを治すような未知の微生物の遺伝子産物が採取できる可能性だってあります。生命の起源の解明にもっとも近い研究が、海底下の研究で行われているのです。



ビジュアルサマリー

2006 (C) NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION