World Wide Viewsが生まれたワケ | 世界市民会議 World Wide Views ~生物多様性を考える

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未来館の視点

[1] なぜ今、市民会議なのか
World Wide Viewsが生まれたワケ
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日本では現在、今後のエネルギー政策をめぐって各地でデモ活動が行われるなど、たくさんの人たちが政治に対して声を上げています。政策決定の中心になるのは多くの場合、専門家や政治家です。しかし、その決定プロセスに私たち市民の声も反映させるべきではないかという考えから、政策への市民参加を目指したさまざまな取り組みが行われています。
では、これらの取り組みはどのように生まれてきたのでしょうか? また、なぜ専門家でない一般の人の声を政策に反映させる必要があるのでしょう? この記事では市民参加の生まれた背景や意義を解説し、そのうえで、世界規模の市民会議「World Wide Views」の位置づけを紹介します。

(文: 日本科学未来館 科学コミュニケーター 佐尾賢太郎)
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1. 市民参加の取り組みはどのように生まれてきたか?
政策決定に私たちの声を反映させようという取り組みには、数十年に渡る長い歴史があります。そしてその背景には主に2つの起源があります。

① 科学技術の市民による評価

1つ目の起源は、1960年代のアメリカにあります。アメリカでは当時、科学技術の進歩と歩調を合わせるように、公害や環境破壊などの問題が深刻化していました。そこで1970年代に、科学技術が生み出す危険性にも着目し、その技術が社会にもたらす影響を評価して国の政策に反映させる取り組みが始まります。それがテクノロジー・アセスメント(Technology Assessment: TA)です。この時点では科学技術の評価者は専門家が中心でしたが、この取り組みがヨーロッパで広がるなかで、評価は市民も担うべきなのではないかという考えがデンマークで生まれます。こうして誕生したのが、市民が直接的に評価に参加するTAです。これは参加型TA(Paticipatory TA: pTA)と呼ばれ、1990年代以降、ヨーロッパ各国へと広がりました*1

pTAのさきがけとなったデンマークでは、市民参加型会議によってまとめられた意見を国会は最大限尊重しなければならないとことが法律で定められています*2。日本では制度化はされていないものの、1990年代後半から遺伝子組換え農作物や情報化社会などをテーマに、pTAが実施されています*3。pTAでは公募、あるいは無作為抽出により選ばれた市民の代表者が一日~数日かけて議論を行います*1

では、そもそもなぜ科学技術の評価に私たち市民が参加する必要があるのでしょう? 科学のなかにはたとえば低線量被ばくの影響など、検証がとても難しく、科学的知見が確立されていないものが多く存在します。また脳死・臓器移植、遺伝子操作、生殖医療などは倫理の問題もはらみ、科学だけでは結論を出すことができません。さらにどのような科学技術研究を優先して進めていくべきかなどは、私たちの価値判断が関係してきます。そこでさまざまな立場の人たちが話し合うことで、専門家や政治家だけでは気づきにくい観点が入り、より良い意思決定ができると考えられるのです。

また、一般的な理論、普遍的な知識の対義語としてローカルナレッジ(local knowledge)と呼ばれるものがあります。これは現場にいることで培った経験や実感から主張される“現場の勘"のようなものですが、場合によっては理論的な知識よりも、このような経験に裏打ちされる知恵が有効である場合があります*4。科学技術の評価のプロセスに専門家でない人たちが参加することで、このような知識を拾い上げることも期待されています。

② 間接民主主義の補完

2つ目は、間接民主主義の機能を補完する必要性に端を発しています。現在、日本を含む多くの国が間接民主主義の制度を取り入れています。ここでは選挙で信任を得て選ばれた代議員が政策立案を行うことで、私たち市民の声は形式上、政治に反映されていることになっています。しかし、一般の人たちの意見や要望とはかけ離れた決定が数多く存在するのも事実です。現代は人々の価値観の多様化が進み、間接民主主義では必ずしも人々の意見を代表できないといわれています*2。そこで間接民主主義を補完するために、私たち市民は代議員の選出にのみに関わるのではなく、もっと直接的に政策決定に関与していくことが必要ではないかという動きが生まれています。

