放射能と身体

質問: マスクや掃除機で放射性物質を防げる?

放射性物質はマスクで防げるのでしょうか。マスクの目よりも原子のサイズの方がはるかに小さいと思います。(30代男性・東京都)

家の中の放射性物質の除去に掃除機は有効でしょうか?(30代女性・埼玉県)

回答:

薬局などで売られているマスクには「ウイルス、花粉を99%カット!」などのうたい文句がありますよね。はたして、風邪や花粉用のマスクで放射性物質を防ぐことができるのでしょうか? 実は有効なマスクとそうではないマスクがありそうです。その理由を「飛散した放射性物質のサイズ」と「マスクの目の細かさ」から考えてみます。

放射性ヨウ素やセシウムは原子1コずつバラバラに空中を飛んでいるわけではありません。原子よりも大きい塊、「ちり(エアロゾル)」として飛散します。チェルノブイリ原発の事故の際、日本にも微量の放射性エアロゾルが飛来しました。飛来したヨウ素131のうち、83%が0.0011 mm以下のサイズ(セシウム137の場合は飛来した粒子のうち90%が同様のサイズ以下)でした。

5月31日現在、福島原発の事故で飛散した放射性物質の大きさに関するデータは報告されていないようですが、その多くを0.001 mm以下と仮定した場合、それよりも目の細かいマスクでないと防げないことになります。マスクの目の細かさには以下のような種類があります。



例えば、BFE(バクテリアろ過効率)99.9%のマスクは0.003 mmより大きい粒子を99.9%以上防ぐことができます。しかし、チェルノブイリのデータから考えると、放射性エアロゾルには0.001 mmより小さい粒子も含まれますから、BFE評価のマスクによる防御は期待できそうにありません。

一方、PFE(微粒子ろ過効率)99.9%のマスクを正しくつければ、0.0001 mmより大きい粒子を99.9%以上防げますので、放射性エアロゾルに対しても、ある程度、有効と思われます。

つづいて、掃除機に使われるようなフィルターの種類をご紹介します。



HEPA(ヘパ)フィルターは0.0003 mm以下の粒子を99.97%以上捕集できる性能ですので、放射性エアロゾルの捕集に有効かもしれません。最近の掃除機や空気清浄機の中にはこのフィルターを備えているものもあります。

しかし、そもそも、放射性物質はどれだけ飛散しているのでしょう。降下物の放射能の測定結果から計算してみます。

文部科学省 - 「定時降下物のモニタリング」

例えば、セシウム137が100 MBq(メガベクレル)/km2計測されたとすると、1キロ四方の土地に約0.03 mgのセシウム137が存在することになります。

この濃度の放射性物質を防ぐため、マスクを装着したり、高性能な掃除機を購入したりすべきか、考えてみてください。


追記

例として、東京都産業労働局から発表されている「都内における大気浮遊塵中の核反応生成物の測定結果について」のデータをもちい、放射性エアロゾルを吸入した際に受ける放射線量を計算してみます。

7月24日15時~25日15時に捕集された放射性エアロゾル (単位:Bq/m3、ベクレル/立方メートル)
ヨウ素131 不検出
ヨウ素132 不検出
セシウム134 0.0002
セシウム137 0.0002

受ける放射線量(マイクロシーベルト) = 実効線量係数*×放射性物質濃度(Bq/m3)×呼吸率(m3
* 詳細は放射線医学総合研究所 - 「放射線被ばくに関する基礎知識 第6 報 空気中に存在する放射性物質から受ける放射線量の計算の例」を参照。

の式にしたがって計算すると、

セシウム134 0.039 × 0.0002 × 22.2 = 0.000173 マイクロシーベルト
セシウム137 0.020 × 0.0002 × 22.2 = 0.000089 マイクロシーベルト

したがって、7月26日における空気中の放射性エアロゾルの吸入により、その後にわたって受ける放射線量は、成人の場合で、合計 約0.00026 マイクロシーベルトになります(乳児(3ヶ月)の場合は約0.0001 マイクロシーベルト)。ちなみに、日本人1人が1年間当たりに、空気中の放射性物質(主にラドン)の吸入によって受ける放射線量は400マイクロシーベルトです。


一方、局所的に空間中の放射線量が高い地域、いわゆる、ホットスポットと呼ばれる地域の存在が示唆されています。そのような地域では、降雨、風向き、土地の性状等により、放射性物質が集積している可能性が考えられます。各自治体によって測定・公表されている場所もありますので、お住まいの自治体のウェブページをご確認のうえ、滞在時間から浴びる放射線量を計算し、年間の被ばく放射線量限度である1ミリシーベルト(緊急時は20ミリシーベルト)と比較し、リスクを見積もってみてください。


執筆:科学コミュニケーター 小林直樹

2011/06/01 掲載
2011/07/29 追記

関連リンク

気象庁 気象研究所 地球化学研究部 - 「環境における人工放射能の研究2005 - 2.大気浮遊塵」
東京都産業労働局 - 「都内における大気浮遊塵中の核反応生成物の測定結果について」
放射線医学総合研究所 - 「放射線被ばくに関する基礎知識 第6 報」