メディアラボ第17期展示「数理の国の錯視研究所」

常設展示「メディアラボ」は、先端情報技術による表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していくスペースです。

数理の国へようこそ。ここでは、数学者たちが発見した新しい定理や理論を使い、さまざまな自然現象や社会現象を解明しながら、現実の世界に役立てていく試みが行われています。ここに紹介するのは、数理モデリングという手法を用いて、視覚が起こす錯覚、すなわち「錯視」の研究を進める2人の研究者です。
線や形が実際に描かれたとおりに見えない。見えるはずのない模様が見える。こうした不条理で奇妙な錯視の世界に、彼らはどのように立ち向かってゆくのでしょうか。


出展者インタビュー(新井 仁之)

出展者インタビュー(杉原 厚吉)

錯視アート作品(新井仁之、新井しのぶ)

視覚の研究をするために新しい高度な数学をつくり、それを応用することで、錯視現象のメカニズムを解明していく。これにより、さらに一歩進んで、錯視をコントロールしたり、好きな画像を錯視画像に変換したりすることもできるようになりました。

文字列傾斜錯視のソフトウェア(新井仁之、新井しのぶ)

2005年ごろに日本のインターネット掲示板などで、傾いて見える文字列を見つける遊びが流行りました。新井・新井はこれを「文字列傾斜錯視」と名付け、その研究を行いました。脳内の視覚情報処理の数理モデルをつくって、文字列傾斜錯視が脳内でどのように処理されるのかを探り、文字列傾斜錯視を自動生成するソフトウェアを開発しました。

鏡と競演する不可能立体(杉原厚吉)

鏡に映すとあり得ないことが起っているように見える「不可能立体」を集めました。これらは、鏡に映すと姿が激変する「変身立体」、鏡に映すと一部が消える「透身立体」、鏡に映すとつながり方が変わる「トポロジー攪乱立体」の3種類に分類できます。

なんでも反発すべり台(杉原厚吉)

特定の視点から片方の目だけで見ると、中央が最も低く見えるのに、斜面に置いた玉が、重力に逆らって外へ飛び出してしまうという「不可能モーション」錯視が生じます。これは、真上から見ると、斜面が直角に交わっていると思い込むために起こる錯視です。


公開時期 2016年11月17日(木)― 2017年5月15日(月)
出展者
  • 新井 仁之(あらい・ひとし)

    数学者 理学博士
    東京大学大学院数理科学研究科 教授
    1984 年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。86 年 東北大学理学部助手、その後、プリンストン大学数学科客員研究員、東北大学理学部助教授などを経て、96 年に東北大学大学院理学研究科教授。99 年より現職、現在に至る。
    主な受賞歴:97 年に日本の数学界の最高賞である日本数学会賞春季賞、08 年に文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)。

  • 杉原 厚吉(すぎはら・こうきち)

    工学博士
    明治大学 先端数理科学インスティテュート 特任教授
    1973 年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年、通商産業省電子技術総合研究所研究官。81 年名古屋大学大学院工学研究科助教授。91 年東京大学工学部教授、2001 年同大学大学院情報理工学系研究科教授。09 年より現職、現在に至る。
    主な受賞歴:ベスト錯覚コンテスト優勝2 回(2010 年、2013 年)、準優勝2 回(2015 年、2016 年)。