メディアラボ第6期展示「ジキルとハイドのインタフェース」

常設展示「メディアラボ」は、先端情報技術による表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していくスペースです。第6期となる今回は、稲見昌彦氏(慶應義塾大学大学院 教授)の作品群を展示します。 コンピュータの世界と現実世界とをつなぐ稲見氏の作品は、テクノロジーの進歩によって失われつつある人間らしさを取り戻す試みともいえるでしょう。


出展者インタビュー

作品解説

オーギュメンテッド・コロシアム(2005)

映像でロボットを計る
オーギュメンテッド・コロシアムは、現実世界(=ロボット)と情報世界(=CG:コンピュータ・グラフィックス)が融合したゲーム環境です。 プロジェクタやディスプレイなどの画像提示装置で目印になる画像(指標画像)を投影し、ロボットの位置や向きを計ったり、動かしたりすることが可能です。これをディスプレイ・ベースド・コンピューティングと呼びます。この作品では、プロジェクタで空間へ指標画像を投影してロボットの位置や向きを計測し、実環境のロボットへの映像修飾を行います。
[共同制作者]小島 稔,中村 享大,冨田 正浩,加護谷 譲二,新居 英明,杉本 麻樹
[展示協力]Charith Fernando,杉浦 裕太

ビュー・ビュー・View (SIGGRAPH2007版) (2007)

息づかいを届ける
「風の便り」という言葉がありますが、風が実際に何かを知らせてくれるわけではありません。でもビュー・ビュー・Viewを使えば、遠くの相手に対して、自分の息づかいを風に乗せて伝えることができます。 距離を置いて対面した、片方のモニターに向かって息や団扇などで風を送ると、相手側のモニターから風が再現されます。皮膚感覚を共有することで、あなたの気持ちまで届けることができるでしょうか。
[共同制作者]澤田 枝里香,淡路 達人,森下 圭介,古川 正紘,有賀 友恒,木村 秀俊,藤井 智子,武市 隆太,清水 紀芳,井田 信也,常盤 拓司,杉本 麻樹

リラティブ・モーション・レーシング(2000)

映像でロボットを動かす
リラティブ・モーション・レーシングは、ディスプレイ・ベースド・コンピューティングの考え方を取り入れ、ロボットの制御を行う作品です。車型ロボットは道路の上の指標画像を読み取って、自身がその上に乗るようにして走行します。 このようにロボットの動きをアニメーションだけで制御できるため、ロボットとアニメ、あるいは音楽を組み合わせた作品を、簡単に作ることができます。
[共同制作者]冨田 正浩,永谷 直久,杉本 麻樹
[展示協力]藤枝 元幸,追田 進太郎,池田 盛陽,村上 祐一,畑 元

光学迷彩 (Version 2.0)(1998)

透明人間あらわる
姿見に写った自分自身が、透明人間になって見えます。光学迷彩は、特殊な「隠れみの」をまとうことで、物体を光学的にカモフラージュする技術です。本作品はアニメ作品「攻殻機動隊」に登場する「熱光学迷彩」にヒントを得て作られました。 迷彩したい物体の背後の映像をプロジェクタで投影すると、再帰性反射材(光が入射した方向にそのまま反射する素材)が塗られた部分が、あたかも透けたように見えるのです。
[共同制作者]松田 啓明,池田 盛陽,畑 元,小泉 直也,常盤 拓司,川上 直樹,柳田 康幸,前田 太郎,舘 暲

ストップ・モーション・ゴーグル(2008)

時間よ止まれ
時間を止めて、静止した世界を見てみたいと思いませんか。かつて、ボールが止まって見えると語ったプロ野球選手がいましたが、きっと並外れた動体視力が備わっていたことでしょう。 動体視力を鍛えなくても、私たちにはストップ・モーション・ゴーグルがあります。内蔵したシャッターが高速に開閉することで、高速で動作する物体であっても、その動きによる網膜像のズレが抑えられ、形状がはっきりと見えるようになります。
[共同制作者]永谷 直久,Fabian Foo,古川 正紘,常盤 拓司,杉本 麻樹

毛ディスプレイ(2009)

毛で会話する
猫は敵を威嚇するときに、毛を逆立てて感情表現をします。人間は体毛で覆われていないのでそうしたことはできませんが、鳥肌はその名残だと言われています。人間が進化の過程で失ったもののひとつなのかも知れません。 毛ディスプレイは、ふさふさした柔らかいものを使って、情報の伝達を試みた作品です。人の手が近づいた瞬間に毛を逆立てたり、毛並みを移動したりします。人間は体毛の代わりに、毛ディスプレイを使えばいいのです。
[共同制作者]上間 裕二,古川 正紘,大越 淳史,常盤 拓司,杉本 麻樹

SUI:ストローライク・ユーザ・インタフェース(2005)

世界を吸いつくせ
シェイクにストローを突き刺します。思い切り吸い上げても思いのほか上がってこない、あの、「あれ?」という感覚、経験したことがある人はすぐに思い出せるでしょう。コーラはすっと入って来ますね。爽快です。では納豆はどうでしょう。カレーライスは? SUIは「おいしさ」にとって重要な「食感」、中でも吸飲感覚を再現します。食べ物が体内に入る様を、バーチャルに体験することができます。
[共同制作者]橋本 悠希,大瀧 順一朗,小島 稔,永谷 直久,三谷 知靖,宮島 悟,山本 暁夫
[展示協力]藤枝 元幸、羽木 希昭、松田 啓明


公開時期 2010年3月17日(水)~2010年6月14日(月)
出展者 稲見 昌彦
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授 1999年東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了。博士(工学) 東京大学助手,科学技術振興機構さきがけ研究者,マサチューセッツ工科大学コンピュータ科学・人工知能研究所客員科学者,電気通信大学教授などを経て,2008年4月より現職。 拡張現実感システム,触覚インタフェースなど,五感に関わる新規ユーザインタフェースを多数開発。 科学技術振興機構ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクトグループリーダー,日本バーチャルリアリティ学会理事,情報処理学会エンタテイメントコンピューティング研究会主査,コンピュータエンターテインメント協会理事等を務める。 IEEE Virtual Reality Best Paper Award,米「TIME」誌Coolest Inventions,文化庁メディア芸術祭優秀賞など各賞受賞。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 稲見研究室WEBサイト