研究者インタビュー: 北海道大学 三上直之さん | 世界市民会議 World Wide Views ~生物多様性を考える

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世界市民会議 World Wide Views

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未来館の視点

[1] なぜ今、市民会議なのか
研究者インタビュー: 北海道大学 三上直之さん
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世界市民会議World Wide Views(WWViews)という新しい取り組みを、科学技術政策や市民会議の手法を研究する専門家は、どのように見ているのでしょうか。WWViews日本大会の実施協力者の一人で、科学技術コミュニケーションや社会学を専門とする三上直之さん(北海道大学高等教育推進機構 准教授/JST科学コミュニケーションセンター フェロー)にお話をうかがいました。

(聞き手: 日本科学未来館 科学コミュニケーター 黒川紘美)
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―WWViewsの特徴は、地球規模の課題について、世界中でごく普通の人たちが集まり、世界同日に同じフォーマットで議論をするところにあります。世界規模でこういった市民会議を実施する試みは今のところWWViewsの他にはなく、各国の参加者を合わせると数千人規模という、参加人数の多さでも他に類を見ないものです。三上さんはこの会議の特徴や意義をどうご覧になっていますか?

interview2.jpg「"ふつうの"市民」「複雑で難しい課題」「世界統一の形式」という三つがWWViewsの大きな特徴で、このような取り組みを通して、グローバルな課題について世界的な市民参加の場をつくることが目標になっています。ただ、2009年に初めてWWViewsをやってみてわかったのですが※1、この三つを同時に成立させるというのがとても難しい。今回2回目となりますが、もしかすると、「やっぱり難しかった」ということにしかならないかもしれません。

ただ、これまでにも市民参加の取り組みはいろいろありましたが、結局は一つの国の中でのものでした。市民参加のあり方は政治的な文脈によって規定される部分があるので、国によっても違うし、時代によっても変わってくる。
WWViewsのように、同じフォーマットのものを多国間で行うことによって様々な政治的文脈の中でどういう市民参加の形があるのか、未来のための想像力を鍛えることができると思っています。
一回や二回やっただけで全て問題が解決するとか、理想的なやり方が生まれるといったものではないので、今後もしばらくは、試行錯誤を続ける必要があると思います。

―たしかに、国や国際的な政策に私たちの意見が反映されたら嬉しいですし、一般の人の中には政治家や専門家にはない知識や経験を持っている人もいるかもしれません。ただ、知識のない市民が考えるより、政策担当者や専門家が議論し、結論を出した方がよいという意見もあります。

生物多様性の問題も、地球温暖化への対策も、エネルギーの選択も、専門家に完全に委ね、彼らの決めたことに従うというやり方で、仮に私たちがそろって納得できるなら、それも悪くはないでしょう。でも、現代社会において、そんなことが本当にありえるでしょうか。政策担当者や専門家は貴重な知識をもっていますし、それはどんどん活用すべきだと思います。ですが、それらだけで広く納得の得られる決定ができるという発想には、私はまったく現実味がないと思っています。

現代社会で物事を決めるには、何らかの形で「民意を反映する」ことが欠かせない。やっかいなのは、「民意」というのは、どこかにはっきり目に見える形で転がっているわけではないことです。選挙や世論調査の結果は、一つの目安にはなるし、実際に大きな力を持つわけですが、それだけでは十分ではないという意識が広がっています。WWViewsのような方法も、何ら完璧な方法ではなく、一つの試行にすぎませんが、一般の人びとの話し合いや熟慮を通して民意を可視化するという点で大きな可能性を持っていると思うのです。

―また、同じ市民の中でもNGOやNPOとして活動し、政策決定に対し意見をしている方々もおられますが、それとの違いは何があるのでしょうか。

NGOはNGOで、担っている公共性があります。社会的にある種の明確な立場やミッションがあり、そこからくる主張を国際交渉のアジェンダに載せるという、重要な使命・役割があります。WWViewsのミソは、そういう回路ではなかなか表現されないような、いわゆる"ふつうの市民の声"を国際的な舞台に導入することになりますので、役割は違う。

誰でもすべてのことについてアンテナを張っていられるわけではありません。そして、NPOやNGOはそれぞれ専門性を持っていますので、彼らの主張(意見)には当然ある種の視野の限定性も生じます。だからこそ、そこに直接関わっていない市民とは距離が生まれるのだと思います。

ただ、いわゆる"ふつうの人"が議論をする場合、通常、ほとんど何も知らない状態から始めなければなりません。そこで、ある程度コンパクトに情報を得ることができる土台のようなものが必要となりますから、WWViewsのような取り組みの中で、手法をいろいろと工夫する意味がでてくると思います。

