都市・インフラ

質問: 緊急時に強い連絡手段は?

今回の震災では電話のつながりが悪かったにもかかわらず、ネットワークは強かったといわれています。本当はどうだったのでしょうか。もしそうであれば理由は何でしょうか。(50代女性・千葉県)

回答:

3月11日の震災当日から数日間、電話がつながりづらい状態が続きました。特に携帯電話の音声通話は大変つながりづらかったのですが、インターネットは使えたのです。私も震災当日、日本科学未来館から長距離を歩いて帰宅しましたが、帰路では携帯電話で地図や電車の運行状況を逐一確認していました。これはどういうことでしょうか?

まずは電話がつながるしくみを、図をみながら確認しましょう。下図は、固定電話の回線と、携帯電話の回線を簡略化したものです。


固定電話は、最寄りの交換機とつながっています。受話器を上げると聞こえる「プー」という音は、交換機が出しています。ここでダイヤルすると、電話をかける相手と、かけられる相手の交換機が電話回線でつながります(途中、中継をするだけの交換機もあります)。相手の地域の交換機が、電話機のベルを鳴らし、相手が受話器を上げれば通話状態となります。これが固定電話の通話のしくみです。

携帯電話は無線通信ですので、しくみが少し異なります。固定電話が常に線で交換機とつながっているのに対し、携帯電話は最寄りの基地局と電波でつながっています(携帯電話の画面に出るアンテナマークが、基地局とつながっている印です)。基地局は、いくつかの装置を経て交換機とつながっています。音声を扱う交換機(図中の交換機4)の他に、メールやインターネット接続など、パケット通信を扱う交換機(図中の交換機5)が別にあります。電話やメールをする際、各交換機は相手の電話番号やメールアドレスから相手がつながっている基地局を特定し、着信音を鳴らします。これに応えることで、通話やメールの受信ができます。

3月11日に電話回線で何が起きたか、NTTの公式ホームページで公開されている「社長記者会見」の様子から窺い知ることができます。これによると、地震発生直後、家族や友人間の安否確認などで固定電話、携帯電話での音声通話が一気に増えたそうです。電話をかける側も、かかってくる側も、ともに基地局や交換機に負荷が集中しました。携帯電話の音声通信量は通常のなんと50~60倍にもなりました。携帯電話の音声用交換機は、通常の2倍の負荷に耐えられるよう設計されていますが、60倍にはとても耐えられません。

対策として、NTT東日本、NTTドコモは固定電話、携帯電話の回線に通信規制をかけました。通信規制とは、電話をあえてつながりづらくし、交換機の前で門前払いすることでシステム全体の停止を防ぐというものです。NTTドコモの発表では、携帯電話の通信規制は最大で80~90%にもなりました。つまり、携帯電話で相手と話そうとしても、10回に1~2回しかつながらないということです(ただし110番や119番など緊急の通話は規制の対象外)。固定電話も携帯電話ほどではありませんが負荷が増加したため、一時的な通話規制を行ないました。さらに地震による停電も、つながりづらさに拍車をかけました。これが震災後、電話がつながりにくかった理由です。

では携帯電話からのインターネットは、なぜ震災時も利用しやすかったのでしょうか?その理由は、携帯電話がインターネットでデータを送る際、ひとつのデータを細かくして複数回に分けて送るためです。これを「パケット通信」といいますが、パケットは小さなデータを包んだ「小包」の意味です。携帯電話で通話するには、一度に大量の音声データを送る必要があります。多くの人が電話を使うと、大量の音声データが行き交うこととなるため、交換機に負担がかかるのです。それに対し、インターネットの場合は一度に送るのは小さなデータです。また、回線が混んできた場合は、送信のタイミングを調整するというしくみもあります。そのため、回線が混み合った震災時もインターネットは利用しやすかったのです。

災害や事故などで多くの人が電話を利用する際は、交換機に負担をかけないよう、緊急でない通話を控えましょう。また、緊急時のためにメールやインターネットを利用した音声以外の連絡方法も確認しておくとよいでしょう。この震災でつながりやすかった電話は、なんと公衆電話でした。公衆電話は、災害時に通話が規制されず優先的につながるものが多いのです。ふだん携帯電話を使い、公衆電話の存在をすっかり忘れていた人も多いでしょう。ラジオやテレホンカードのように、ふだん忘れていたものが緊急時に一番使えることはよくあることです。この震災を機会に、視点を切り替えてみましょう。


執筆:科学コミュニケーター 外口慶樹
2011/04/21 掲載



関連リンク


NTT 社長記者会見より(2011年3月30日)