原発の基礎知識

原子炉の構造と破られた5重の壁


原子力発電は、核分裂の熱で高温高圧の水蒸気をつくって発電を行ないます。ごく少ないウラン燃料から莫大なエネルギーを取り出せるという特徴がありますが、ウランの核分裂で生まれるさまざまな放射性物質を、密閉空間に安全に閉じこめておくことが常に重要となります。そのためのいろいろな工夫が「5重の壁」とよばれる多重防護構造です。

5重の壁とは?

原子炉内部の構造で、最も内側の第1の壁は「ペレット」。放射性物質のウラン燃料を焼き固めて直径1センチ、高さ1センチほどの円柱状にしたものです。焼き固めることで、放射性物質の飛散を抑えることができます。第2の壁は「被覆管」。多くはジルコニウム合金(ジルカロ イ)でできており、350個ほど積みあげたペレットを、パイプ状に覆っています。ペレットと被覆管を合わせたものが「燃料棒」です。燃料棒を並べて水を入れた容器、これが第3の壁、「原子炉圧力容器」です。燃料棒内の核分裂で生まれる放射性物質、そして核分裂の熱で生まれる温度約280℃、圧力70~80 気圧の水蒸気などを、厚さ約15センチの鉄製の壁で閉じ込めています。5重の壁で最も重要な壁です。

第4の壁は「原子炉格納容器」。基底部には圧力抑制プールがあり、圧力容器内の圧力が高まったときに一部の蒸気を格納容器へ逃がし、それを冷やすことで格納容器内の圧力を下げる役割がありま す。そして第5の壁、最も外側の壁が「原子炉建屋」。厚さ約1メートルの鉄筋コンクリート製の壁で、放射線のアルファ線、ベータ線、ガンマ線の漏れ出しを防ぎます。建屋は、土木、建築、機械、地質、地震学など、幅広い分野 の調査結果にもとづき、周辺地域での大地震や直下型地震に耐えられるよう、一般の建造物と比べてはるかに多くの工夫を取り入れています。具体的には、建屋の設計に揺れや変形の少ないサイコロ型を採用、建屋外壁の鉄筋に通常の建築物の2倍の太さのものを使用、ほかにも計算にもとづく厚さの壁、広く厚い基礎などさまざまな工夫があります。

福島第一原発の5重の壁の損壊状況

現在、福島第一原発の1、2、3号機では、原子炉建屋の外にある水たまりから高濃度の放射性物質がみつかっています。冷却機能が止まって、圧力容器内が空だき状態になり、ペレットと被覆管が溶けた可能性と、冷却水が漏れ出た可能性があるとされています。2号機については、圧力抑制プールの一部が損傷し、放射性物質を含んだプール内の水が漏れ出した可能性が指摘されています。1、3、4号機の建屋が水素爆発によって崩壊しました。水蒸気と被覆管のジルコニウム合金の熱化学反応で水が分解して、多量の水素ガスが発生したためです。水素は、圧力容器内だけでなく、使用済み燃料プールからも発生したと考えられています。

福島第一原発の事故では、放射性物質を5重の壁で防ぐことができませんでした。その損壊は最も内部のペレットにもおよんでしまいました。今後、原子炉全体をどのようなシステムにしていくか、新たな課題がつきつけられています。

なお、これまでの事故の経緯は【Visual】原発事故ログ にまとめられています。


執筆:科学コミュニケーター 豊田倫子
2011/04/05 掲載