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1|「規制値はどう決められたか~リスクの捉え方と評価~」
山本茂貴
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(YouTube 0:12:33~0:35:10)

閾値のあるリスク・ないリスク

放射性物質の規制値を決めるのは初めての試みなので、どのように考えていくべきか、なかなかわかりにくいと思います。食品中に含まれている危害物質、つまり私たちの健康に危害を起こすような物質には、化学的なものとして農薬や動物用医薬品などがありますが、生物学的なものとしては病原細菌、病原ウイルス、寄生虫などがあります。今回の場合は新たに物理的なものとして、放射性物質を考えなければいけなくなったわけです。
食のリスクというのは、食事とともに摂取する危害物質によってどの程度の頻度、つまり何人のうちの何人が病気になるか、それから、どの程度の症状がでるか、この2つのかけ算によって決まります。この場合、「この値を超えると病気がでるが、これ以下だと大丈夫」という「閾値」があるかないかによって、また考え方が変わります。化学物質でも、動物実験などで、ある量以下はまったく作用がでないという値があります。このような閾値をもっているものの場合は普通、その値に安全係数として、例えば100分の1や、もう少し危ないものでは500分の1をかけます。このようにして基準値を考えていく。そうすると、この基準値以下のものであればずっと食べ続けても安全ということになります。

閾値のあるリスク・ないリスク


しかし、遺伝発がん物質や病原微生物については閾値がない、つまり、どんなに少ない量でも、発病するリスクはゼロではありません。ただしそのリスクは、日本国民全体で発病する人が非常に少なく、1人以下かもしれない。その場合の基準値はどうするかが問題です。
現実に病気が発生している場合、例えば病原体で食中毒が起こっているなら、食べるときに病原体の数を何個以下に抑えればいいかという考え方をとります。放射性物質については、明らかな作用が出る量というのはある程度はわかっています。ところが、それ以下のものについては、化学物質と同じでゼロになってしまうのか、それとも、遺伝発癌発がん物質のようにずーっと下がっていっても最小濃度で一回起こるのか……確率的なことを考えなければいけなくなるので、非常に考え方が難しくなります。
今回の改正では、年間1ミリシーベルトという値をとっているんですが、この値は「ここから上が危なくて、ここから下は大丈夫」という線引きの値ではなくて、コントロールしていくために「これを目安とする」という値だということをご承知おきください。今までの化学物質のときとは考え方が違うんです。

規制値はかなり厳しく設定された

昨年の原発事故の後、厚生労働省は暫定基準値を3月17日につくっています。その後、食品安全委員会に諮問をかけました。暫定基準は諮問なしにつくることができるんですが、正規の基準値はそういうリスクを評価してもらったうえでつくることになっています。

このような問題に関しては、リスクを管理する機関と評価する機関と2つあり、厚生労働省はリスクを管理する機関、内閣府の食品安全委員会は評価する機関です。厚生労働省から諮問をして、リスクを評価する機関である内閣府の食品安全委員会が評価するわけです。それで、科学的な根拠をもって厚生労働省に返ってきたものを、厚生労働省が費用対効果、国民の感情、それから技術的な可能性、政策的なことを考えながら、最後の規制値を決めていきます。


