特集 深海の科学  >  3人の研究者による3つの研究
2. 現在の、“活動している地球”の研究/木下正高 プロフィール

日本は4枚のプレートに囲まれていて
地震がとても多い。
日本人が深海の科学で世界をリードするようになったのは
海底下の揺れを常に感じ続けてきたからだと語る人もいる。
では、地球内部の活動をリアルタイムで把握し、
起こりうる事態を予測するにはどうしたらいいのか。
木下正高氏のグループは、
「ちきゅう」による孔内長期モニタリングを
主たるプロジェクトとして推進しながら
他の先端的装置やネットワーク開発とも連動した
統合的な観測に取り組んでいる



海洋底ダイナミクス研究とは


私のいる海洋底ダイナミクス研究プログラムでは、海面下6000mに達するような深海や、さらにその下にある地殻の構造とダイナミクス(時間変化)を明らかにするための観測と研究を行っています。海底下については主に地殻からマントルにかけての部分、および深さ100m〜1kmの断層の付近を中心に観測を行い、地下の現象について、地球物理学的かつ地質学的な見地から分析します。
研究のゴールのひとつは「地震・津波メカニズムの解明」です。具体的には、断層活動に関連する現象を海底で観測したり、海底地震・津波計による地震活動のモニタリングを行って、地震の準備過程や性質を理解するための基礎研究を行います。このような観測をリアルタイムで行うことにより、地震による被害の軽減に役立てたいと考えています。特に、現在集中的に観測を行っている紀伊半島沖では、今後30年以内に東南海地震が50% の確率で発生することが懸念されており、日本人としては欠かせない取り組みだと考えています。


音波(ソーナー)による海底調査の軌跡を表したもの
→visual summary(2)へ

観測機器も自ら研究開発する

観測はさまざまな観測手段を多角的に用いて、組織的・系統的に行いますが、私たちはその最新の観測機器の開発も並行して行っています。
海底調査の基本は、第一に音波を使った地形調査・地震探査です。調査船から音波を発し、海底からの反射波や屈折波を水中マイクロフォンで拾い、海底の起伏や断面構造を調べるのです。最近はその信号もアナログからデジタルに変わり、非常に質のよい記録が得られるようになりました。今直面している問題は、より詳細な地形や地下断面構造を得ることですが、調査船でなく、海底近くに音響探査装置(ソナー)を搭載して同様の調査を行い、これを実現していきたいと考えています。
一方、試料採取の調査も重要です。典型的な方法は、ピストンコアという筒状のパイプを断層の付近に刺して、堆積物を採取するものですが、断層の活動や海底熱水循環などの研究に必要な位置の精度を保って深海底に投下するのは実際には不可能でした。そこで登場したのが、東京大学海洋研究所が開発し、我々と共同で運用しているNSS(Navigable Sampling System:自航式サンプル採取システム)です(→visual summary(3)へ)。これはピストンコアを吊り下げられる一種のROV(無人探査機)で、自ら航走することができ、投下ポイントを見定めるテレビカメラがついていて、船からの信号で各種機器を切り離すこともできます。これによって高い精度でのサンプリングが可能になりました。

大切なのは現場での観測

巨大地震発生の仕組みを理解することは、地球深部探査船「ちきゅう」による掘削研究の重要な目的の一つに掲げられています。地震は、地球表面を覆う十数枚のプレートの動きによって生ずる、プレートのひずみエネルギーの解放によって起こります。私たちは、ひずみがたまっている場所を掘削し、その孔に地震計などのセンサーキットを差し込んで観測する“孔内観測プロジェクト”を予定しています。まさに地震の起ころうとしている現場でリアルタイムに観測するわけですから、このメリットは計り知れません。ただ、地下6000mともなると、それを実現するための技術的な課題はまだまだ山積みです。
しかし、やはり現場でデータをとるというのは、研究者としてこんなに楽しいことはないのです。生データが刻々と出てくるのを見ながら、だからこそ新しいアイデアというのも浮かんでくるわけです。現場での調査なくして、いかなる理論も、またその予測や防災への貢献も考えられません。「ちきゅう」による最初の航海は2007年9月。私も乗船が決まっていますが、今から非常に楽しみにしています。



ビジュアルサマリー

2006 (C) NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION