メディアラボ第20期展示「『生命』になりたい! ブルックスのジュースを探して」

常設展示「メディアラボ」は、先端情報技術による表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していくスペースです。

第20期においては、人工物にみられる生命的な現象を検証し、生命とは何かを探究する「人工生命」という研究分野をご紹介します。人工生命を研究する中で、生命と非生命の間に「半生命」という存在を考えました。半生命は、自分の意志で動いているように見えたり、複雑すぎて先が予想できない動きをします。頑張って生命になろうとしているようにも見えるのですが、しかしながら、いまだ生命になったものはいません。
半生命を生命に変える最後の一滴を、ルンバの開発者R.ブルックスはジュースに例えました。それが「ブルックスのジュース」です。このジュースを探しもとめるのが人工生命の研究です。
本展示では、半生命を表現した4点のアート作品を紹介します。みなさんも自分の目や耳や足で、何がブルックスのジュースになるのか探してみませんか。


監修者インタビュー

『マリア、人工生命、膜、魚』(2018)出展者:池上高志+植田工

展示空間を母胎になぞらえて、生命とは何か、生命はいかにして生まれるか、あるいは生まれないかを問いかけます。
吊り下げられた7つの作品は、生命をつくりだす可能性を示す、いわば7つの物語です。歴史的な実験にもとづくものや、日常の中に生命的な現象を見つけたものなど。でも、いまだにこれらは「半生命」のままで、生命ではありません。そこで生命を生み出す象徴として、マリアが登場します。創造の物語はまだまだ続きます。

『Astral Body』(2018)出展者:plus one

身近に生きる生き物たちには、姿・形など、私たちの目にみえる身体があります。一方、直接目には見えなくても、痕跡や音からその身体性を思い描くこともあるでしょう。
この作品は、「気配の有無」に生命性の本質があるという仮説を立てて、生命の抜け殻と影が動いた痕跡から現れる生命感を表現しています。生命性が身体ではない何かに宿るものだとしたら、生命のとらえ方はより自由になるかもしれません。

『Moment of Perception - 認知の瞬間』(2018)出展者:anima

何かを失って初めてその大切さに気づく、という経験をした人は多いかもしれません。あなたは、見えているものが一瞬にして消える様を目撃することでしょう。ふと気になって注視して、思い入れがわいてきて、近づいたとたんにパラパラと砕け散ってゆく。私たちは、目の前で動く奇妙で無機質な物質が消えたとき、その余韻に生命性を感じるのでしょうか。

『未確認音源生物』(2018)出展者:未確認音源生物対策室

キッチンのシンクに、熱いお湯を注いだとき「ボコンッ」という音を聞いたことがある人は多いと思います。さて、この特別対策室においては、この音を「未確認音源生物」と定義します。これは日常生活に散らばる音から、生命の気配を「想像」する作品です。 耳をすませば他にも、「ブーン」「プハー」「バキッ」。いろんな音が聞こえてきます。特別対策室を訪れる人はみな、音から発想する豊かな種の広がりを存分に想像し、表現してみてください。


公開時期 2018年6月20日(水)― 2018年10月31日(水)
監修者
  • 池上高志(いけがみ・たかし)

    東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻・広域システム系教授
    1989年東京大学大学院理学系研究科(物理学)博士課程終了(理学博士)。京都大学基礎物理学研究所・PostDoc、神戸大学自然科学研究科・助教を経て、2008年より現職。