メディアラボ第3期展示「博士の異常な創作」

常設展示「メディアラボ」は、先端情報技術やそれらを利用した表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していく展示空間です。第3期となる今回は、視覚だけではなく、触覚や力覚、歩行・移動感覚などの身体感覚をバーチャルリアリティ技術で呈示し、人間の認識や存在を問いかける作品群を展示します。一見「異常な創作」とも映るこれらの作品は、先端情報技術による新しい表現領域を切り開く野心的な試みです。


出展者インタビュー

作品解説

ロボットタイル(2004)

バーチャル空間を歩く
ロボットタイルは、バーチャル空間を自分の足で歩いて移動するための装置です。歩行者の足元にだけ床を提供し、足の動きと逆方向にスライドするので、同じ位置にいながら無限に歩き続けることができます。
コンピュータRPGや「セカンドライフ」などのバーチャル空間を歩くとき、私たちはマウスやゲームコントローラを使います。指先だけでは「歩いている」という実感が湧いてきませんが、これなら十分にその感覚を得られます。

フローティングアイ(2001)

眼が宙をさまよう
フローティングアイは、「自分の眼が体を離れて宙を舞う」という、非日常的な体験を私たちにもたらします。球面ディスプレイの中に入ると、あなたの視点は飛行船に乗り移り、自分を見下ろします。
糸を引いて飛行船を操り、ドームスクリーンと一緒に歩き回れば、頭上の微妙な空気の流れを体感できるはずです。この不思議な感覚は、自分の身体の存在について新たな認識をもたらすでしょう。

メディアビークル(2009)

バーチャル空間を駈ける
メディアビークルは、実世界とバーチャル世界を自由に動き回るための乗り物です。これに乗ると、だれかの手の上でもてあそばれるような感覚を体験できます。
カメラやセンサーからのデータを安全運転に活かすなど、自動車の進化は情報化に向かっています。一方で、バーチャル世界でのできごとを疑似体験できるマシンが登場し始めています。バーチャル世界での移動感覚を、よりリアルに体感しようとすれば、両者は合体するはずです。

ハプティックユニット(2009)

映像に触れる
ハプティックユニットは、バーチャルな物体の硬さや重さを人工的に合成し提示する、という基本動作を体験するための装置です。
突起部分に指を入れると、下部のモニターに投影される映像に合わせて、流体からの抵抗や物体の弾性を感じることができます。映像に触って、手応えを感じることができる。その研究の出発点を表現した作品です。

アノマロカリス(1998)

古代生物をなでる
古代生物アノマロカリスは、カンブリア紀に絶滅した……はずなのに、今ここで、手のひらで触れることができます。それを可能にしたのが「FEELEX」。スクリーンの下に動作装置をアレイ状に配置し、個別に上下運動を制御することにより、バーチャル物体の映像に凸凹面や硬さを与えます。
まさに時空を越えたバーチャルリアリティ。でもいたずらしすぎると、怒っていなくなってしまうので、ご注意を。

ジャイロマスター(2005)

見えない力に導かれる
装置が空中にあるのに、手がどこかに引かれるような感じがする。ジャイロマスターはそんな不思議な力を作りだします。
バーチャルな「手応え」を感じさせる方法はたくさんありますが、装置を持ち運ぶとなると、従来とは異なる動作原理が求められます。ジャイロモーメントを使う方法はそのひとつです。携帯あるいは体に装着して、誘導したり動作を教示したりすることを目指しています。


[技術協力]矢野博明(筑波大学大学院 システム情報工 学研究科 准教授)
[制作協力]筑波大学 バーチャルリアリティ研究室…棚橋新七(フローティングアイ)真中勇太、館山真悟(ロボットタイル)根岸敦彦(ハプティックユニット)佐藤亮太(アノマロカリス)田村学司(ジャイロマスター)小林洋平、稲葉智明、出口朗大(メディアビークル)


公開時期 2009年1月21日(水)~2009年5月11日(月)
出展者 岩田洋夫
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授 1957年生まれ、東京都出身。1981年東京大学工学部機械工学科卒業、1986年東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)、同年筑波大学構造工学系助手を経て、現在に至る。 バーチャルリアリティ、特にハプティック・インタフェース、ロコモーション・インタフェース、没入ディスプレイの研究に従事。SIGGRAPHのEmerging Technologiesに1994年より14年間続けて入選。Prix Ars Electronica 1996と2001においてインタラクティブアート部門honorary mentions受賞。第5回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。
筑波大学大学院システム情報工学研究科 バーチャルリアリティ研究室WEBサイト