メディアラボ第8期展示「見えない庭」

常設展示「メディアラボ」は、年3回程度の展示更新を行いながら先端情報技術やそれらを利用した表現の可能性を紹介していく展示空間です。第8期展示では、物理学を学んだ後、メディアアートの分野に転進した異色の作家、児玉幸子氏の作品を展示します。 作品の中心にあるのは、米国航空宇宙局(NASA)で発明された素材である「磁性流体」(磁場に反応する液体)と「光」。電磁波や赤外線など、目には見えない力を操ることで生み出された作品群により、庭園のような華やかな空間を演出します。


出展者インタビュー

作品解説

モルフォタワー/二つの立てる渦(2010)

大きな池の中に大小2つの螺旋の塔が並んでいる。周囲に音楽が流れ出すと、それに合わせて黒い流体が動き始める。ある時は塔を黒い棘で覆いつくし蠢き、ある時は池に波紋を浮かべる。音と流体の調和に空からの光(LEDスポットライト)も加わり、作品を取り巻く1つの世界が展開されていく。 本作品では、楽曲に合わせた光と流体の動きがメタデータとして予め設定されているため、正確に同期させる事ができる。

プラネットシリーズ(2010–2011)

磁性流体を使う作品では、流体独特の光を反射する質感や動きの表現を強調する。しかし、時に流体が跳ねたり飛び散ったりしてしまう事がある。作品ではオブジェのように液体をガラスで包みこ込む事で、閉じた惑星の中に流動する世界を出現させた。 アメリカのガラス作家ジョシュ・シンプソンの作品に影響を受け、2009年にエヴァン・ドグリス教授との議論の中で着想し、2010年から制作を開始した作品である。

モルフォタワー(2006–present)

螺旋の刻まれた塔に磁場がかかると、周囲の磁性流体が小さな棘となり螺旋を登り始める。細やかに蠢く棘が柱を包み込むと、まるで塔が生きているかのように見える。磁力が弱くなると棘は降り始めるが、徐々に形がた保てなくなり流れ落ちていく。 「モルフォ」はギリシア語で「かたち」を意味する。本作品は形とテクスチャが変化する塔という意味で名づけた。流体が生きているかのように塔を登っていく様は、幻のような光景である。

ダイナミック・ライト・ウォール(2009-2010)

鱗状の紋様を持った壁の表面には、色彩に富んだ光の変化が映し出されている。これはLEDによる表面の反射光である。光源は見えず、しかし光は艶やかに変化を続けている。間接照明による包み込むような優しさのある光を感じる事のできる作品を目指している。 本作品は児玉がアメリカ滞在中に制作を開始したインスタレーションである。

『跳ね星』ボールプロジェクト(2009-2010)

『跳ね星』は内部のセンサーによりボールの状態を感知し、また赤外線カメラとの組み合わせで位置を検知する。これらの情報と競技場のグラフィックを同期させることで、動きによって変化するデジタルなボール遊びを実現する。 『跳ね星』ボールは電気通信大学 児玉研究室で、歴代の学生達とともに2007年より進めているプロジェクトである。無線モジュール、赤外線・フルカラーLED、加速度センサーなどを組み込んだボール『跳ね星』の開発と、それを用いたダイナミック・プレイフィールドの提案に取り組んでいる。

プロジェクトアーカイブ

磁性流体のアートプロジェクトでは実物の作品だけでなく、写真、映像を発表してきており、写真、映像はさまざまな、媒体に掲載されてきました。ここでは、プロジェクトの中で作られた映像作品やプロトタイプを展示します。また、『跳ね星』ボールプロジェクトの開発を記録した映像、児玉研究室の学生たちの活動も紹介します。


 

本展 を開催するにあたり、日本科学未来館および下記の皆様に多大なるご支援、ご助力いただきました。厚くお礼申し上げます。(敬称略)/科学技術振興機構(JST)/電気通信大学/原島 博(CREST 研究総括、東京大学名誉教授)/岩田 洋夫(CREST「デバイスアートにおける表現系科学技術の創生」/リーダー、筑波大学教授)/稲見 昌彦(慶應義塾大学教授)
[制作協力]/電気通信大学/児玉幸子研究室メンバー、卒業生、スタッフ/小池 英樹 教授/佐藤 俊樹/間宮 暖子/電気通信大学技術部/宮島 靖(株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所)/高田 洋三/日高 哲英/佐藤 芽実/松尾 徳久/小倉 一平/テクノ手芸部/タケノセラミックラボ/調布グラススタジオ/Evan Douglis Studio/David Mans
[協力]株式会社 フェローテック


公開時期 2010年12月1日(水)~2011年3月21日(月・祝)
出展者 児玉 幸子
アーティスト、電気通信大学准教授 物理学科を卒業後、筑波大学で芸術を学ぶ。博士(芸術学)。2000年から赴任した電気通信大学を拠点に、磁性流体のアートプロジェクト「突き出す、流れる」を開始。2008年には、マドリッドのソフィア王妃芸術センター「機械と心」展 で、2メートルの巨大電磁石による荘厳な作品を制作した。2009年、文化庁新進芸術家海外研修制度によりニューヨーク滞在。デジタルメディアと新素材を有機的に結びつけることによるダイナミックに変容する造形、インスタレーション、映像作品を発表している。
児玉幸子氏WEBサイト