このような市民参加の取り組みにはパブリックコメントのように、政策立案の際に私たちの意見が参照されるものから、直接投票のように、最終的な決定権を市民が握っているものまでさまざまな種類があります。この中には現在、日本でエネルギー政策の選択に関して行われている「討論型世論調査」や「意見聴取会」も含まれます。

2000年代後半から日本で盛んに行われるようになってきたものとしては、市民討議会があります。これは無作為抽出された参加者が小グループに分かれ、メンバーを入れ変えながら討議し、最終的な討議結果を「市民提案」として実施委託者に提出するものです。2005年から試行的に実施されたこの取り組みは、2007年ごろから全国の市町村レベルで急速に普及し、2011年2月末の段階ではこれを模したものも含めると、全国でのべ150回以上開催されています(図1: NPO法人市民討議会推進ネットワーク調べ*5)。また、話し合われるテーマも環境、条例づくり、まちづくり、公共施設、インフラ整備など多岐に渡っています*6

図1: 市民討議会の開催年と実施数
図1: 市民討議会の開催年と実施数

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2. World Wide Viewsの位置づけ
市民参加の取り組みは以上の2つの流れのなかで、多種多様なテーマについて実施されています。また開催の規模も、地域レベルの条例への反映などを目指したものから、国レベルの政策への反映などを目指したものまで、さまざまです。しかし、現代社会には地球温暖化、食料問題、感染症など、国内では解決できない、地球規模での取り組みを必要とする課題(地球規模課題)があります。このような問題の解決のためには、国際社会での議論やルール設定が必要であり、すでに国連を中心とした国際的な話し合いの場が存在するものもあります。では、このよう国際的な政策決定に市民の声を入れることは可能なのでしょうか?

2009年、地球規模課題についての国際政策決定の場に世界中の人々の声を反映させようという新しい市民参加の取り組みが、世界で初めてpTAを実施したデンマーク技術委員会(Danish Board of Technology: DBT)の呼びかけで始まりました。それが世界市民会議
World Wide Viewsです。World Wide Viewsの大きな特徴の1つは、文化や言語、教育背景、経済規模が異なる国々が世界同日に共通の会議を行う点です。会議の進め方だけでなく、話し合うテーマや設問、参加者に提供される情報資料に至るまですべて共通のものを用い、最終的に各国から出てきたそれぞれの結果を等しく尊重し、国際的な取り決めの話し合いに利用することを目的としています。

また、World Wide Viewsは規模の点でも特徴的です。2009年に開催された第一回大会では、世界38カ国・44の地域から4000人以上の人たちが参加して地球温暖化について議論し、国連の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)への会議結果の提出が試みられました。このような規模の市民参加の取り組みは過去に類を見ません*7

表1 地域、国内、世界レベルでの市民参加の取り組み
表1 地域、国内、世界レベルでの市民参加の取り組み



これまで見てきたように、市民参加の取り組みは数十年の歴史のなかで変化していきました。そして現在、市町村レベルから世界規模の取り組みまで行われるようになり(表1)、市民参加の流れはより一層加速していくことが予想されます。よりよい未来像とは、このような市民参加で生まれる多様な意見のぶつかりあいから、描きだされていくのではないでしょうか。


文献
*1 若松征男『科学技術政策に市民の声をどう届けるか』東京電機大学出版局、2010
*2 森本誠一「熟議民主主義としての市民参加型会議――日本における現状と展望」待兼山論叢、44,39-54,2010
*3 小林傳司『トランス・サイエンスの時代――科学技術と社会をつなぐ』NTT出版、2007
*4 藤垣裕子・廣野喜幸『科学コミュニケーション論』東京大学出版会、2008
*5 市民討議会推進ネットワーク(http://cdpn.jp/)
*6 篠原一『討議デモクラシーの挑戦――ミニ・パプリクスが拓く新しい政治』岩波書店、2012
*7 八木絵香「グローバルな市民参加型テクノロジーアセスメントの可能性~地球温暖化に関する世界市民会議(World Wide Views)を事例として~」科学技術コミュニケーション 7,3-18,2010

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