放射能の基礎知識

質問: プルトニウムが遠くへ飛ばないのは矛盾?

プルトニウムは自然には特定の場所にしか存在しないので、現在日本で検出されているものは核実験の際に日本中に降り注いだと聞きます。しかし今回の原発事故で東電は、プルトニウムは重くて飛散しないと主張しています。矛盾していませんか?(40代男性・東京都)

回答:

たしかに「日本中に降り注いだ」と「遠くに飛ばない」とでは、矛盾を感じてしまいます。しかし、結論としては、どちらも正しいのです。なぜでしょう?
それは、核実験と原発とでは核燃料のつくりが違うことによります。

兵器である原子爆弾は、もともと大きな爆発をするようにつくられています。1954年のビキニ環礁での核実験では、高さ30キロメートルにもなるきのこ雲が生じました。このように、核実験ではプルトニウムなどの放射性物質は成層圏(高度11キロメートルから50キロメートル)にまで押し上げられます。成層圏に達したプルトニウムは1年ほど滞留して少しずつ地上に降下してくることがわかっています。

一方、原発の燃料は、急激な爆発ではなく徐々にエネルギーを出すようにつくられています。今回の福島第一原発の事故では、損傷を受けた燃料棒からプルトニウムが漏れ出してしまいました。しかしこのプルトニウムは、単体ではなく他のものとくっついて重たい粒子として出てくるため、遠くまで飛散しないとされています。

日本ではつくばにある気象庁気象研究所地球化学研究部が、50年以上にわたってプルトニウムやセシウムなどの降下量を測定しつづけてきました。下の図をみてください。


60 年代や70年代は多くの大気圏核実験が行なわれていたため、プルトニウムの降下量がたくさんありました。注目していただきたいのはチェルノブイリ原発の事故が起きた1986年です。比較的軽いセシウムは日本のつくばにもたくさん飛んできたことがわかりますが、重たいプルトニウムは目立った変化はなく、ほとんど検出されなかったことがわかります。

では、検出されたプルトニウムが本当に核実験由来のものか、どう判別するのでしょうか。検出される数種類のプルトニウム(プルトニウム239やプルトニウム240など)を調べ、何がどれだけ多いかを比較することで、核実験由来か原発由来かを判別できます。福島原発の敷地内では原発由来のプルトニウムがみつかりましたが、核実験由来の今あるプルトニウムと同程度の低いレベルです。

また、この図の縦軸は対数になっていることにご注意ください。一目盛りで数値は10倍になります。わずか半世紀前には、現在の1000倍ものプルトニウム降下量があったのですね。


執筆:科学コミュニケーター 林田美里
2011/04/12 掲載



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