火星を地球のように人が住める星にしようという研究(テラフォーミング,Terraforming)をご紹介します。
 



テラフォーミングという言葉は、SF作家のジャック・ウィリアムソンによって生み出された造語です。
「テラ」はラテン語で「土地・地球」、「フォーミング」は「創る」という意味があります。それを合わせると「地球を創る」ということを意味し、実際には惑星の環境を地球と同様に居住可能な環境に改造すること、または、その為の技術のことをいいます。


【テラフォーミング計画】
巨大反射鏡ソレッタを火星-太陽間の宇宙空間の第一ラグランジュ点付近に設置し、火星の日射量を30%増加させ、火星全体を温める計画があります(Paul,1992)。
地下核爆弾を使用した炭酸塩堆積物の液化によって二酸化炭素をとりだして大気を作り、氷を溶かし海を作ろうという計画案もありますが放射性物質の危険性や反対意見も多いようです。さらには、炭酸塩が他の種類の岩石と混じりあい、分散した形で存在するとすれば、核掘削という方法で地殻から多量の大気成分を取り出すことはできなくなります(Fogg,1992)。
隕石や彗星を火星に大量にぶつけて揮発性物質を得ようという研究では、半径1kmの彗星100万個で1気圧の大気が作り出せるといわれています。また揮発性物質をシャトルにようなもので運ぶという案もある。1気圧の大気をつくるのに10万トンの揮発性物質が必要です。シャトルは地球の低軌道に40トンまで物質を運べ、またもっとも運搬力のあるものでも140トンまで運べますが、かなりの回数宇宙区間を往復する必要があるため、あまり現実的ではありません。嫌気性微生物や植物だけなら10hPa以下でも生息可能ですが(McKay,1991)。
火星の極冠に黒色の塵をまくか、表層の下の黒い層を露出させることでアルベドを減らすか、暗色に近い針葉樹林を植え、日射吸収量を増加させようという計画(Sagan,1973)があります。しかし、人工的に作り出したダストが風によって吹き飛ばされてしまうことや、火星上に針葉樹林を植えて生育させることもまだ不可能です。
フロンのような人工温室効果ガスを火星の大気中に持ち込むという研究(Lovelock,1989)。火星大気の100万分の0.06〜1(0.06〜1ppm)のフロンを加えると温度が最大40℃上昇するという計算もありますが、火星のような紫外線が透過している大気中では、フロンはわずか数日で破壊されてしまいます(Fogg,1992)。
 
これらのテラフォーミング計画はいずれも何百年という歳月を要するもので、倫理的、宗教的にも問題があるようで危険も伴っています。テラフォーミングを支持する研究者は、Biosphere2の失敗から実験施設規模で閉鎖生態系を成り立たせることが困難であるため、地球規模の大きさが必要であると指摘しています。しかし、その点に関してどれ程大きい必要があるのかは明らかにされていません。
一方で、惑星規模でないサイズの研究もあり、次に紹介します。

【パラテラフォーミング計画】
火星の一部を天蓋で覆うパラテラフォーミング計画
パラテラフォーミングは、リチャード・テイラーの造語で、火星表面をケーブルで固定した高さ1kmの温室構造で次第に覆っていくというものです。
火星の極地方と高い山頂以外を天蓋で覆うというワールドハウスの研究(Taylor,1992)があり、その為の超高層建築物の強度や張力に関する研究も進められています。
<超高層ビルとは、法規では60m以上だが、一般には100m以上のビルに対してつけられた名称です。理論的には500m以上のビルの建築も可能です。理由は、現在建築に用いられている鉄骨の自重に耐えられる限界が500mだからです。金属材料研究所では、平成10年にすでに従来の2倍の強度の高強度鋼の開発に成功しています。従って、これを用いることで、単純に1000m以上の超高層ビルの建築が地球上でも可能になるのです。また現在は地震や風による建物の振動を制御するための装置や建築構造の研究も十分されています。>
巨大な天蓋をつくるための高層建造物の技術研究
現在、地球上で最も高い建造物は452mにも達しています。火星は表面重力が小さいことから背の高い建造物に使用されているコンクリートの圧縮強度が地球上の半分で良いことや、高張力材料ならば地球における場合の約2.5倍の質量を支えることができるといいます。
<参考:クアラルンプールのPetronas Towers(452m), シカゴのSears Tower (442m), 上海のJin Mao Building (421m), ニューヨークのEmpire State Building(381m), 日本の横浜のランドマークタワー(296m)>


