原発の基礎知識

質問: 核分裂でできた物質の片割れはどこに?

原子力発電所はウラン235が核分裂したときのエネルギーで発電すると聞いています。原発事故によりヨウ素131やセシウム137が観測されていますが、ウランが分裂してヨウ素とセシウムになったのでしょうか。数字が重さを表わすのですよね?重すぎませんか?(30代男性・東京都)

回答:

するどいですね。おっしゃるとおり、数字が質量数を表わしますので、ウラン235が核分裂してヨウ素131とセシウム137ができるのなら、「131+137=268」ですので、ウランに比べて重すぎます。実は、ウランが核分裂するときのヨウ素の片割れは、セシウムではありません。ヨウ素 131の片割れはイットリウム103という物質で、セシウム137の片割れはルビジウム95という物質です。このように、同じウラン235でも核分裂によって生じる物質はそのつど異なるのです。また、ウラン235は、核分裂するときに中性子1つ(質量数1)を吸収し、分裂時に中性子を複数個出しますので、質量計算するときは中性子の質量数も加味する必要があります。


上図をみながら核分裂後の質量数を計算してみると、左の図では「137+95+1+1+1+1」、右の図では「131+103+1+1」で、いずれもウランの質量数「235+1」と等しくなりますね。

では、もうひとつの疑問、セシウムやヨウ素の片割れはなぜ検出されないのでしょうか。どこへいってしまったのでしょう?

その答えに迫るためには、核分裂によって生じる物質について、もう少し詳しくみてみる必要があります。上図で示したように、ウランは分裂すると2つの「核分裂生成物(放射性物質)」になります。しかし先述したように、いつも同じ物質が生成されるわけではなく、出てくる物質の可能性はなんと1000種以上もあります。また、その物質類は大きく2つのグループに分けることができます。この図をみてください。



横軸は質量数で、放射性物質名の後についている数字のことです。縦軸は、ウランの核が1つ分裂したときにどれくらいの確率でその重さの物質が出てくるかを示しています。核分裂のときは、左の山から1つ、右の山から1つ出てきます。つまり、ヨウ素131は右の山から、その片割れが左の山から出てきます。セシウム137も右の山から、その片割れが左の山から出てきます。

たとえばセシウム137が出てくると、相棒としてルビジウム95も出てきます。では、なぜルビジウム95が検出されないのでしょうか。

それは、ルビジウム95の寿命が非常に短いからです。寿命を示す指標に、「半減期」があります。物質が半分の量に減衰するのにかかる時間のことですが、このルビジウム95の半減期は0.38秒。つまり生成からわずか0.38秒で、すでにルビジウム95の半分がストロンチウム95という別の物質に姿を変えます。さらに、このストロンチウムも半減期が24分ですから、すぐにイットリウム95(半減期10分)になり、次にジルコニウム95になります(下図)。


このジルコニウム95が実は問題です。ジルコニウム95の半減期は64日で、長い間なかなか減ってくれません。ただ、ジルコニウム95は金属なので燃料棒から出にくく、燃料棒がよほどの損傷を受けない限りあまり問題になりません。しかし、チェルノブイリの事故では、燃料棒が火を噴き、事故後約50~100日目に他の物質に比べ多く検出されました。ヨウ素131でも同様です。相棒のイットリウムは、すぐに別の物質に変わっていきます。このように、核分裂生成物質の半減期の多くは1秒以下で、半減期の長い物質に落ち着きます。これが、特定された物質だけが検出される理由です。


執筆:科学コミュニケーター 林田美里
 2011/04/20 掲載


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