インタープリターの最先端研究施設訪問記
 

矢崎塁 植物からリサイクルを学ぶ
(Mimesis 自然の模倣)


矢崎 塁

植物の生き方から私たちは学ぶことができるのか。理研横浜研究所の一般公開、植物の細胞死を研究する福田裕穂博士の講演「植物の命と細胞の死」を聴いてそんなことを考えた。

福田博士は道管ができる仕組みを研究されている。
道管の働きは、その中に水を通して、植物の体全体に水を送ることである。道管というと耳慣れないかもしれないが、普段よく見かけるもので、バナナの皮をむいたときに見える繊維や、大根をほったらかしておいた時にすじっぽくなるその筋である。
植物は海から陸に上がったとき、体全体に水を運ぶ必要に迫られ、道管が発達した。
実は、その道管は死んだ細胞でできている。

ここで少し細胞について説明しておく。植物の体を拡大してみると、植物の体は無数の細胞からできている。まるで沢山の部屋が集まってマンションができているように、無数の細胞が集まって植物の体はできている。それらの細胞たちは複数の種類に分けられ、道管はそのうちの一種類である。そんな種類の異なる細胞たちも元は1つの細胞、受精卵から細胞分裂してできてくる。そして植物が生長していく過程で受精卵から色々な細胞へと分かれてくるとき、道管は、ある細胞が死ぬことによって生まれるのである。

では道管になる細胞はどのように死ぬのだろうか。
道管ができる過程を観察すると液胞の消失が起こっているという。液胞は細胞の中にある袋状のもので、中に水分を含んでいる。細胞死が起こるとき、細胞中の核などを分解するタンパク質たちが働くのだが、その分解タンパク質たちは、液胞の水分中に蓄えられていくことが、研究からわかってきた。以上のことから道管ができるとき、まず液胞の袋が消失して分解タンパク質たちが細胞内に出され、細胞内の核などが分解されて、細胞死にいたる一連の様子が想像できる。道管ができる過程は、実際にはさらに複雑だが、液胞が消失する時点から、不可逆的に細胞死が進んでいくという。
福田先生が研究材料としているヒャクニチソウ
福田先生が研究材料としているヒャクニチソウ
 
道管と同じように、いろいろな細胞が死んでいく。そして細胞死には、道管のように最初に液胞を分解するタイプの他に二つのタイプがある。一つは葉緑体を最初に分解するものであり、もう一つは核を最初に分解するものである。葉にあるタンパク質の50%は光合成に関係するものであり、全て葉緑体の中にある。そのため、葉緑体を先に分解するタイプでは葉緑体中のタンパク質(窒素)が、がしっかりと回収できるという。これは葉が枯れる際に見られる細胞死で、葉が落ちるとき回収可能な窒素はほとんど残っていない。肥料の中に窒素が含まれていることからもわかるように、植物にとって窒素は大事な栄養素である。そして植物は窒素が常に不足しているという。その窒素を、植物は葉を落とす前に回収しているのである。また核の分解を最初にするタイプは動物でよく見られ、いわゆるアポトーシスといわれる。これは窒素の回収はあまりできない。なぜなら核には「生命の指示書」DNAが入っており、その核が分解されると細胞はすぐさま死んでしまうからである。しかし細胞が一刻も早く死ぬ必要があるとき、例えば細菌などに感染したとき、この細胞死が選ばれる。ちなみに、液胞を最初に分解するタイプも、そこそこの窒素回収ができ、葉緑体を先に分解するタイプの次に、窒素の回収率がよい。

このように細胞死には三つのタイプがあり、植物はその時々に応じ、最も効率の良い細胞死を使い分ける。そうすることで窒素などの資源をなるべく再利用、リサイクルしていることが見えてくる。こういった植物のリサイクルのシステムから学べることがあるのではないか。

リサイクルといえば、日本科学未来館1階「地球環境とフロンティアI」には省エネルギーや新エネルギー開発に加え、リサイクル・リユースに関連した展示がある。展示では、レンズ付きフィルム(いわゆる使い捨てカメラ)やリサイクル・リユースをより行い易くするアイディアを紹介している。このリサイクル・リユースを行う上で二つの問題がある。一つは回収の難しさであり、もう一つはリサイクルコストの高さである。レンズ付フィルムは現像するために、ほとんどの人がカメラ屋さんに持っていくため、ほぼ100%近い回収が可能となる。しかしプラスチックにおいては10%程度しか回収できず、残りはゴミとして燃やされたり、埋められている。また歴史の長い紙でさえ、かつてはリサイクルコストが高くなり、回収した紙が売れないことがあった。このように人間社会のリサイクル・リユースは発展途上にある。

講演では、植物が細胞死の工夫をすることで窒素の回収率を上げていることを知ったが、植物は他にどんな工夫をしているのか。回収率を上げるにはどんな工夫があるのか、コストを下げるためにはどんな方法があるのか。いずれの機会にか、ぜひ聞いてみたい。そんな科学の楽しみ方、自然に学ぶという楽しみ方について気づかせてくれる講演だった。

さて、講演の後、一般公開中の福田博士の研究室を訪ねてお話を伺い、日本科学未来館の展示についてもご紹介した。すると早速その翌日に来館され、1階「地球環境とフロンティアI」のエリアに植物関連の展示があることで、「少し安心した」とおっしゃっていたそうだ。というのも私達の話から5階「生命の科学と人間」のエリアに植物関連の展示が少ないことを気にされていたからだ。「環境問題や食料問題を抱えている人類にとって、植物の研究、植物を用いた技術というものが問題解決のために、今後非常に必要になる。」福田博士はそう考えておられ、お話した翌日すぐ来館されたことは、その思いをよく現しているようで印象的だった。

写真提供:福田裕穂、小原圭介


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