メディアラボ第17期展示「数理の国の錯視研究所」[2016年11月17日(木)~2017年5月15日(月)公開]
2016年11月17日(木)~2017年5月15日(月)の期間、メディアラボ第17期展示「数理の国の錯視研究所」を公開します。 本展示では、実際とは異なって見える目の錯覚、すなわち「錯視」を取りあげます。錯視は、だれもが経験のあるなじみ深いものですが、錯視が起こる仕組みについて、科学的な解明は十分にされているとはいえません。 本展示では、数学を使って「錯視」の研究に取り組んでいる二人の研究者、新井仁之氏(東京大学)と杉原厚吉氏(明治大学)がそれぞれ異なるアプローチで制作した錯視作品、計18点を展示します。また、これらの研究成果をどのように実社会に役立てていくことができるのか、展示を通して紹介します。
概要
名称 メディアラボ第17期展示「数理の国の錯視研究所」 会期 2016年11月17日(木)~2017年5月15日(月) 場所 日本科学未来館 3階 常設展「未来をつくる」内 主催 日本科学未来館 出展者 新井仁之氏(東京大学大学院数理科学研究科 教授) 杉原厚吉氏(明治大学先端数理科学インスティテュート 特任教授)(※五十音順) ※本展示は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」研究領域により得られた成果をもとにしています。
本展示について
見えるはずのない模様が見える、あるはずの物が消える――。 メディアラボ第17期展示「数理の国の錯視研究所」では、こうした不条理で奇妙な錯視の世界を、数学を使って解明しようとしている研究者、新井仁之氏と杉原厚吉氏の作品を18点紹介します。「目でものを見る」とはどういうことなのか、人の目をあざむく錯視を、数学という道具で解明する研究のおもしろさを、実際の作品を見て感じてください。あなたの目の前で展開される不条理な錯視の世界に驚き、数学によって設計された様々な錯視作品を楽しんでいただけることでしょう。 新井仁之氏の作品は、静止画が動いて見えたり、画像を見る距離を変えることによって違う絵が見えてきたりするなど、錯視を平面上に表現した11点です。新井氏は、新しい数学理論を生み出し、脳内の神経細胞による情報処理の数理モデルの研究を行っています。目から入った情報が脳でどのように処理されるかを数学的にとらえ、神経細胞が行っている処理に近い計算をコンピューターで行います。この数理モデルを使えば、錯視を強めたり取り除いたりすることや、好きな画像から錯視を作ること、さらに人の視覚機能の一部を特化させた画像処理を行うことも可能になりました。 杉原厚吉氏の作品は、画家エッシャーの版画にあるような、現実の世界では不可能と思われる現象を立体作品として実現させた7点です。形の情報が光に乗って目に届くまでの仕組みを、幾何学という数理的構造を手がかりにすることによって、錯視の謎に迫ります。今回展示される立体作品は、ある視点から見える平面の画像情報から元の立体を復元する方程式を作り、解を求めることで実現したものです。視点を変えて作品を見ると、あり得ないはずの立体や動きが見えてきます。 これらの研究成果によって得られた錯視をコントロールする技術は、例えば、車の運転中に起きる目の錯覚を弱めて交通事故の軽減を図ったり、さまざまな画像処理技術に応用したりするなど、実社会への活用が期待されています。 今回展示する作品は「数理モデル」を使って制作されたものです。数理モデルとは、現実世界の現象や仕組みを数式で記述したもので、数理モデルを利用すれば、錯視を作り出したり見え方をコントロールしたりすることが可能になります。 ※数理とは、ものごとを解明したり、ものを作ったりするために数学を用いること。このような方法をとる研究分野の名称の接頭語として「数理**学」のように用いられることが多い。
出展者および展示作品紹介
〔プロフィール〕 新井 仁之(あらい・ひとし) 数学者。理学博士。東京大学大学院数理科学研究科 教授。 1984年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。86年 東北大学理学部助手、その後、プリンストン大学数学科客員研究員、東北大学理学部助教授などを経て、96年に東北大学大学院理学研究科教授。99年より現職、現在に至る。主な受賞歴:97年に日本の数学界の最高賞である日本数学会賞春季賞、08年に文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)。 「文字が動いて見える浮遊錯視」 画像を左右にゆっくり動かすと、文字が上下に動いて見えます。

制作:新井仁之氏、新井しのぶ氏
「文字列傾斜錯視のソフトウェア」 文字列が斜めに傾いているように見えますが、実際は平行に配列されています。この作品は、文字が傾斜して見える錯視を自動生成するソフトウェアです。実際に自分の好きな文字をタイプして文字列傾斜錯視を作成する体験ができます。

制作:新井仁之氏、新井しのぶ氏
作品リスト: 計11点 ●グラフィック作品 7点 静止画が動いて見える浮遊錯視や、フラクタル螺旋錯視などのグラフィック作品 ●スーパーハイブリッド画像などのプロジェクション作品 1点 「遠くから見たとき」、「比較的近くから見たとき」、「近くから見たとき」で異なった画像に見える作品などの映像 ●文字列傾斜錯視のソフトウェア作品 1点 ●錯視研究の画像処理技術への応用例 2点 〔プロフィール〕 杉原 厚吉(すぎはら・こうきち) 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授 1973年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年、通商産業省電子技術総合研究所研究官。80年工学博士。81年名古屋大学大学院工学研究科助教授。91年東京大学工学部教授、2001年同大学大学院情報理工学系研究科教授。09年4月より現職。ベスト錯覚コンテスト優勝2回(2010年、2013年)、準優勝2回(2015年、2016年)。 「変身立体 ガレージ屋根」 見る位置によって、立体の形が全く違って見える作品。手前と奥のガレージは同一の立体ですが、鏡を通して見ると、奥に映ったガレージの屋根はへこんで見えます。

制作: 杉原厚吉氏
「歪んだ窓空間を通る棒」 二つの窓を同時に棒が貫通している作品です。柱の両側に出っ張っている二つの窓を、棒が通っている「不可能モーション」の錯視を映像で紹介します。

制作: 杉原厚吉氏
作品リスト: 計7点 ●「不可能モーション」の映像作品 1点 斜面に玉を転がしたり、窓に棒を貫通させたりすると、不可能な動きが見えてくる錯視の立体を映像で紹介。 ●「鏡と競演する不可能立体」作品 5点 鏡に映すと形が変わったように見える立体作品。「変身立体」は姿が激変するもの、「透身立体」は一部が消えるもの、「トポロジー攪乱立体」はつながり方が変わるもので、これらの実物を展示。 ●「なんでも反発すべり台」立体作品 1点 斜面をボールが逆に上っていくように見える立体作品。 ※画面の見え方によっては錯視が再現できない場合があります。実際の展示をご覧ください。
メディアラボについて
常設展「メディアラボ」は、定期的な展示更新を行いながら、先端情報技術による表現の可能性を紹介し、新しい世界観の提示を行っていくスペースです。