ランドマークタワー
(C)三菱地所
日本の大林組の火星基地は太陽フレアーからの強い紫外線を避けるため、地下構造になっており天蓋に人工太陽を取り付けることをはじめ、太陽光、風力の両者をエネルギー源としています。
  http://www.landmark.ne.jp/tower.html
そのために、さらにこんな研究があります。

【閉鎖環境の研究】
NASAのCELSS(Controlled Ecological Life Support Systems)計画
CELSSとは火星探査に人間が参加できるようにするため、NASAが開発した「管理生態系生命維持システム」のことです。具体的には、植物を栽培し、生物の代謝等による排出物・排気物をリサイクルすることによって、おいしい植物、使用した水、空気をつくり出そうというものです。
ロシアのBIOS-III
ロシアアカデミー支局の生物物理学研究所にある高等植物による食糧供給をめざす研究を行っている315立方メートルの容積をもつ施設で、クロレラ培養区、居住区からなっています。
アメリカのBiosphere-2

(C)Columbia University's Biosphere 2 Center
1991年9月26日から2年間にわたり閉鎖実験が行なわれたアリゾナ州オクラル近郊の閉鎖環境実験施設のことです。
ここには、多様な生態系が存在し、世界初の有人居住実験が行われました。施設は、居住区、農場、熱帯雨林、砂漠、海といった小区画からなります。その中で空気や水は施設内部で循環させ、食糧は居住者自身が生産していました。
これは、未来の月基地や火星基地での生活の模擬体験施設と考えられます。現在は、施設を開放し、世界中の研究者がここで研究を行うことができ、ツアーで施設見学もできるようになっています。
日本の「ミニ地球」
青森県六ヶ所村(財)環境科学技術研究所にある閉鎖環境実験施設です。“バイオスフィア2“と異なるのは、自然の要素をいっさい排除し、“人工の自然”で構成されている点です。植物栽培実験施設、動物飼育実験施設、陸・水圏実験施設から成ります。、将来の宇宙ステーションや月面基地での生活を想定し、自給自足を基本として、酸素と二酸化炭素をバランスさせ、植物を育て動物を飼育し、水や大気を循環させ、廃棄物の処理も微生物の力で行います。
http://www.ies.or.jp/japanese/research/res_simulation.html
http://www.ies.or.jp/japanese/research/ceef.html

閉鎖型生態系実験施設   写真提供: 財団法人 環境科学技術研究所

【地球の将来とテラフォーミング研究の関係】
「地球はどのくらいまでの人口を支えることができるか?」
この論争は、ソクラテス時代からすでに始まっていました。現在は世界人口は約60億人。国連によれば、40年前の食料供給量は一人当たり1日2360カロリー。それが90年代半ばには2740カロリーに増えました。少なくとも2010年までには食糧供給量の増大が人口増加のスピードを上回ると言われています。
しかし、それが等分配されていないのが今日の問題です。飲み水さえままならない人間が世界にはまだ10億人以上もいます。
世界の人口が毎年約8000万人も増えている今、こうした状況が近い将来改善する見通しはありません。だからといって総人口を抑制しても問題の全てを解決するわけではありません。それは資源問題、汚染問題、環境破壊などの問題が伴うからです。地球の定員がオーバーした分の人口を火星のコロニーで全て補えるとは断言できませんが、食糧、資源だけでも火星上で作られるようになれば将来の見通しは明るく、人間も住めるようになれば、なお明るいと考えられませんか?
この問題を積極的に解決する方法の1つとしてテラフォーミング研究があるのです。
 

火星基地構想   画像提供: (株)大林組


(C)2003-2004 NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION