放射能と身体

質問: 放射線の被害をなぜはっきりと答えられないの?

放射線の被害は「どこであれば出ない」ということが、なぜはっきりと答えられないのですか。データが足りないのであれば、どのようなデータがあればよいのでしょうか。(20代女性・栃木県)

回答:

「この放射線量ではただちに影響はない」などの曖昧な表現を聞くと、なぜもっとはっきりいえないのかと、もどかしく感じますよね。しかし放射線の身体への影響は、単純ではありません。

まず知っておきたいのは、放射線を浴びた場合に現われる健康への被害は大きく分けて2種類あるということです。ひとつは、細胞死による白内障や白血球の減少などです。これらは、体を形づくる細胞が放射線に当たって死に、生きた細胞がこれを補えなくなったときに現われる症状で、主に早期にみられ、個人差はあるものの健康への影響と放射線量の関係がある程度わかっています。

参照:【Column】細胞を殺してしまう強い放射線

もうひとつは、長期的な影響としてがんや遺伝的な影響です。放射線は、細胞に当たると体の設計図であるDNAの鎖を切る作用を持つため、損傷を受けたDNAが引き金となり白血病やガンの発症に寄与すると考えられています。
ただし、ここで注意したいのは、健康被害が発生する放射線量の「境目」です。細胞死による急性的影響は、この境目が明らかになっていますが、がんなどへの長期的な影響はこの境目がわかっていません。ですから理論的には少ない放射線量の被ばくでも健康にまったく影響がないとは断言できないのです。

しかし広島・長崎の原爆被爆者を対象としたデータから、100ミリシーベルト以上では放射線量に伴った発がんリスクの上昇が認められたが、それより低い線量では認められないことがわかっています。また私たちの体には、DNAが受けた損傷を修復する機構があります。

このように長期にわたる放射線の影響は因果関係を断定することが難しい、また低線量の影響や生体の防御機構を数値的に見積もれない、そして個人差があることなどから、放射線の被害はどうしても「曖昧な」表現になってしまいます。さまざまなデータを自分の目で確認して、判断することも大切ですね。


執筆:科学コミュニケーター 竹下陽子
2011/04/11 掲載