原発の基礎知識

質問: 水がないと核分裂は起こらない?

原子炉は、冷却水が中性子のスピードを遅くしてウランに吸収されやすくすることで、連鎖的な核分裂を可能にしていると聞きました。ならば、水がなければ核分裂は起こらないのではないでしょうか。なぜわざわざ注水するのですか?(40代女性・東京都)

回答:

通常運転時の原子炉では、燃料の周りの水が燃料棒から出てくる中性子を調度よい具合に減速して、ウランの核分裂の連鎖反応を起こりやすくしています。しかし現在の福島原発の燃料棒と燃料棒の間には制御棒が挿入されています。この制御棒は中性子をよく吸収しますので、現時点では、核分裂は完全停止しています。

ではなぜわざわざ水を注入しているかというと、燃料棒を冷却するためです。ウランの核分裂反応は止まっていますが、その反応によって新たに生じたたくさんの放射性物質が崩壊を続けています。崩壊熱は、通常運転時でも、全生成熱量の6~7パーセントにあたり、核分裂を止めても崩壊は止まりません。この崩壊熱だけでも燃料棒を溶かすのに充分な熱量で、溶け落ちた燃料が容器を溶かして穴をあけてしまうこともありますので、冷却を続ける必要があります。
原子炉はなぜ冷やす?

ところで水が周りになければ、本当に核分裂の連鎖反応は起こらないのでしょうか。実はそうとも言い切れません。ウランなどの核燃料は、ある一定の質量と形状を持つと、「再臨界」を起こして核分裂の連鎖反応が始まります。水は中性子とほぼ同じ質量の水素原子(陽子)を含みますので、燃料棒の中性子のエネルギーを取り除きやすい性質を持ちます。しかし、水でなくても中性子のエネルギーを奪うことは可能です。燃料棒が熱で損傷を受けて溶け落ちたときに、燃料棒の中性子が調度良い具合に減速する状態になると、再臨界が起こる可能性があります。

現在福島原発では、燃料棒はかなりの損傷を受けており、一部は溶け落ちていると分析する機関もあります。しかし、損傷を受けてはいるものの冷却が継続されていますので、これからさらに形が変わって再臨界が起こる可能性は大変小さいと考えられています。とはいえ、冷却サイクルが安定していない現在、まだ予断を許さない状況といえます。


執筆:科学コミュニケーター 林田美里
2011/5/13 掲載