03 01 01 特別レポート  日本の自然エネルギー導入拡大の鍵を握るものとは? | 未来設計会議

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あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 震災以降、社会に生まれた科学者への不満や期待と、科学者の側の切実な思いとをぶつけ合い、議論しました。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。
(このサイトでは、当日の講演とディスカッションをダイジェストでまとめています。イベント全編はYouTubeでご覧ください。)

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日本の自然エネルギー拡大の鍵を握るものとは?
池辺 靖(日本科学未来館 科学コミュニケーション専門主任)
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2011年8月26日。管直人政権のもとで揺れる政局のなかで、再生可能エネルギー特別措置法が国会で可決成立しました。将来の日本のエネルギー戦略の全体像についてはまだ議論の途上にありますが、化石燃料の枯渇と温暖化リスク、原子力エネルギーに関わる諸問題を抱えるなか、自然エネルギー(再生可能エネルギー)の普及拡大へ国が本格的に動き出しました。
自然エネルギーの導入拡大は、世界的な動きです。風力や太陽光発電といった自然エネルギーによる発電量の推移(図1)を見てみると、世界全体でその導入量が毎年倍増する勢いであることがわかります。また同分野への投資額も2010年には全世界で20兆円に達し(図2)、農業革命・産業革命・IT革命に次ぐ第4の革命と称されることもあるほどに巨大なトレンドとなっています。国別でみると、2010年には中国が風力エネルギーによる発電設備容量で世界第一位となりました(REN21, Renewables 2011, Global Status Report)。中国は石炭火力をはじめ化石燃料の消費量も世界一で、2006年からずっと二酸化炭素排出量の最も多い国であることはよく知られていますが、実は同時に自然エネルギー大国にもなっていたのです。

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図1各国の風力発電設備の累積導入量の
推移(出典: 環境エネルギー政策研究所)

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図2 再生可能エネルギーへの投資額の推移
(出展: Global Trends in Renewable Energy Investment 2011,
UNEP and Bloomberg New Energy FinanceのFIGURE1を改変)


これらの国々が自然エネルギー導入量を大幅に増やすことができた理由の一つが、「固定価格買取制度」という法律の整備です。この制度が国の法律として導入されたのは1990年のドイツが最初です。その後1992年にデンマーク、1994年にスペイン、そして中国でも2005年に導入され、いずれの国でも自然エネルギー導入量の拡大に大きく寄与していることが図1のグラフからもわかります。
この固定価格買取制度のもと、これからの日本で自然エネルギーの普及を推進しながら、より盤石な社会システムを構築するためにはどんな方策を立て、またどんな課題を解決する必要があるのでしょうか。このことを話し合うために、2011年9月13、14日に日本科学未来館にて「自然エネルギー専門家会議」が開催されました。このレポートでは、その会議でかわされた議論を中心に、自然エネルギー普及に向けた、国、経済界、地方自治体、科学者、そして市民、それぞれの役割を意識しながら、未来ビジョンを考察していきたいと思います。


1 | 固定価格買取制度とは?
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現在の発電の主役は火力です。石炭石油、天然ガスといった化石燃料を燃やすことによって発電機を回して発電していますが、安価で大量に手に入る燃料と、細かく発電量を調整できるシステムによって、安定して電力を供給することができています。一方、自然エネルギーは小水力発電や地熱発電では安定した供給が可能ですが、風力発電や太陽光発電の発電量は天候に左右されるかたちになります。また同じ電力を生み出すにも、火力に比べるとより多くの費用がかかります。このような不利な条件にあるものの、温暖化対策やエネルギーの安全保障などの観点から、多大なメリットが認められる自然エネルギー。その割合を増やすために、「法律」という制度の力で自然エネルギーが競争力をもてるようにしようと制定されたのが、「固定価格買取制度」なのです。
法律の中味を簡単にご紹介しましょう(制度の概要は資源エネルギー庁のウェブサイトhttp://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/index.htmlを参照)。まずこの法律の柱となるのは、「電力会社は自然エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を利用して発電した電力を購入する義務がある」という点です。全体の仕組みは図3のようなものです。通常、電力会社は自社で発電した電気を配電するだけですが、他の発電事業者が発電した電気も同じ電線にのせて他の電気と一緒に利用者へ送ることができます。この法律は、再生可能エネルギーでつくった電気を売りたい業者がいた場合には、電力会社はその電気をすべて購入しなければならないというものです。
そしてこの法律でもう一つ大事な点は、電力会社が自然エネルギー発電業者から購入する電気の価格をあらかじめ決めておき、同じ価格での購入を一定期間保障するというものです。固定価格と購入期間は、再生可能エネルギー発電事業がビジネスとして成り立つように、つまり儲けがそれなりに出るように設定し、多くの事業参入者が現れることをねらいとしているのです。

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図3 電力会社と自然エネルギー発電業者との関係


一方、電力会社から見ると、自社による発電コストに比べて値段の高い電力を、自然エネルギー発電業者からわざわざ購入しなければならないことになります。しかし、そこで余計にかかった費用については、サーチャージというかたちで電力利用者に負担してもらうということも法律で明記されています。すなわち、自然エネルギーの割合が増えて電気の調達コストが上がった分だけ、電気料金に上乗せして回収することが認められているのです。
以上をまとめると、「再生可能エネルギー特別措置法」は次の3点を骨子としています

①電力会社には、自然エネルギーによってつくられた電力を購入して電線に乗せる義務がある。
②事業者は、自然エネルギーによってつくられた電力を、一定期間固定価格で販売できる。
③電力利用者が、自然エネルギーの割合が増えてコストアップした分の費用を負担する。

さてこの法律によって、自然エネルギーの発電量が国全体として増えていくことが期待されているわけですが、いつまでにどの程度増やすことができればよいのか、国としての具体的な目標が示されていないことが課題の一つです。ヨーロッパ諸国では具体的な数値目標が掲げられており(Renewables Global Status Report, 2011, REN21)、エネルギー最終消費量に占める自然エネルギーの割合をドイツでは2020年までに18%、スペインでは20%、フィンランドでは38%にするとしています。スウェーデンでは2020年までに50%と掲げていた目標を、2010年に達成してしまいました。そして原発大国フランスですら、2020年までに23%という目標を掲げています。
また、この制度の成功の鍵を握るのは、電力の買取価格と期間にあると考えられます。8月26日に成立した再生可能エネルギー特別措置法には具体的な数字は入っていません。この法律の施行は2012年7月1日からですが、それまでの間に、調達価格等算定委員会という第三者委員会を招集し、そこでの議論を踏まえて最終的に経済産業大臣が買取価格と期間を決定することになっています。同委員会は2012年の年明けから議論を開始することになっているようですが、その議論の行方を注視していきましょう。


2 | 自然エネルギー普及のためのテクノロジーline_4_558.jpg

自然エネルギー導入にあたって、その電力供給における不安定さは常に議論になってきました。人々が使う電力量は1日のうちの時間帯ごとに、また季節によっても大きく変化していますが、電気を送る側の電力会社は、使用される電力量に見合う出力ができるよう、そのつど細かく調整して発電しています。余った電気を溜める仕組みはほとんどなく、発電量と消費量とは常に一致するように調整する必要があります。その細かい出力調整を担っているのが、火力や水力といった発電方法です。一方、自然エネルギーによる発電の多くはお天気任せ。風力発電では風が吹いたり止んだりと発電出力の変動が大きいため、あまり多くの風力発電を系統電源につなげると、火力や水力による出力調整も追いつかなくなり、電力の需給バランスが崩れて大規模停電の恐れがあるとされてきました。
このような自然エネルギーの欠点を補うための一つの方法は、風力発電所などそれぞれの発電サイトに蓄電池を導入することです。大きな変動を蓄電池からの出し入れで吸収することによって、系統電線への出力としては滑らかで小さな変動しか生じていないような状態にしておくことができます。しかし蓄電池設備は高コストで、あらゆる風力発電所に蓄電池を導入するのはあまり現実的ではありません。
しかし現実には、ドイツやスペイン(図4)は、蓄電池設備なしで全電力の2割近くを賄うほど大きな風力導入量を誇っています。特にスペインでは、瞬間的には風力による電力が最大で53%を占めることもあります(2010年11月9日の記録)。このようなことを可能にしている秘密の一つは、たくさんの風車を統合すると、一基ごとの変動が相殺し、トータルの発電量の変動は小さなものになるところにあります。この「平滑化効果」は、日本の東北地方の風力発電においてもはっきり見えています(図5)。個々の風車の出力は大きく変動していても、12基の出力すべてを統合すると、その変動は著しく小さくなることが見てとれます。もう一つの秘密は、風力による発電量の予測技術です。石原孟氏(東京大学)によると、スペインでは全国の風況データを収集しつつ、風力発電量を誤差5%以内で予測することに成功しているといいます。その予測データにもとづいて、需要に合わせた発電を火力発電と水力発電の調整によって実現しています。