―2009年の時のWWViews参加者のコメントとして、「たくさんの人の異なる意見を聞き、見聞の広がりや深まりを感じた」という声があったのが非常に印象的でした。私たちは普段の生活のなかで、身近でない人たちと話し合いをすることなど滅多にありません。市民の一人として、普段は出会えないような人たちと向き合い、真剣に議論するということにも、大きな意味があるように思います。

まったくその通りです。そもそも、民主主義の中で意思決定の質を高めるためには熟議が必要だと言われてきました。実際、社会の中で私たちが連帯して問題に当たっていく際に、さまざまな人が集まって議論するのはとても重要なことです。市民自らが話し合いの中で新しい発見や学習をしたり、すばらしい体験をしたりする。このような、対話によって生まれるものがもっと日常的に語られていくといいでしょうし、アカデミックにも、もっと議論されていくべきだと思います。

―今までそのようなことはあまり研究されてこなかったのでしょうか。

必ずしも十分ではないと感じています。最近、WWViewsとは別のプロジェクトで、市民活動における言葉や話し合いの中から「市民の日本語」のあり方を見出そうという研究会に参加しています。ひつじ書房代表の松本功さんの呼びかけで始められたもので、メンバーは、民俗学者、言語学者、NPO論の研究者、そして科学技術コミュニケーションと社会学の私の4名です。例えば言語学の分野では、日常生活の中での話し合いの分析が行われているようなのですが、そういう研究と、科学技術コミュニケーションの分野で私たちが取り組んでいる市民参加手法の研究との間に交流はほとんどありません。話し合いや市民の日本語について考えるこの試みは、今年始まったばかり試みですが、こうした学際的研究も通じて、公共的な話し合いの場で生まれるものについて考えていけたらと思っています。

―市民の声を実質的に政策に反映させるようなことは、今後できるようになるのでしょうか。

interview1.jpg日本だと1億人以上の多様な市民がいて、政治家、政策担当者、専門家、産業界など、多様なステイクホルダーがいる中で、問題は複雑なループのようになっていると思います。その中で、私たちは、市民の声を可視化する方法を研究しています。
可視化した市民の声をどう生かすかとなると、それは国として社会的な意思決定手段をどうするかという問題に帰着します。それは政治の問題もあるので、最終的に決めるのは国民とはいえ、簡単ではないと思います。3、4年でできるということはない。話し合いを通じて可視化される「民意」を、社会的な意思決定につなげていく仕組みをどう作っていくかも、継続的に議論していく必要があると思います。
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集団の中で物事を決める時、まず結論を一つに決めてしまってその他を排除、もしくは説得していく方法もありますが、一方で、対立するもの同士でもなんとか話し合って折り合いをつけていく方法もあります。学生の自主性を重んじる校風のなかで過ごした高校時代、行事を行う際にせっかくなら皆が納得できる方法で実行したいと思い頑張っていた……そんな体験が、今の仕事に根っこの部分で繋がっていると話す三上さん。

集団に属する人、一人ひとりが自分の存在意義を感じ、納得して「自ら選択できた」と言える状況であること。それは、政策という大きな枠だけでなく、家庭、学校、会社、地域、国など、人の集団それぞれについて言える、ある種の理想型なのでしょう。しかし、集団の規模が大きくなればなるほど、個々の存在は小さくなり、意思決定への関わりも薄くならざるを得ません。また、人間が一人で考えられる範囲も限られるため、それぞれの集団の特質に合わせた何らかのシステムを構築する必要も出てきます。

WWViewsは今回で2回目の開催です。前回は、気候変動枠組み条約第15回締約国会議に向けて世界市民の意見提示が試みられましたが、結果として、国際会議の場や政策担当者たちの意思決定にどれほど影響があったかは定かではありません。社会と私たち双方にとって、これからの課題であり、挑戦であるといえるでしょう。もしかすると、やはり何もできない、という結論もあるのかもしれません。

皆さんは、このような市民会議の意味を、どのように考えられるでしょうか。将来、社会のシステムはどのようになればよいと思いますか?

※1 三上さんは、2009年に開催された第1回目のWWViewsの実行委員も務めた

三上直之
北海道大学高等教育機能開発総合センター 准教授
1973年 千葉県野田市生まれ、1996年 東京大学文学部社会学専修課程卒業、出版社勤務を経て、東京大学大学院で環境社会学を学ぶ。博士(環境学)。2005年から北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任助教授(2007年特任准教授)、2008年から現職。専門分野は社会学、科学技術コミュニケーション。


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