放射性物質に関する評価とリスク管理の取組

放射性物質に関する評価とリスク管理の取組


今回の流れでいきますと、ICRPという国際的な放射性の規制を考える機関が設定した実効線量10ミリシーベルト/年ということ値から、セシウムは5ミリシーベルト/年とし、安全側に立ったものであるという考え方を食品安全委員会のほうでは示していました。つまり今回の暫定基準でも、かなり低い値でつくっていることにはなると思います。それをずっと維持することを決めていったわけですが、10月27日に最終的な結果が返ってきました。それが、放射線における影響が見いだされるのは、生涯における追加線量が100ミリシーベルを超えた場合というものです。
私たちの身の回りには自然放射能というものが常に存在していますけれども、その自然放射能によって日常受けている被曝量に加えて、生涯でおよそ100ミリシーベル以上の追加被曝によって有意な健康影響が現れると。それから、小児の期間については感受性が成人より高い可能性があるので気をつけなければならないということです。
一方、100ミリシーベルト未満の健康影響について言及することは困難、つまりわからないと判断されました。ある値を超えたときには影響が出るが、それ以下の場合はすべてゼロなのか、あるいはずーっとリニアに落ちていくのか、あまりデータがないのでわからないということです。ここでもおよそ100ミリシーベルトをどう考えるかですが、これは安全と危険の境界という意味で使っているわけではなく、目安のようなものです。
そしてそれを受けて基準値を考えるわけですが、暫定的には5ミリシーベルト/年だったものから、今回は1ミリシーベルト/年で規制することになりました。この値は、コーデックスという食品の国際規格を考えている委員会が、年間1ミリシーベルトを超えないように設定するという勧告を出していることから決めたものです。これは世界的に見ても相当、厳しい値になるとは思います。

年齢と食品による違い

 次に考えなければならないのは、どの食品に適用するかです。基本的に考えていたのは、一般食品すべて同じ値でいくということでした。ただ、飲料水と乳児用食品、牛乳は別に考えるという話になっています。まず水の場合、0.1ミリシーベルト/年と、かなり厳しい値になっています。これはWHOが推奨していること、摂取量が多いこと、それ以外のものに代えることができないことから設定したものです。それで、1ミリシーベルトからこの0.1を引いた残りが、一般食品から受けてもよい被曝線量ということになります。規制値としては、食品中の放射能の値、1kg中に何ベクレル存在しているかで示す必要がありますが、その値は年間の食料摂取量に応じて変わってきます。年齢別・男女別で異なる食料摂取量に応じて汚染限度値がどう違うかを示したのが下の表です。

「一般食品」の基準値の考え方

すると13歳から18歳の男の人の限度値が一番低くなるんですね。この値に抑えておかないと、年間1ミリシーベルトを超えてしまう。なぜならこの年齢の男の人は米をものすごく食べるんです。それで低く抑えられているわけです。
一方、1歳未満の限度値がかなり高くなっています。これは、この年齢では摂取する食品の大部分が乳幼児用のミルクになりますが、摂取量は多くありません。したがって年間で同じ1ミリシーベルト以下に抑えようとするとき、乳幼児の摂取する食品中の放射能限度値は、相対的には逆に高くなるわけです。

汚染率の仮定

それからもう一つ考慮すべきなのは、食品のうち何パーセントが汚染して流通しているかを示した汚染率です。全部の食品が汚染されていることはあり得ません。普通ヨーロッパでは10パーセントと考えます。アメリカは30パーセント。日本は50パーセントの汚染率を仮定しました。最も汚染の高い場所のことを考えてこれを設定したということです。また、特別に小児がたくさん飲む牛乳や乳児用食品といわれている、1歳未満が食べるものは、さらに安全を見て100パーセント汚染されていると仮定して規制をします。つまり規制値としては半分にするということです。
このようにして、もしも最大限汚染されたものを食べ続けたらどうなるのかを、年齢と男女ごとにわけて、年間の被ばく線量で表したのが下のグラフです。すると、やはり13〜18歳の男子が一番高くて、0.78ミリシーベルトですが、年間1ミリは超えません。1歳未満の乳児については、0.3を超えないぐらいの値になります。

基準値の食品を一定の割合で接種した場合の被ばく線量


以上で私からの情報提供は終わります。実際に食品をどういう体制で検査しているかについては、検査体制を築かれた厚生労働省の方からお話をいただきたいと思います。

山本茂貴
山本茂貴
国立医薬品食品衛生研究所 衛生管理部部長
1954年生まれ。専門は食品の微生物学的リスク分析。BSEや食中毒などに対応して食品に潜むさまざまなリスク分析と安全対策づくりに取り組む。福島第一原発事故後の食品中の放射能基準値づくりを担当している。

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YouTube: イベント記録映像(2時間24分)


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