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図4 スペインにおける1週間分の電源別電力供給量推移の例
(出典: Red Electrica de Espana, Integration of Large scale wind in the grid
– The Spanish Experience, 2008)

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図5 東北地方の風力発電機12基の出力変動とそれらの合計(赤線)例
(出典: 斉藤哲夫氏、日本風力発電協会)


石原孟氏はまた、スペイン国内と東日本(東京電力および東北電力管内をあわせた地域)の状況が極めて似通っていることを指摘しています。それぞれの総電力容量はほぼ同じで、かつ外の電力系統との電力のやりとりも、ともにほとんどありません。東日本においても、風況モニタリングと風力発電量予測を行えば、従来のグリッドシステムのままで風力発電を全電力の20%程度まで導入することが可能としています。
しかし将来に向かって、自然エネルギーの割合をさらに増やしていくためには、新しい設備が必要になってくるでしょう。
一つには日本全土を大容量電線でつなぐ新しい電力網の整備です。自然エネルギーのポテンシャルには地域差があります。風力発電に適した場所は、北海道、東北、九州に多くあります。しかし現在の電線は、全国10地域に分割されていて、異なる電力会社間ではごく限られた量の電力しかやりとりできないのが現状です。しかも、東日本と西日本とでそれぞれ50Hzと60Hzという異なる周波数の交流が用いられていることも、大きな電力のやりとりを困難にしています。そこで高圧直流送電線を用いて日本全土をつなぐ、スーパーグリッドという新しい送電システムのアイディアがあります(図6)。従来の交流ではなく直流で送電することによって、東西の周波数差の障壁をなくすとともに、長距離輸送のロスも抑えられると考えられています。ヨーロッパでは国家間の長距離送電に、この高圧直流送電線がすでに利用され始めています(図7)。

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図6 日本におけるスーパーグリッド構想の例(孫正義氏による)

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図7 ヨーロッパにおける高圧直流送電線網。赤: 2011年4月時点で運用中。
緑: 建設中。水色: 計画中。(出典: The Guardian 2011 April 11, UK)


自然エネルギーの割合を増やすために将来的に必要なものとして、もう一つ、電力ストックがあります。自然エネルギーによる発電出力の変動、および需要側の変動に対応するためには、火力など発電量を細かく調整できる発電方法と組み合わせるというのが従来の方法です。しかし出力調整できない自然エネルギーのみで、変動する需要に対応するには、自然エネルギーによって発電された電気を溜めておく分散型のストックを設けて、そこから電気を出し入れするしかないでしょう。
たとえば清水浩氏(慶応大学)は、そのようなストックとして、電気自動車に大きなポテンシャルがあると指摘しています。日本では年間1兆kWh、一日あたりでは3億kWhの電力が使われていますが、日本中の自動車をすべて電気自動車に置き換えたとすると、そのバッテリーに蓄えられる電力は最大20億kWh(25kWh x 7800万台)にもおよぶのです。
電気自動車や他のあらゆる小規模蓄電設備が電力系統と結びつき、太陽電池や風車、そして家庭やオフィス、工場といった電力の需要サイトと発電サイトすべてを情報通信網でも結びつけ、賢く電力を融通し合う、そのようなまったく新しいエネルギーシステムの研究も進められています(図8、図9)。

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図8 スマートグリッド概念図(経済産業省)

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図9 阿部力也氏(東京大学)による、デジタルグリッドという
新しい電力システムの概念


3 | 再生可能エネルギー普及の主役は地域社会
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太陽光や風はもちろんどこにでもあるのですが、強い風が吹く地域や、晴天率が高い地域など、再生可能エネルギーの生産地として有望な地域は、全国各地に分散して存在しています。これまでの取り組みにより国内57町村ではすでに、その地区で消費するエネルギー量以上の自然エネルギーを生産しています(図10)。

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図10 再生可能エネルギー自給率全国マップ(千葉大学倉坂研
室+環境エネルギー政策研究室):2009年時点での全国各地の
再生可能エネルギー生産量を、その地区で使用されているエネルギー
量で割った値で表したもの。57町村で自然エネルギーによるエネルギ
ー自給が100%を超えている(図出典はナショナルジオグラフィック特別
編集版「見てわかる再生可能エネルギー」)。



固定価格買取制度の施行に伴い、新たな風車や太陽電池パネルの設置が各地域で加速していくことが期待されますが、その開発を進めていく際に重要なこととして指摘されているのが、地域社会が主役となって開発をしていくことです。
福島第一原発の事故が明らかにしたのは、放射能汚染という社会的に許容しきれないリスクの存在です。地方交付金というかたちで、間接的に原発立地地域には富が分配されていましたが、結果的にその富を上回る大きな犠牲を払うことになってしまいました。たとえば丸山康司氏(名古屋大学)が指摘しているように、自然エネルギーによる発電所立地に関しても、地域住民がそのリスクを十分に理解したうえで、住民の支持するかたちでエネルギー開発がなされること、そしてエネルギー生産によって生み出された富が直接住民に還元されることが、社会的な便益の分配的正義にもとづく考え方だと思われます。一つの望ましいかたちとして、「市民風車」というしくみがあります。市民風車とは一般市民が出資した資金で風車の建設・運営を行い、電力会社への買電による収益を出資者に配当するしくみです。デンマーク、ドイツで導入され、固定価格買取制度のもと、自然エネルギーを普及させる仕組みとしてうまく機能してきました。特にデンマークでは、風車の所有者を風車立地地域の住民に限るとともに、出資金の上限を設けるなど、風車所有に関して法による規制を行い(2000年には規制解除)、地域住民そして地域共同体で風車を所有するかたちを実現させました(『北欧のエネルギー・デモクラシー』(新評論)飯田哲也, 2000)。
日本の個人資産は1500兆円、国家のGDP500兆円の3倍あり、その半分は銀行などに預けられていると言われています。河口真理子氏(大和総研)は、これら眠っている個人資産の運用を個々人が考えて行うことが、社会を方向づける巨大な力となるはずだと指摘しています。日本の市民風車は2011年11月現在、北海道と東北地方を中心に全12基建設されていますが(http://www.greenfund.jp/)、地域住民だけでなく全国の個人からの出資が集まっています。資金運用としての出資先の一つという意味だけではなく、個人がエネルギー生産という活動に参加できるといった、まったく新しい市民活動であるところに大きな意味があるのではないでしょうか。

(2011年12月)


本稿は自然エネルギー専門家会議2011における議論を参考にしています。自然エネルギー専門家会議の様子はビデオアーカイブ(http://jref.or.jp/action/event_20110913-14.html)より見ることができます。

ikebeyasushi.jpg池辺靖
1966年生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究課物理学専攻修了後、理化学研究所、ドイツマックスプランク研究所、米NASA/ゴダード宇宙航空センターを経て、2004年より未来館勤務。

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